57話 魂の入れ物 波動の素
(;ω;)きのうわすれてごめんなさいばたばたしてました
ユイが去った後、数分だと思う。社内会議用のモニターにアージェヴェルデの社長室が映った。椅子に座った社長が正面から映っていて、そのそばにユイが立っていた。
「わたしは、ユイくんの提案を受け入れるつもりだ。ユイくんの説明ののち、異議のある者はこの場で言いたまえ。」
俺のいる部屋では、誰も異論や文句を言わなかった。社長は、シェルエンネの穏健派の、さらにあのログアウト事件に関与していない社員から選ばれた人だ。俺には、あのときの説明のようなあまり突拍子もないことは、この社長は信じないような気がしていた。
ユイは社長の脇に立ったまま、話を始めた。惑星の再生には、膨大な量の波動が必要になる。まして、単に再生するのではない。再び生命が生まれ、人間たちが育ち、社会が動いていく歴史へ導かなくてはいけない。もちろんゲームで描かれた歴史そのままでなければいけないわけではないが、近い歴史を歩むようにしなければ、『実験』データとなった人々の魂は混乱してしまう可能性が高いらしい。
再生は段階を踏んで行われる。まずは惑星シェイリアだけ作り出し、あとから大まかな歴史の流れに沿わせるために、人間全体としての思考や文明などの波動を追加する。最後に時間経過を加え、ゲーム上に近い、ある程度の歴史が出来上がったところから、確保しておいた空間へ放出する。波動を編む(とユイは言うがよくわからない)術式は竜人が作るので、材料となる波動だけユイと一緒に集めに行けばいいらしい。
最初に必要なのは十二人分の魂だ、と彼女は言った。かつて神々がシェイリアを作り出したときを模して、十二人の人間の体を借りて神の代理となる。ただ、あくまでも代理であり、神になれるわけではないので、最低でも四人は人間が扱えない量の波動のやりとりによって魂を使いつぶして、心が死ぬ。脳や心臓の動きも影響を受けるので、体も死ぬ。
つまり、四人は、死ぬ。
もしかしたら、五人、六人かもしれない。やってみるまで正確な分量はわからない。
地球に帰る事も、神(または神のようなもの)としてシェイリアに定着することも出来ない。
「……十二柱の神のうちの二柱がシェイリアに定着し、創造神として崇められていた。
今回、十二人のうち一人か二人は、その創造神の下位の神として永遠を生きる事になろう。
しかし、残りは皆、その一人か二人の知識や経験、感覚として溶け込み、個体どころか人格を維持する事すら出来ないやもしれぬ。
人間にとってはとても残酷な事だ。見知らぬ惑星のために命を差し出せと私は言っているのだから。だがな、それで手をこまねいていては、またいずれ先のように勝手に魂を集め命をあやめる者が出るのはわかるだろう?
我々のような竜人はそんなことに加担する気はないが、強制する力や条件付けがなされる可能性がないとは言えん。我々の力を使って過ちを犯せば、地球まるごと波動に溶かすことも出来るし、そうしなければならない事態が起こったら、人間にできることなどなにがある。考えてみるがいい。
さいわいな事に、旧シェルエンネの支社は世界中にあり、創設者のことを知っている者もそれなりの数がおるはずだ。
お前達は全て説明し、納得した者たちだけを十二人用意しろ。遅くとも、ひと月の間に。」
俺たちのいる部屋では、文句を言った社員がユイに対案を出せと言い返されて歯軋りをしていた。目線を動かしても、皆座っているか立っているかに関わらず、そのままの姿勢で動けなくなっていた。ただ一人、紡が手を上げて、ひとついいですか、と言った。
「あたしが、その十二人に立候補していいですか?魂擦り切れちゃう係でいいんで。ま、できれば、神様にはなりたいけど、ムリだったら、別にいいからさっ!」
紡の言葉に、モニターの向こうのユイは目を丸くした。そして、静かに言った。
「もちろんだ。その想いに敬意を表し、私と共に、新しいシェイリアの神となることを約束しよう。」
紡はあの義足の形状からは想像できないほど激しく飛び跳ねて喜んでいる。ユイは社長の肩を叩いてからモニターを覗き込んだ。
「それならば、残り十一人。さあ、何処へ行こうか。」
外見が幼い少女だとは思えない、不気味な微笑みだった。さっそく行き先を話し合う紡に誘われて、俺は旅に同行する事を決めた。結局、俺と紡とヒラヌマのプレイヤーである平沼の三人と、会社の上部と話をつけるための上司がひとり、ユイに同行する事になった。
数日後、社長に書状を託された上司・矢元さんを中心とした取材旅行という名目で、俺たち五人は連絡があった支社を順番に訪ねまわる事になった。矢元さんは女性なのでユイを除くとちょうと二対二になる。ホテルの部屋割りに困らないようにという社長の配慮だ。取材旅行という名目があるので、実際に多少の取材もする。会社と関係のないホテルににも泊まることになるから結構ありがたい。三人(二人部屋で一人が簡易ベッド)はできれば避けたいしな。
こんどこそ金曜日投下です。




