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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
9章 惑星を創る 世界を造る
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72話 ゲームだったら人類滅亡級の魔法があるらしい

 俺たちは、あの魂の器の近くにもう一度向かった。時代は数百年後。器を作ろうと言い出したあのリーダーが国王となって作ったエルシアという国の北東部にあたる。例によって森に降りて人里に出て店を探して地図を見せてもらった。


 ゲームで世話になったエル・ルシエンには、エルシアの首都ルシエンがある。大雑把に言うと南北にひとつずつ開けた場所があり、細い道で繋がってバーベルのような形状に広がる街から、いくつか細い道が切り開かれつつある森の中に伸びている。エル・ルシエンの東の端にあった集落よりさらに東も、少し開拓されつつあるようだ。


 静かな森の国といったイメージを持っていたが、町の様子を見ていくと、百年近い間戦争や内乱でぼろぼろだということがわかってきた。とくに北部と西部がひどい。百年間で王は二十人ほど代わったという。


 拡張をやめたはずのツァーレンに宣戦布告されて始まった戦争は、休戦と再開を繰り返し、先代の王が使わせた新型兵器による土壌の汚染を恐れた長期の休戦と、疲弊した国を憂いた兵士や下級役人の反乱による王の暗殺によって実質停戦となった。さらに、空白期間を経て即位した今の王が正式な終戦協定を結んだ事によって過去のものとなったはずだった。


 いい奴じゃん!と思いきや、国内の廃墟を生み出しているのも今の王様なのだ。ということを立ち寄った農家のおじいさんが教えてくれた。王は心身を病んだことによって、魔法力の制御がきかなくなっているのだという。時々ガス抜きのように魔法をぶっ放さないと、ふとした弾みで力を暴走させ、国の何パーセントかがクレーターになるだけの素質があるらしい。


 そんな奴からどうやって波動を採取すればいいんだろうか。




 首都ルシエンまでは北端でも歩いて数日かかる。まずは、このあたりでもっとも大きな敷地を持つ王の離宮へ向かった。門番はあっさりと敷地に入れてくれた。庭園は人々が自由に見学できるように整備されているのだと、一緒に門をくぐった地元民に教えてもらった。


 小さい頃親が見ていた映画やドラマでしか見た事のない、薔薇に囲まれた広い芝生。隣には、低木でできた緑の迷路。これまた広く、小さい子が十人以上走り回って遊んでいる。そうやって遊んでいる子を追いかけたり眺めたりする親たちも見える。

 色々な花の木々に隠れるようにたたずむ小さな休憩所で老夫婦が仲良く談笑している。メイドさんがハーブガーデンの手入れをしている。かがみこんで、腰が大変な事になりそうだ。口に出したらシェールにぶんなぐられた。


「年寄り臭い。うん。すっごくジジイ臭いわ。」


 そう思うことは勝手だが人を軽々しく叩くなっての。


 地球のテニスみたいな、小さなボールを打ち合うスポーツのコートがいくつか見えてきた。それぞれのコートの一辺に運動会のときのようなテントが並んでいて、俺たちが歩いてる近くのテントには観客や選手が二十人くらいいた。

 飲み物を売っている売り子に声をかけて缶のような金属の筒に入ったお茶を買い、俺たちがテントに入って飲み口を開けようとしていると、離れた別のコートのテントから歓声があがった。

 何事かと思って立ち上がると、そのテントにこっちの倍以上、いや三倍以上の人数が集まっていて、人の塊が少しずつ動いているのが見えた。


「マルシエ様とカレン様が対戦なさるそうよ。」

「お二人は先日の大会でもご挨拶をなさっておいででしたね」

「陛下も、昔は王妃様方たちとご一緒に楽しまれていたのにねえ」


 ざわつく人々が話しているのを聞く限り、動いている塊は王妃とその側近や護衛のようだ。カレンが正室で、マルシエは側室のひとりだ。

 話を聞いていると、側室たちと正室はとても仲がよく、何人かで連れ立って動くことも珍しくないと分かった。特に、カレンとマルシエは活発な人で、スポーツに興じるのが好きで、仕事として試合の観覧をしたりするみたいだ。二人とも、王妃らしくないというか、肩より少し短い髪をしている。

 俺たちは他の客に混じって、二人の試合を見るために移動した。試合の後に何とか近づいて、接触しておきたい。


 ボールは柔らかめで、そんなに早く飛ぶようにみえないし、他の試合ではなんとも思わなかったが、二人の王妃の打ち合いは凄かった。小柄なカレン王妃が素早い動きであちこちに決め球を打ち込むのを、マルシエ王妃は必死で腕を伸ばして打ち返す。


 打球音が続いて、観客も次の選手らしき人も、じっと見守っていた。見とれていると、審判がホイッスルを鳴らし、そこで打たれた球をカレン王妃がラケットに納めようとしたときだった。


 観客や選手の一部が急にかがみこんだり、倒れた。シェールとユイは頭痛がすると言い出し、フェーニアも頭をかかえながら近くの支柱にもたれかかった。異変を察したカレン王妃は、ボールを納めたラケットを放り出して側近に走り寄り、てきぱきと指示を出していった。そして、近くの人に話を聞き始めた。


 俺たちのところにも王妃は周ってきた。王妃が心配そうに声をかけると、ユイが


「魔法だろう。」


と返した。会話になってない。


「誰かが、大掛かりな魔法を使おうとしておるのだな。だから、エルフや碧眼、魔法の素質がそれなりにあるものばかりが、消耗するのだ。」


 カレン王妃は、どうしてそう思うのか、ほかに原因は考えられないのかとユイに聞き返した。

 王妃は言う。医療術士が治癒魔法を習う以外、魔法を習うことが禁じられて百年も経つし、魔法を習うための本は研究用にいくつか保管してあるものすら処分されたところだ、と。

 魔法を使える人が、離れた土地に住むエルフ以外にいるはずがないし、渡ってくるときに、魔法を使うと永久に追放されるか、場合によっては処刑されると教えてから受け入れることになっている。さらに、魔法力を制限するアクセサリーをつけられる。


 フェーニアが波動を感じる事について話しはじめた。聞いていた王妃は何も感じないから他の王妃達に聞くと言って側近を使いに出した。


 王妃のなかに碧眼の人が居て、具合が悪そうだったがフェーニアの話が詳しく聞きたいといって俺たちを庭の東屋のひとつに招き入れてくれた。


「魔法で間違いありません。よくご存知でしたね。」


 碧眼の王妃ルキアは、冷たいお茶を一口飲んでから言葉を発した。王妃らしく感情をはっきり見せないようにしているのはさすがだが、驚きが隠しきれていないのか、語尾の調子が安定していない。


 俺たちが魔法を使えることとフェーニアがエルフだということをばらし、魔法を使おうとしている者がいるはずだと伝えると、王妃達は少しざわついた人もいたけどそこまでショックを受けた様子はなかった。

 ユイがその魔法をやめさせないと国が滅ぶだろうというと、王妃達はルキア以外驚きを隠さなかった。魔法を止めるために協力したいから何か思い当たる事があれば話してほしいと俺たちが申し出ると、ルキアは他の王妃達に落ち着くように言うと、話を続けた。




 ルキアが側室として嫁いだ次の月のことだ。彼女は王や正室であるカレン王妃が外交のために国外へ出ている間、宰相と共に議会へ通い、国の政治を担っていた。

 王の評判は二分されており、経験も威厳もなく他国に舐められる若造、もしくは国民に寄り添う不器用だけど穏やかな政治を行う優しい王というものだ。


 エルシアは日本に近い、君主+国民議会という形態をとっている。国民議会は若造なんか手玉に取れると見込んで王の即位をすんなり認めた。

 王が腐敗の元となるカネや人の流れを正したり、議会が先送りにして実行しなかった政策をさっさと進めたりして、議員の評判ががた落ちた。

 そのため利権に浸かっていた議員やその支持者たちは王を嫌い、議員たちにうんざりしていた国民は王を支持した。


 国民を想う王と、王を支える国民。一見、良好な情勢を、エルシアは維持している。

 では、なぜ王は国を滅ぼすような魔法を実行しようと思ったんだろうか。


「陛下は、他国の元首に格下に扱われたり、悪い考えを持つものに騙されたり、人が別の誰かを虐げる様子を目の当たりにして、人を信じられなくなりました。

 私達后や一部の側近のように近しい者以外の皆全てが、本当は自分を王として認めていないのではないか、自分は疎まれているのではないか、とずっと思い込んでいるのです。」


マルシエ王妃が悲しい顔をして目を伏せた。


 原因は王本人だけにあるものではなく、話はとても重かった。


 初代国王から数えて百七十七代めにあたる先代国王は、ツァーレンの侵攻に対する反撃に熱心で、特需で国内のほとんどが資産を倍以上にした。

 しかし、化学兵器だろうか、新型の爆弾を集落の近くに関わらず投下し、周辺は敵味方ともに近づけない不毛の地になった。逃げ延びた数少ない人々も化学薬品による影響で病気を発症し、死んでいった。


 軍は戦略上の理由もあり、ずっと新型兵器の事を隠していた。現地を目の当たりにした兵も同様に病気を発症するか、精神を病んでしまった。多くの兵を失った隊長の一人が、新型兵器の使用をよしとしない当時の王妃の考えに賛同してクーデターが起き、一時的に王政は廃止された。


 現在の国王ミューセリアは、前述のとおり、復古第一号だ。クーデターによって没落した貴族の子として育ち、議会の腐敗による王政復古派に見出された。即位する数年前に見出されてから、王族としての教育を学び始めたという。

 周りの国の君主や首相は多くが五十代以上で、もう二十年以上務めている人もいたという。舐められ続けたせいで、ミューセリア王は弱さを見せまいと、心を閉ざしていった。


 さらに悪い事に、ミューセリア王は幼い頃に大怪我をして全身ほぼ義肢や人工の組織に頼っているせいで、特有の病気が進行している。

 この病気は、初期に手術を受け薬を体内に入れるか、旧式のものを最新の人工組織や義肢に全て取り替えるか、外してしまうかしないと治らないそうだ。

 チャンスを逃したり、費用のない人は、痛み止めと症状を少し緩和する薬を飲み続ける。それでも治りはしないので末期にはガンのように耐えがたい痛みのなかで死ぬのだと側室の一人が涙を流しながら話してくれた。


 でも、この世界は、人工組織や義肢の技術は地球よりはるかに進んでいて、使用者は多い。王と同じ病気の患者は大陸じゅうに大勢存在するし、完治して再発しない人も珍しくないそうだ。


「それでも自分は他の人間と同じになれない。そう、陛下は書き残しておられます。そして、我々王妃と陛下本人のみが知っている事があります。」


 世間では、ミューセリア王は身分などの偽装によってクーデターから逃げ延びた先代の王の息子だということになっている。しかし、本当の父親は先代の王ではなかった。王に愛情を抱けなかった王妃が、選ばれてから嫁入りするまでの間にわざとつくった子だった。しかも、ミューセリア本人は見出される前に、本当の父親によってそれを宣告された。


 エルシアでは、姦通した王妃は引き回しとなる。クーデターを生き延びても、息子の出生の秘密がバレていたら、その王妃は刑によって死んでいた可能性が高いだろうな。


 先代の王妃の現在の国内での評価は、強気の王に負けずに口出しするわがままな王妃というものらしい。唯一の好評価ポイントが、クーデター勢力を操る事でおぞましい新型兵器の存在を公表し、その使用を一発で終わらせた事だ。凄いことだと思うんだが、それを押しやってまで言われるわがままって、どんだけだよ。


「即位した後には、先代の王妃様の汚名を少しでも晴らすためにと、陛下は熱心に公務をこなしていらっしゃいました。自らが良き王となり、良き家庭を持ち、それを国民が認めたとしても、真実を明かせば国じゅうが混乱、或いは議論が巻き起こるでしょう。」


 折角まとまってきた国をまたぐしゃぐしゃにしてしまいたくない、というわけか。


「隠しとおせる保証なぞ何処にもないのですから、どうするべきなのかは誰にも分かりませんが、考えうる最善の機会を、想定しておかねばなりません。

 せめて、それまで、王を支えていかなくてはというところで、身元を隠して陛下のおそばにいらしたお父上が亡くなってしまったのです。」


「それから急激に陛下は体調を崩され、一時は私達で代われる限りの全ての公務を代わりに行っていました。五年経った今、陛下はお姿を見せる事もありますが、それでも、外出は最低限にとどめております。」

 

 案内された東屋に、庭園で撮った写真が飾られていたので、国王ミューセリアの顔を知る事が出来た。王妃達に囲まれて笑っているが、よく見ると、目の下の化粧が変だ。クマを隠しているのがよく分かる。前の会社員時代に見た女性社員でたまに見る事があったから知っている。

 そして目線が微妙にどこか遠くを見ているようにも見える。写真を撮ったときにはまだ四十歳になる前だったというが、十年近く年上の側室の一人とつりあうんじゃないかというやつれた雰囲気を漂わせている。座っている車椅子が存在感を発揮していて余計に国王は弱々しく見える。

 

 ルキア王妃が正室含む他の王妃たちを手で制した。


「そのような折に、陛下はご両親の遺品から、恐ろしい魔道書を見つけてしまったようなのです。

 母君の家系は、古くは神官の一族で、素質を見極める儀式を必ず行ったそうです。陛下も同じ儀式を行い、魔法の使い方を知ってしまったに違いありません。そして、様々な魔法を、見つけてしまったことでしょう。」




 現在の王は、両親に関わる事となると王妃や子供たちの言葉ですら耳を貸さない、と正室のカレン王妃がおっしゃるので、まして他人の俺たちが何か言ったところで魔法が飛んでくるかもしれない。


 ユイとシェールの力で何とかならないかとも考えたが、ユイいわく、波動の流れ的に時間をかけて育てていく魔法らしく、抑えられるだけの魔法を即時で唱えるにはユイがドラゴンとして本気を出してようやく実現できるかどうか。実現できたとしても相殺のときのエネルギーで国全体が更地になる。


 俺たちは、魔法に関するヒントとミューセリア王の両親の情報を求めて、王の父親がよく通ったという『王墓の丘』へ向かう事にした。王妃様方のご厚意で、兵士用の簡易的なものではあるが宿泊施設にただで泊めてもらう事ができた。兵士の食堂は使えなくて食事はセルフだが気にならなかった。野宿やらなんやらを思えば十分贅沢だ。




 朝、まだ日が昇らない。肌寒さを感じる。山に囲まれた田舎では真夏でも布団がいるのを思い出す。王の側近の一人と、王妃全員、十人以上いる子供たちの中から成人間近な王子兄弟とその下の王女一人を連れて、護衛も数人のみで、『王墓の丘』へ向かって北上を開始した。

こうのとりの打ち上げや把持を見ながらビールと焼き鳥で乾杯できる人間でありたいです。

(酒飲めないので飲まないんですよね…

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