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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
7章 あがいてみた、あるいは、あがけなかった結果
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51話 『コード13』 4 声を届けるまで

 十人が波動と空間魔法の研究を始めて八年めであった。彼らが実験的につくった呪文は、発動はするものの、


『その機能は、起動中のソフトにより制限されています。

ソフト側の設定を変更するか、ソフト製作会社にお問い合わせください。』


という黒いウィンドウが、呪文を実行したミミの前に現れるだけであった。


 VR機械の専門家として呼ばれたヒラヌマが指示を出して呪文を少しずつ変えてみるが、多少文面が違うだけで「機能に制限がかかっている」という内容は変わらなかった。


 P.F.O.側からかかっている制限だというなら、あのコンピュータに頼めば少しは改善するかもしれないと、シェールは考え、転送石で遺跡へ向かったが、話を聞いても専門家でも何でもないシェールではヒラヌマとコンピュータ側双方の内容が理解できなかったりして、必要なやり取りに時間がかかってしまった。

 やり取りしながら完成品の呪文を作るため、十人は一週間ぶんの食料などの旅支度をしてあの遺跡へ転送石を使って飛んだ。


 事情を説明されたコンピュータは、制限を全て解除する事は出来ないが、いくつかは緩和する事を許可すると答えた。


『いくつかの制限の緩和あるいは撤廃と、条件の変更を行いました。術式は通りやすくなるかと思います。』


 半日待たされた十人は、コンピュータの声に礼を言うと、既に夜だったので食事と睡眠をとって翌日から研究を再開した。




 ひと月ほど作業とコンピュータとの対話、呪文の開発を行った十人は、ついに、シェールのVR機械の機能の一部を再現する事に成功した。

 まずは、VR機械に保存してある、テキストデータを読み出せるようになった。次はテキスト以外のデータの読み出し、その次はメッセージの閲覧。少しずつVR機械から情報を引き出したり、VR機械にコマンドを送ったりできるようにした。

 あとは滞在が一週間を越えるので時々物資を補給し、コンピュータ側も遺跡の空間の一部を解放してくれた。


 VR機械の外、つまりはネットへのアクセスを可能にするには、さらに一年以上かかった。




 ネットにアクセスするだけ、つまりブラウザを立ち上げた画面を表示するだけの状態からさらに数年、ブラウザそのままとは行かないが、閲覧と少しのページ移動ができるようになった。そこからはコツを掴んだのか、数日後には攻略wikiの数十ページを読めるようになった。


 攻略wikiを覗いたことで、十人は知りたい事のいくつかの答えを得た。

 タイムラグがなければという条件付きだが、こちらで十年以上過ぎているこの『現在』が、リアルではログアウト不可から半月ほどしか経過していないこと。そしてもうひとつのサーバー・アルテミス/クズリュウサーバーはこちらのログアウト不可から一週間ほど余分に通常のゲームを続けた後に休止中となったことだ。


 時間の圧縮率だけは確実に、コンピュータは約束を守ったことを実感し、十人は少し安堵するのであった。




 さらに数日かけて、全く開けなかった攻略wikiの掲示板を開けるようになった。その日は、表示されたボックスに書き込みをして送信ボタンを押したが、数時間後に見てみると最初の三字のみが書き込まれた状態であとは投稿日時の表示がバグっていて年・時・分の文字と空白だけになっており、ランダム文字列で表示されるIDは桁数がおかしかった。


 呪文を実行したミミと書き込みをしたシェールはすぐに八人を集めて報告した。八人は他の作業を中断し、とにかく書き込みできるようにしようと決めた。翌日にはテスト掲示板で実験して八文字書けることが分かり、雑談用のスレッド(話題)に

『かえりたい』

とシェールは書き込んだ。書き込みを確認すると、やはり投稿日時は空白で、IDも前と桁さえ変わっていた。


 十人は案を出し合って、三導師で魔力や体力が切れるまで交互に呪文を実行し続けた。この掲示板に書き込みができれば、リアルの世界へ自分達の状況を伝えられるのだ。


 運営の正体だとか信じられないような内容は無理でも、故意にログアウトできなくされたことと、今までどうしていたかだけでも、伝えなくてはならないという使命感が十人にはあった。

 NPCの二人にとっても、問題が解決しなければこの世界を今まで全く知らなかった『運営』という存在に自由自在にいじり倒されるのだと思うと、まずは問題を『宣託者』の出身である『りある』の世界に伝え、対抗策を求めることはとても有効な事だと感じられた。


 しかし、どんなに改良を施した呪文でも、五~十文字しかメッセージを送れないまま物資が滞り、行き詰まりを感じた十人は補給と、発想の転換や別の資料やアイデアを求めて集落へ一旦帰還した。


 メッセージは毎日ひとつずつ、シェールが送り続けた。


『おなかすいた』

『かえれない』

『ごめんなさい』

『なにしてるの』

『たぶんだいじょうぶ』


 シェールは朝自分で呪文を唱え、一言書き込んでからエルフの魔法使いのもとで魔力を高める修行をするのが日課になった。ひと月以上、途切れず毎日、彼女はメッセージを送った。

次回は明日25日に投稿予定です。

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