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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
7章 あがいてみた、あるいは、あがけなかった結果
67/100

50話 『コード13』 3 忘れていた電脳

やっと50話まできました。

(番外があるので全部で55回くらいあると思います。)

このエピソードはもう少しで終わりますが、話はまだ続きます。

 ミミとシェールはエターから選りすぐりの魔法使いふたりを滞在している町に呼び、コンピュータとの対話とエルフに伝わるより高度な魔法の習得と研究を始めた。

 呼び出されたふたりの魔法使い・フィリアとメーリンはミミとあわせ『三導師』といわれるほどに魔法の技能が飛びぬけている。


 標準種を中心とする社会では、文明の浸透で不便さが減り魔法は冒険者が必要になったら使うものである。あるいは古い文明を調べる研究者が古文書や壁画を読み、仕掛けをとくために仕組みだけ習っておくものである。

 ツァーレンのように無用と見る国でなくても、国の持つ軍隊では魔法は個人差が大きすぎて作戦に反映しづらく、疎まれる傾向にある。どうせ相手もあまり使ってこない。やがては使う人や習う人そのものがいなくなるだろうという予測があるほどだ。


 ゲームとして破綻した今の世界では冒険者の多くを占めるPCが魔法を失ってしまったからなおさら、中級以上の魔法を使いこなせる人は(ミミたちが教えるしくみを作るまでは)それだけで神官であるとかおめでたいもの、珍しい存在として崇められる。


 しかし、『人間』全体に広げれば、魔法に関する研究分野のうち、ミミたちが触れたことのある部分はまだまだ氷山の一角に過ぎないと、エルフの中級魔法使いは語る。標準種の魔法使いの階級とエルフのそれはかなり異なる。標準種のそれと近いものもあるが、魔法の区分の仕方さえ違う派閥もある。


 呼ばれた理由は、もちろんエルフの魔道書の研究である。突如、必要になったのだ。





 きっかけは、メニューの機能を魔法で再現できないか、という話だった。

 簡素な空間魔法を開発して魔法使い以外でも『倉庫』の代わりにものを持ち歩けるようにしたり、アイテム欄や着替えマクロの代わりになるような呪文があるといいとか、チャットのようにメッセージを伝え合える方法があったらいいとか、要望はいたいそのあたりに収まった。


 そのときに、シェールが、メニューが使えなくなる前にやっておけばよかったんだ!と叫んだ。周りは何事かと思いつつ続きを待った。

 元あったメニューにはVR機械のメッセージ機能やネット閲覧機能を限定的に使える項目があった。その項目をもっと活用しておくべきだった、ということだ。そして、再現できたら、外部にとりあえずの無事と、外からの対策を頼むことが出来る。


 シェールは以前本人が集会で述べたように、プレイヤーが重度の身体障碍者である。シェールの奔放さで忘れられがちだが、基本的にベッドの上で横たわって生活していることが多かった。それにしては、彼女は重度のネットジャンキーだった。キーボードを打ったりマウスが使えなくてもポインタを動かしたりといった補助をする義肢もあるにはあるが、シェールいわく『めんどくさい・だるい・おそい』とのことで、義肢や人工臓器を管理するために脳に埋め込んだ『電脳』と呼ばれる演算装置をそのままネットに繋いで、他の人にはとても理解できないようなビジュアルで彼女はネットサーフィンを楽しんでいたのだった。


 それに、シェールのVR機械は電脳に合わせて、通常のVR機械よりも簡単にネット上のページを読んだり書き込んだりすることができる。電脳とVR機械の機能が合わさり、まるでSFアニメのハッカーのイメージ映像のような主観映像でネット閲覧することも可能だ。メニューからの限定仕様でも同様の『潜り方』ができるらしい。


 話をしたシェールは、始めたごく初期しか使わなかったから忘れてた、と言いながらぽかぽかとギャグ漫画のように軽く横の人の胸を複数回叩いた。ミミたち三人の魔法使いは、機能に心を奪われた。


「詳しい人を探して、検討する価値はあると思います。いいえ、必ずあります!」


 珍しくミミは強い口調で声をあげ、シェールはミミたちの手をとって頷いたのであった。




 それから『三導師』とシェールは、いつの頃からか姿が見えないシュクレがVR機器に関して多少一般人よりは知識があるということを思い出し、テンメイを呼んだ。テンメイは本人は自覚が薄いが魔法の技能がかなり上位なこともあり、立ち上げる研究班のメンバーに加えられた。男性が一人では動きづらいだろうと、エルフの錬金術士NPCミューティアとその友人で地元出身のNPCリュクーシア、PC出身で男性の中では魔法スキルが高くシェールと付き合いが長いアルブレヒトをメンバーに加えた。


 八人は通話の魔法の印を互いに結び合い、シュクレを探すようにエターの人々に頼み、自らも出発した。


 八人はシュクレを探しながら、他にVR機器に詳しい人はいないか訪ね回った。運営の裏をかくことが出できるかもしれない、と言えば、あのアルマゲドン構成員でも話を聞いてくれた。数ヶ月、転送で飛び回り、乗鳥で腰を痛めたりしながら、数人の候補をリストに纏めることが出来たが、シュクレを含め、誰の所在もつかめなかった。あのメッセージ以降からPCであることを皆隠すようになっていたせいで、エターのようにあえて区別をなくそうとした場所以外でも、皆素性を隠し、何度も名前を変えて暮らしたりしていて『PCを探す』ということが難しくなっていた。




 何年もかかって、八人は大陸の東南の小さな国で、リストのうちのひとりヒラヌマを見つけ、さらにシュクレを見つけることができた。

 二人を説得し、人に見つからないよう、細かな地図の無い、ムィルースィとルシエンの間の山岳地帯の奥深くに隠れ家を作り、十人は研究のために篭り始めた。エルフの森に作らなかったのは、森に出て物資の補給をするのが困難なことと、『三導師』と相性のよい力場を探してのことだった。

次回51話は明日投稿します(忘れたり用事が入ったりしない限りは7部最後まで連続で投下します)。

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