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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
9章 惑星を創る 世界を造る
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61話 溶けた鉄の塊のような/大きな鉛を飲み込んだような

 宇宙遊泳の体感装置みたいだ、と紡は思った。障害者支援の団体の招待で遊びに行った巨大な科学技術産業館にあった、子供から大人まで遊べるカプセル型の体験型装置だ。ネットワークダイブで、地に足の着かない感覚に人より数倍慣れているが、やはり立つところが無い状態は心まで不安定にされるような気がして、彼女は考えないようにした。


 十二人とユイは、軽く円陣を組むように寄り合って、どろどろの岩の塊を囲むように不思議な空間に浮かんでいた。体はそのままに、全員が同じゆったりした白いローブのような長いものを身につけていた。


 この岩の塊が、新たなシェイリアになるのだと、ユイが言う。見ている間に、溶けた黒い岩の塊は真っ赤な溶岩に覆われ、ふつふつ、ぷつぷつ、煮えたぎった。理科の授業で見た、地球誕生のCGを思い出す人が何人かいた。


「こうやって、惑星の誕生と成長を、辿っていくのですね。子供を生んだら、こんな気持ちになるのでしょうか。」


 リーザが優しそうに目を細めた。もう少し念を送って安定してから戻ろう、とユイが歌い始めると、十二人はそれに続いて声をそろえた。十二人全員が歌い始めたところでユイが指示を出していく。


「お前達はこの新たな星の神となる。

神となった自分を思い浮かべ、自分には必要な力があるのだと強く念じよ。

そして、雨をふらせるのだ。

もっと、

もっと、

強く念じよ。

それでは足らぬ。

星が冷め、大海の生まれるまで、雨を降らせよ。」


 十二人は思い思いの念じ方で、雨を降らせようと念を送り続けた。ユイに十分になったと言われて星を見つめると、海しかないかと錯覚するような、水に覆われた蒼い惑星がそこにあった。

 アミールとラーシュ、ケイリーは姿が消え、紡は姿が変化した。三人は約束どおり魂が使い尽くされ、紡は神として生まれ変わったのだ。ここまでこれば中断しても大丈夫だ、とユイが言い、八人と一柱はサーバールームへ一度帰った。




 神となった紡、シェールローフェンを見た明典や社員たちは驚いた。シェールローフェン本人は、ガラスに映る自分の姿を見て、新しい服を買ってもらった子供のようにくるくる回ってはしゃいだ。姿は少し透き通っていた。

 休憩のために八人が仮眠室へ移動すると、四つの遺体が残された。社会的には、四人は急な心臓麻痺や病気による衰弱による死として扱われることになる。念のため病院に搬送され、検死を受け、それから合同で葬儀が行われることになるのだ。




 数日おきに八人は念を送るために儀式を繰り返し、少しずつ惑星を成長させていった。惑星に降り立ち、海の中で生まれた細胞を眺めたり、原始的な藻や植物が少しずつ地上を覆っていくのを確認したり、まるでカンブリア紀の爆発のような、へんてこな生き物に驚いたりしながら、惑星の観察に勤しんだ。

 ユイはシェールローフェンと共に長く惑星に滞在し、念を送った。地球上なら恐竜が繁栄するような、温暖な気候が占める状態の大陸に、波動生物をいくつか放ったことで、効率が上がったが、もちろんシェールローフェンとユイにしか、実感が湧かなかった。




 地球では四人の葬儀が順次行われ、親族との連絡に手間取った紡の葬儀は、転生からまる一週間は経ってしまっていた。葬儀は紡の家族の希望で簡素でやや独特なものになった。

 それだけならまだしも、シェールローフェンがパソコンを通じて平然と葬儀に参加していた。『上位端末』のデータのやりとりに必要があって、彼女は神となった状態でも元の自分の端末を通じて会社のパソコンを扱えるのだった。


『生前葬じゃないのに自分の葬儀に参加できるのは神の特権だね!!』


 シェールそのままの、端末から流れる音声。明典や、彼に呼ばれて参列するために訪れたかつての仲間たちの『中の人』は面白がったり、苦笑したり、がくっとコケたりした。


 紡の家族は複雑な視線を送っていた。明典は事前に紡から、家族とうまくいっていない旨を聞いていた。そして彼らの様子を見て、単にケンカしたとかそんなものではないことを、十二分に理解できた。紡の伯母だという、快活なおばあさんだけが、テーブルに置かれた紡の端末に話しかけ、ミミやユウキのプレイヤーたちと気軽におしゃべりを楽しんでいた。


「みんな、つむぎちゃんと仲良くしてくれて、ありがとうね。」


 おばあさんはそのお礼だと明典たちを食事に誘った。彼女は紡やシェールの話を聞きたがった。ひとりがエピソードを話し出すと、そこから別のことを思い出し、話に花が咲いた。食事を終えても、夜遅くまで話をした。明典が車で皆を駅やバス停、家に送り届けると、最後にあのおばあさんを空井家の前で下ろした。


「あれ?うたいさん、家まで送りますよ?」


 詠は一人暮らしをしていて、そこから来たはずだった。明典が不思議に思って聞き返すと、詠は首を横に振った。


「いいのよここで。どうせ、もうすぐ引越しするの。あそこの家賃より施設に通うほうが安いからって、紡の母親が言うのよ。」


 実の妹を名前で呼ばない。明典は、紡が家族の話をしない理由と、病院以外で過ごすときに詠のところに居たという理由が分かった。

 俺も家族と仲が悪かったら、同じように厄介払いとして持ち家のどれかに住まわされたのだろうか。明典はそんなことを思いながら、何も言わず詠に挨拶し、寮に戻った。眠気防止に夜はラジオをかけているのだが、うるさく感じて止めた。




 それから、何事もなく商品開発と惑星の育成は進んだ。しかし、旧シェイリアのデータを溶かし込むという決定を下せないまま、開発が停滞した。旧シェルエンネからの、元々ゲーム開発をしていた人はそれなりに人数がいるがプログラマーやデザイナーがほとんどだ。元プレイヤーで補償として入社した人のほうが多い。

 製品として組みあがったあとのデバッグや調整をどれだけ行っても、商品としてのレベルに達しているかとか、売れるためだとかプレイヤーが便利になるかとか、制作者としての見方が不完全だった。だからどこに判断を仰いだらいいのか迷っていた。


 明典たち以外のチームは新旧の携帯電話用ゲームアプリの開発を担当していて、方向性が違う。短期間でリリースし、イベントやバージョンアップをどんどん行っていく。


 操作性を比べるとか、旧シェイリアにゲームとしてもう一度入ってみる必要があると、チームメンバーは考え始めた。それを感じ取ったユイは、育成と平行して行える仕事を明典たちに与えようと考えた。

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