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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
9章 惑星を創る 世界を造る
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68話 餅じゃないけど餅になる

(・ω・)またも饅頭回である。

 女王の国ニェイの南から北上し、あと数日でシュエより北に至るというところまで何事もなく進んだ俺たちは、比較的穏健な国に入り、休息を取ることにした。別の国々の兵士が買い物をしているところや、商人や旅人が商品や持ち物を売り買いする交渉をしている姿を多く見る。戦乱を避けて、みんな穏やかな国に集まるのだろう。


 この町は、東方では珍しく、波動生物が町を闊歩している。ユイから聞いた話では、


仮想ゲームのなかより実際のほうが広く分布していたが、東方では分布はしているはずだがなぜか姿をあまり見せない」


とのこと。


 そういえば、ゲーム中では、東方の町でも少ないながら波動生物は確かに見ることができた。八百屋の野菜をじっと見つめて追い払われていたり、人間が食べられないような捨ててしまう部分などをもらっていたり、気が付かないうちに人の頭や背中にひっついていたりする。

 しかし、この『世界の記憶』では今のところ、最初のフェーニアの町に数匹いただけだ。前回までは時代が古いからまだあの島以外にはいない。今いる時代だと、おそらくいくつかの港町ならゲーム中と変わらないくらいわいわい賑やかにやってる饅頭どもが見られるかどうかといったところか。


 宿を確保して、開発チームのためのネタ探しも兼ねて散歩していた。町で売っているものをメモしたり、喫茶店のような軽食の店で慣れた白い食パンでも黒パンでもない不思議な食感のパンのサンドイッチが出てきたので何のパンなのか聞きまくって、答えられない店員に申し訳ないと思いつつ食べたりしていた。


 屋外なので、パンくず目当てに小さな鳥が飛んできたりもする。そこに、波動生物が一匹、ひょいっと現れた。パンの端をちぎって、食べるか?と聞くと、そいつはぱっと寄ってきてひったくるように口でパンきれを取っていった。そして、俺の肩の上に乗って食べ始めた。

 俺が食事を続けても、清算して店を出ても、ずっとのっかったままだ。別に邪魔でもないし、そのままフェーニアたちと宿で合流したのだった。宿に居る間、ついてきた饅頭は俺の荷物の上か、るーの頭の上にいた。


 翌日、国を出て街道を辿る俺たちは、近所のどこかの国の兵士に呼び止められた。いわゆるスパイか何かだと思ったらしい。俺がいろいろメモをしていたせいだろう。


 目的地となる国の兵士だったので、ついていくだけ行ってから事情を話せばいいかと思ったが、そのまま牢に入れられてしまった。しばらくして出されたと思いきや、王の前に連れていかれた。この国では、罪を犯したりして捕まったものには、王の前で供述しなくてはいけないという決まりがあるんだと。

 「供述する機会が与えられる」ではないところからして、誘導尋問や脅迫などてんこ盛りかもしれない。突然喋れといわれても、すり合わせもなにもしてないから嘘を言うにしても、四人で一番この世界の事を知らない俺から口火を切るのは不利だ。フォローしきれない事を言ってしまうかもしれない。


 俺たち四人の前に、泥棒だの偉い人に逆らっただので捕まった数人のおっさんがぞろぞろと歩かされていた。ホテルのイベントホールみたいな、妙に天井が高い部屋に連れてこられ、無理やり跪かされた。俺たちもおっさん達も、髪の毛を引っ張られて前を向かされた。ユイやシェールは一応女性だがお構いナシだ。ユイは顔だけ怒っているものの黙っていたが、シェールが痛いだのなんだのと騒ぐので兵士が小突いてくる。すると、


むぎゅっ。


 俺の服の中から饅頭が一匹。あいつだ。宿まで付いてきたあいつである。小突かれたところにいたんだろう。痛かったといわんばかりに、小突いた兵士に噛み付いた。兵士はおもわず叫んでしまって、いかつい王様がずかずか歩いて近づいてくる。背後で宰相っていうの?神経質そうなおっさんが止めようと声をかけながらおろおろしている。

 兵士は叱られると思ってるに違いない。半泣きでごにょごにょ何か言い訳を考えているみたいだ。どんどん王様が近づいてくる。明らかに俺のほうに歩いてきているのが分かる。兵士の声が半泣きというより八十パーセント泣きという雰囲気で俺も怖い。王様は見た感じ身長は百九十センチ以上ありそうだし、がたいもいい。やばい。俺も声に泣きが入ってきた。


 王様は俺とその兵士の前で、なんと、かがんだ。そして


もきゅっ?


 あの饅頭を優しくつかんだ。


「貴様」


 王様が声をかけてきた。低くて太くて大きくて、大声出されたらちびりたくなりそうな声。俺と兵士が同時に返事をした。必死だなって笑いたくなる声だった。はいぃ、と裏返ってるところとか笑いを誘う。こんな場面じゃなければ。当事者じゃなければ、笑う。


「なぜ、神の使いを連れているのだ?」


 俺が何も言えずに固まっていると、あいつがめそめそ泣き出した。肩に上って俺の頬に擦り寄ってくる。


「いじめちゃ、だめー だめー」


 王様は背後でおろおろしたままの宰相(仮)に話しかけた後、兵士に少し後ろへ下がるように命じたようだった。ようだった、というのはまた現地語だったからだ。兵士は繋いでいる綱を緩め、数歩さがった。

 王様はそのまま、俺に話しをするよう促してきたので、あいつが前の町でついてきた事と、自分達は旅人で、竜人であるユイの手伝いをしているのだと話した。順番に話をさせた王様は、あの饅頭を俺の肩に戻すと、俺たち四人を解放するように命じた。


 俺たちは一転して客扱いになった。ふっかふかなベッドのある寝室を一人一部屋ずつあてがわれ、返された荷物を置いたあとは食事だ。大きなちゃぶ台というか丸いテーブルの上に料理を盛った皿が所狭しと並べられていた。取り皿と匙が用意されている。それぞれの料理には長くて大きな匙がついていて、自分で取って食べる。取ってもらえるのは王様とその家族、外国の要人だけらしい。

 食べながらでいいから聞くようにと王様があの太い声で話すので俺は急に緊張してきた。




 このギェン国とその周辺には、新年に日本の鏡餅のような、丸い餅を飾る風習が古くからある。専用の台を神棚のようにほこらにおいて、餅を作るお祭りを行い、出来た餅をおき、年末に飾り立てる。飾った餅は、全てほこらの近所で分けて食べてしまう。


 数百年前のある年、何代か前の王が生まれた年で様々な祭りが盛大に行われた。もちろん、飾り餅作りも盛大に行われ、各地で普段より一回り以上大きな餅が作られ、飾られた。

 しかしある地域では、新年を迎えて餅を分ける際に、乗っていたものが餅ではなく波動生物だった。その波動生物は餅の代わりに祈りを聞き届け、その地域の人々と本来飾られるはずの餅を分かち合った。

 それ以来、その波動生物と餅が飾られるようになったその地域は神の使いが降りた場所としてパワースポット的な扱いを受けるようになったらしい。そして、今の王様はその地域の出身である。

 現在では、波動生物がいつの間にかもう一体発見され、ほこらのそばだったためにそのまま神の使いの次世代として扱われている。




 翌日、王様と共に「神の使い」のほこらで謳う三体の波動生物がいた。なんというか、大餅と小餅と饅頭だった。思わず口に出していたらしく、シェールが笑い出し村の人が不審そうな目を向けてきて俺は肩を落とした。

 肩に乗って謳っていた饅頭は俺の頬をぺしぺし叩いて励ましてくれた。お前、いい奴だな。ユイとシェールはそのまま大小餅と何か話しはじめ、終わるのを待ってから俺たちはこのギェン国を出て地球に帰った。

(・ω・)回は楽しいですが、私のやる気がなくなっていきます。

いろいろ、どうにでもな~れ、という感じになっていくのです。

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