64話 長耳族といわれていた頃
ヨーロッパの森とか日本の森とは違う、東南アジアとかアマゾンとかにある熱帯雨林のような巨大な木々。どれも背が高くて、幹が太くて、葉が茂っている。田舎のほうで育った割には木の名前とか全然知らないけど、そういう森にあるような種類の奴だということは分かった。そんな木を眼下に眺めながら、俺たちは日差しを気にしつつ、森の上空を進んでいく。意外とあっさりと、少し開けた道が見える。目的の町だろうか。何か言う前にユイが高度を下げて、俺たちはさっと土の道の上に降りた。
数人歩いているが、少ししか驚いていない。エルフはドラゴンと交流があるからか。ドラゴンが来たから驚いているのではなく、むしろ人間(俺)に驚いているようにも見える。人間の存在は知っていても、まだ記録に残るようなはっきりとした交流がない時代だからそんなもんか。人間に対しては、エルフは『長耳族』と名乗っている。聞いている限り、現地語だとエルフェンとかエルフィとかエルヴィンとかいう風に聞こえる。
適当に声をかけて、この村に、この一帯の長老がいるかどうかを尋ねた。この町ではないが、ずいぶんと近づいた事は間違いことが分かった。ユイやフェーニアでさえもっと手前の町村じゃないかと思っていたみたいだったが、もう、数人の護衛をつければ歩いてでも十分につける距離の町だ。ついでに、地図を貰った。
エルフの森の町は、一定以上大きくなると全滅でもしないかぎりは町を放棄したりしないから、あとの時代でも書き足して使える。フェーニアの持っていた地図は、離れているからかこのあたりは大雑把にしか書かれていなかったので、あとはもう少し手前と、東の端に近づいて地図を買えば、ほぼ森の全てを把握できるんじゃないかな。地図を買った商人に、違う地図も全部見せてもらったが、そう上手くはいかなかった。まあ、目当ての村は分かるんだしいいかな。
時間はあるから、先に護衛の人を雇って打ち合わせがてら食事をして、それから出発する事になった。魔法は俺とフェーニア、ユイがいるので、護衛二人はエルフには珍しい大剣使いとロングソード使いにした。シェールは、魔法を使わせると抑えている波動が駄々漏れになって神様バレとかそういうヤバいことになるので、道具係にした。どうせ長老格にはバレるが仕方ないしさすがに騒いだりしないで居てくれるだろうから大丈夫だろう。
護衛に店を選ばせ、フェーニアに聞きつつ注文した。
ゲームではかなりお世話になった兎肉のシンプルなステーキと、何か分からない魔物の肉(『動物』といわなかった……)の凝った香草焼き。それから野菜と果物がそれぞれボウルにてんこ盛り。それも一人ずつ器がある。食べきれる自信がない。俺の顔を見て察したのか、シェールが、
「残ったら全部たいらげとくから、遠慮せず好きなものを食べたい分食べていいのよー?それにユイちゃんがたべるっしょ。」
お気楽に言ってくれる。いいのかそれで。友人としての付き合いはそれなりあるとはいえ、野郎の残飯だぞ。人間やめたらますます分からない奴になったなあ本当に。
エルフは休憩時間というか、ティータイムか。あれにこだわる。出発してしばらくしたらフェーニアが岩陰で休憩する支度をはじめ、護衛二人は動物や魔物避けの罠を張り、フェーニアに指示を仰ぎだした。あっというまにハーブティが出てきた。
今回のは、どくだみ茶のような、強烈に苦いというか濃いというか、独特な味だった。ユイは平然としているが臭いが嫌だと言い出し、シェールと俺は口の中が苦くなって、水を所望した。
木陰で手洗いを済ませ、飲み水に使えない水で手を洗って、方角と道を確認しながら進むと、二~三時間くらいだろうか、村が見えてきた。先頭で走っていったアルビノに角を生やした人間?とあとを追う竜人にめっちゃくちゃ驚いている。先に行くなと言ってはおいたが、着く前に念押ししておくべきだった。
そのままずんずん入り込んで長老の家に突入したユイとシェールがさっさと事情説明したおかげで、俺たちがつく頃には、早速儀式を始めるための準備ができあがっていた。
見慣れたエルフ式の樹がからみつくような家と違い、地面につくられた建物の広い部屋。長老と、十人以上うろうろ動き回っていた巫女たちが輪のように立ち、ユイとシェールに合わせて詠唱を始めた。まるで、外国のすごい合唱団を見ているような、厳かだけどどこか優しさを感じる詠唱だった。
数時間詠唱したあと、俺たちはそのまま客人として歓迎された。薄暗くなり始めていたから、さすがに急いでもさっきの町に着く前に夜になってしまう。
かといってユイの体格では五人乗せるのは難しい。捕まるところがない人が出そうだ。少し旋回したら誰か落としてしまうだろう、とユイ本人が言うので大人しく食事をいただいて、さっさと休む事にした。
翌朝、夜明けより少しあとに出発し、地球の十時くらいか、昼前のティータイムの時間に町に着いたので、護衛にお金を払って別れた。




