49話 『コード13』 2 ぶっ壊せばいいってもんじゃない
ニューディリアの使節団が訪れてから数ヵ月後、過激派組織『アルマゲドン』はエターへの侵攻を宣言し、攻め込んだ。相手の構成人数が少ないのがさいわいして、エター全体を囲んで篭城戦などということにはならなかった。エター側は領内に入った者だけを軍で攻撃し、あとは魔法での牽制に留めてなるべく人員の殺害などはしないようにしていた。
エター側の方針を知ってか知らずか、アルマゲドンは領内へ侵攻し町のごく一部であるが、激しく破壊した。むしろ方針を知っていれば余計に範囲を広げただろう。何度も破壊を受けたエターは、議会のぎりぎり多数の賛同を持って不干渉を捨てた。
テンメイたち防壁の担当者は、修復だけでなく、防壁をより厚くしようとコンクリート精製に向いた土を運び入れては強化の魔法を繰り返した。上ってこられないよう、足場となりそうな出っ張りをとるだけでなく、魔法で吸い付けないようにあえて平らにせず不規則な模様を付けた。
模様は魔法文様も兼ねるように魔法学校の者たちによってデザインされていた。半月戦い、数週間程度間が空くのをくりかえし、戦闘は一年弱続いた。
戦いの過程で、何人ものアルマゲドン構成員を殺すしかなかった。あるいは、自棄になっている者が焚き付けられて自爆攻撃を行ってきた。
かろうじて生き残ったものから回復次第話を聞いた医療班が、議会で自爆攻撃の内容を話すと、議場は嫌な沈黙に包まれた。
アルマゲドンは構成員が激減し、エターは資源が消費されていく。一度アルマゲドンから停戦の提案がなされたとき、エターは一部の資源が枯渇しそうになっていた。
停戦に安心したエター議会は、アルマゲドン側から送られた人物の話を聞いて、たとえ国が滅びようと受け入れてはならないと誓った。侵攻を受けなくなって話し合いの仲介役を買って出たニューディリアですら、中立をやぶって反対するほどであった。
「あなたがたが知る、この世界の成り立ちについて、運営について。これからの世界と我々について。我々も、より詳しい情報が欲しい。
だから、隠している情報を、話を聞いた場所を今すぐ吐け。話さなければ、案内を捕らえてこの国の住民を全て殺す。」
アルマゲドン側がそう言って置いていった紙には、二十人ほどの名前が書かれていた。あの遺跡に行った者たちの名だ。それ以外の者は全て殺すというのだ。エターの議員は、全てではないがあの遺跡で得た情報を共有しており、重大性をある程度認識している。多くの議員は、徹底抗戦を訴えた。
エターは苦しくなる一方、アルマゲドンはどんどんと強くなっていった。大砲など、様々な兵器を開発したツァーレンと交渉し、奴隷や土地、作物などの資源のほとんどをツァーレンに献上するという条件でどんどんと武器を買い入れ、兵士を借りた。侵入は激しくなり、毎回広範囲が瓦礫と化し、跡地にはプレハブ並みの簡素な建物を並べるしかなかった。
名指しされた二十人は変装したり隠れたり一時的に国外へ逃げたりした。国外へ逃げるとツァーレンの工作員やアルマゲドンへの協力者に見つかり、どこかから追っ手が現れる。国内で抵抗を続けたがあるとき一度に十人捕らえられてしまった。そのあとも、数日にひとりくらいのペースでどんどん拉致されていった。
あのコンピュータと対話したシェールは名簿の一番初めに記載されていた。彼女はアルマゲドンに執拗な脅迫と暴力を受けた。たとえ他の十九人が言うとおりにしてもお前が反対すればお前以外の全ての国民を殺害すると脅されたシェールは、ついに案内を了承した。唯一付けられた条件は、コンピュータを破壊しない、というひとつだけだった。破壊すると即座にこの世界自体が危険になり間違いなくプレイヤー全員が苦しんで死ぬからだとシェールは言った。
リストの二十人のうち暴行などで死傷し回復が間に合わない者や既にいない者などを除く十人と、他のエター国民やアルマゲドンから選んだ二十人で、遺跡への旅は再び幕を開けた。メニューがないのでゲームシステム的なパーティーなどは組めないし、抗う理由も無いので、ほぼ全員が固まって移動した。
最初に遺跡に向かったときとは違い、陸路でまず大陸を南下した。様々な植生の森が凶悪な魔物や野生生物で三十人を出迎えた。アルマゲドンの輸入した強力な武器で容赦無くなぎ払い、亡霊化を防ぐための祈りの儀式も最低限に簡素なものしかしない。森でも砂漠でも、寝床を張るときは虫除けやさそり避けの草をたっぷり燃やしてテントの中に香りを送り、装備に焚きしめ、念入りに見張りをした。最初のときよりもはるかに厳しい道のりであるはずが、森を進むスピードは何倍も速かった。
遺跡にたどり着いてすぐ、三十人はあのコンピュータの元へ向かった。床が下がりきり、隣に立つミミの手を握り締めたシェールが声をかけると、数秒の間があいてコンピュータの声がこんにちはとそっけなく挨拶した。壁じゅうがうごめいているように、あちこちで小さな光が点滅したり、かりかり、がりがり、がたがた、と機械が動く音がした。
シェールがアルマゲドンにあらかじめ指示された内容を喋りはじめた。彼女が息を整えて続きを話そうとしたときである。からからから、とガラス瓶が転がるような高い音がして、何かが壁で爆発した。それを合図にアルマゲドン構成員は大砲や爆発物で最初の爆発が起こったあたりを集中的に攻撃し始めた。
「やっぱり壊すんじゃねーか!くそッ!!」
愚痴った中衛職の男の弓入れをテンメイが引っ張り、ミミへ向かって走った。シェールは爆発のほうを振り向こうともせず、ごめんなさい今はだめみたい、と話し、コンピュータに待つよう言った。
シェールの友人が、覚えている限りのアルマゲドン以外の人間をミミのほうへ引き寄せると、ミミをあわせて三人の魔法使いが転移魔法を唱えた。魔法が発動すると、アルマゲドンのメンバーのうち固まっていた者たちが消えた。それから順番に塊ごとに消えていく。
「人選のときについてに話し合っておいて正解だったね。」
シェールが大きく息を吐いた。転移先は最低でも数十キロは離れた森か砂漠の中である。再び向かってきたとして、一日以上かかるだろう。シェールたちはコンピュータが自己修復の範囲だというので修復にかかる期間を尋ねた。そして、転送石のポイントを遺跡の入り口に設定した。
その後、一行はエルフの信号を打ち上げて、最寄りの、といってもそれこそ数十キロ以上離れているが、エルフの集落の人々に助けられた。その中に、フェーニアの知り合いがおリ、遺跡の入り口は魔法で隠され、近くへ寄ろうにも迷子になる空間魔法が追加で施された。特定の印を持っていないとその空間で思うようには進めない。
「とりあえずはこれで、時々様子を見に行けばいいかしら。」
シェールたちは集落で心身が癒えるまで数日過ごした。エターへはしばらく遺跡の警護をすることと、何かがあったらすぐにこちらへ教えるように、と伝言をした。
エルフの信頼関係は固い。様々な交流のおかげで、森も海も関係なく、あのエルフの町やこの集落と友好関係があるエルフ全てが味方になってくれると、集落の長は言った。さらに、集落や町を出たいというエルフがエターの国民になりたいと言って来た。シェールは数人を連れてエターへ戻り、議会へ赴いて力添えをした。森を出たエルフたちは新しい国民となり温かく迎え入れられ、復興と防壁強化のために力を貸した。
次回は明日23日に投下します。




