54話 戻ってきた日常 変えていく生活
53話までの話数の、誤植(誤変換、消し忘れなどの誤字、人名地名のミス)を全て見直しが完了しました。4月に別連載を片付けて、5月から8章以降を投下します。
やっとのログアウトから半年、俺はようやく治療施設を出所できることになった。家に帰った俺にはやることが色々あった。
事件の補償として、俺はシェルエンネカンパニーを再編したソフトウェア会社の社員となる。今の家から通うのは遠いので、会社の近くに引越しをする。まずはその引越しの段取りを考え、準備しなくてはならない。
それに伴い、ハウスキーパーの契約内容を変更して、管理について話し合わなければいけないし、会社員に戻るのだからスーツやカバンなどを引っ張り出して、まずそうなら買い換えなきゃいけない。手伝いのために村上の同僚であり、俺の同僚となる内藤・斉藤・木藤とともに、計画を練って書き出していく。
三人と同じように、村上も出所したら会社に通う事になる。あいつはまだ食事すら取れずに点滴がずっと刺さったままで、見舞いに行って話しかけても反応は薄い。
シェールの中の人は、ログアウト後体が壊死しまくってるというどうしようもない事情と、本人の希望で、人工器官や電脳をつかった高性能義肢の手術をがんがん進めているらしい。彼女も、少し遅れて俺たちと同じ会社に入る予定だ。先日写真が送られてきた。見た目は高校生か大学生くらいに見える。『あんたよりずっと上』とメールには書かれていたが、一体いくつなんだろうな。どうでもいいけど。
ミミとエリー、ユウキからもメールが来ていた。これからの一年で休んでいたぶんを取り戻さなければならず、勉強に関しては苦労しているようだ。ミミとユウキは、学部が違うが同じ大学を目指している事が分かって、エリーの受ける大学も偏差値が同じくらいだそうだ。
三人は一緒に自習したり塾がたまに開講する集中講座を一緒に受けたりしているとのことで、数日たって来たメールには、土日の模試の結果がよかった、と喜びのスナップ写真がついていた。
ミミは美々香で、ユウキは勇気、エリーは恵梨佳なのでそのまま呼んでも違和感がないのが俺にはありがたい。そんなことを言ったら「テンメイだって明典でも典明でもおかしくないからいいでしょ」とユウキからメールが返ってきた。
俺は典明じゃあないが、まあどっちでもよくある名前よく使う漢字だからな、分かり易いというのは良いことだ。
村上の親戚に大学生の「尚也」という子が居て「しょうや」と読む。初見でこれを「なおや」と読まなかったのは変人だと有名な教授だけだったそうだ。まあその教授は「しょうなり」と呼んだらしいうえ、その教授と仲良くなってゼミもそこにしたと楽しそうに村上に語ったらしいので、尚也自身も十分変人だと俺は思ったんだけどな。
~~~~~
模試の結果を貰った日の帰り、美々香、勇気、恵梨佳は待ち合わせて喫茶店に居た。
もう秋口で外を吹き抜ける風はときおり少し冷たいのが混じる。退院してからもう三ヶ月くらいか。担任の先生はこれだけ追いつけるだけがんばってるなら、このまま頑張り続ければ志望校に十分入れると太鼓判を押してくれた、と恵梨佳は話した。美々香と勇気も、ラインを落とさずにそのまま目指す大学を視野に入れている。
補償はこれから続くし、残っている謎もある。ニュースにP.F.O.の名前が挙がらなくなったとはいえ、さっぱり忘れてしまう事は出来ない。ただ、それを考えるのは大人の仕事、あの運営会社たちが考えるべき事なのだ。任せておくべきだろう。
自分達に考える事があるとしても、まずはせっかく取り戻した日常を走りぬけ、ちゃんと大学に合格すること。それが自分達がすべき事なのだ。三人はそんなことを思っていた。




