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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
7章 あがいてみた、あるいは、あがけなかった結果
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バッドエンド『コード4』 下

 アルマゲドン中枢メンバーによるツァーレン大統領府破壊事件から数日後のことだ。数ヶ月ぶりに山中の隠れ家に帰ったミミを、テンメイとユウキは温かく迎え入れた。


「お疲れ様。といっても俺もここに帰ってきたのはあの作戦の日くらいなんだけどさ。」

「おっつかれさまミミちゃん。あ、もう、ミミ様!ってかんじだね。」


 ミミは魔道師の装備品を脱いで普通の衣服のみになり、手を洗って席に着いた。この家には六人でくらしている。テンメイ、ミミ、ユウキ、クルク、ユベール、アクアアルタ。シュクレとエメラルドマウンテンは隣で別の四人と住んでいる。


 停戦のおかげで多少ツァーレンの物資が手に入るようになったので、テンメイが仕入れてきたレーション(戦闘糧食)の缶詰で多少食糧事情がよくなった。

 山中では隣の六人で動物をしとめて食べていることが多く、缶詰のいろどり鮮やかな煮豆を見たユウキとアクアアルタがわあっと歓声を上げた。それを聞いてユベールが北方で手に入れた果実ジュースの瓶をテーブルに置いた。


「とっておきです。魔法使いの必須飲料だって聞き、みなさんにはぴったりかなと思いまして。」


 テレながらカップを並べ、順番についで渡していく。


「ミミちゃんの活躍に乾杯!」

「やめてください恥ずかしいですっ!」


 耳まで真っ赤にしたミミは手のひらで目を覆って首を振った。それでも、本気で怒っているわけではない。口元はちょっぴり嬉しそうでもある。久しぶりに、全員が心から喜び、笑いあった。



 戦闘状態が終わって、ニューディリアをけん制するだけとなり、ほとんどツァーレン軍が役目を担っている。ツァーレン側は大統領が軍に命令を下しているから攻撃してこない。その分リソースをじっくりニューディリアに回せるわけだ。もちろん、停戦や話し合い、降伏を呼びかけていて、逃げてきた人々を受け入れている。


 ヘタな動きを見せたりすれば、あの大統領府と同じように転送爆破しに行くよ、という宣伝が大々的に行われている。同じPCであるニューディリア上層部の多くは、転送爆破の威力とそれ以上の最悪の事態を最低でもおぼろげには想像できる人間である。


 平和的解決なんてせずに弱っているツァーレンを潰すと宣言したPCが現れ、翌日その人の居住地が牧草まみれになり、乗鳥や野鳥、波動生物(・ω・)などにたかられたり、別の人は家が丸ごと無くなり、朝起きたら砂利の上にぽつんとベッドが置かれている状態になっていたという事件が起こった。


 出来るだけ殺生はせず、他の人が笑って済ませられるようなものにしよう、というシェールの提案だった。


 笑いものになるほうがつらいのか、無理やり戦闘を継続させようという人は見かけ上居なくなった。

 実際は残っているのだろうが、数人だけで戦いを始めようにも、ツァーレンは軍人だらけの国だから強固だ。

 アルマゲドンから見れば中級を使えるようになった後輩魔法使いへの訓練になってちょうどいいという感覚であり、実際魔法使いたちが作った妙な魔法の実験台になり、余計に笑いものになるだけであった。




 やがてニューディリアは解体し、再びパルディリアの一部となった。戦争は終わった。領土は細かく分かれた州となり、二つのルシエンはそれぞれ独立し東は『エルーシア』南は『エリューシュア』という国となった。アルマゲドンは山中から出て、州のいずれかやエルーシア、エリューシュア、エターなどに散っていった。


 テンメイ、ミミ、アクアアルタは魔法の力場の研究のためにエルーシアの北東に広がる森に隠れ住むことにした。ユウキは三人に付いていった。

 クルクはフェーニアがいるのとは別のエルフの森の町に住むために旅立った。シュクレとエメラルドマウンテンはフェーニアの家の近くに新しくエルフ式の家を建てた。

 ユベールは長く世話になっていたドワーフ職人家族の元へ帰った。


 シェールは病気に罹り、出会った治療師の故郷である、砂漠の中のとあるオアシスの町へ移って病後の療養をしている。


 ずっとフェーニアの家にいたウィルフレッドは、記憶が混濁し、ウィルフレッドという名前と、数人友達がいたということ以外さっぱり分からなくなってしまったが、フェーニアの元で、その友人の帰りを待つ間に新しい人間関係を作り、手元のノートを元にした異世界の物語を書きはじめた。




 新たな生活を始めたアルマゲドン・ニューディリア両陣営だった人々に、どこからか大量の金品が送られてきた。PC、NPC関係ない。大量の共通金貨・銀貨と、金塊、美しい宝石など、数年は遊んで暮らせるだけはあった。

 受け取った人々は遊びほうけたり、細々と仕事をしつつささやかな楽しみを増やしたりと、楽しい日々を送るのであった。


~~~~~


 ツァーレン・ニューディリア間の戦争が終わって八年経った。ドワーフの魔法の研究のためと、自らの技術を役立てるため、テンメイはムィルースィのドワーフの職人の家に弟子として住み込んで三年程経過したところだった。


 その日の仕事をひとつ片付けたところで、職人の妻がテンメイへ彼宛ての手紙をそっと差し出した。親展でない手紙はその場で開けるのがそのあたりでの習慣であるため、テンメイは差出人を確認すると封を破り、手紙を取り出した。流通している専用の草の安い紙ではなく、様々な野草の織り込まれた丈夫な紙であった。和紙のようにやや厚みがあり、香かなにか、かすかにいいにおいがする。


『テンメイくん、仕事は順調かい?

 君が直したはさみや刃物はとても使いやすくて重宝しているよ。


 もうずっと外へ出ていないのだろう?

 僕は久しぶりに君と話がしたいな。一度休みを取って、うちへおいで。  フェーニアより。』


 ドワーフの職人は、今の仕事が済んだらしばらく休みをやらなきゃな、と言ってテンメイの肩を叩いた。




 数日後、休みを貰ったテンメイはるーを連れて大陸の南側、エルフの港町まで転送石をつかった。それからるーに乗り、道を辿っていく。長く通っていないが、彼らの体はしっかりと覚えていた。


 久々にテンメイが見たフェーニアの家は、前に訪れたときと変わっていた。

 壁を塗りなおしてあり、花壇の花は覚えのないものばかりだ。内装も、店部分は変わっていないが家のほうは様々なものがなくなっていた。

 今は僕とウィルフレッドと二人暮らしなんだ。五人居たときにあったものを一杯片付けたよ。とフェーニアはニコニコしながら話すが、テンメイは表情が硬いままだった。


 台所のテーブルでテンメイが待っていると、店舗からトレイを持ったフェーニアが現れた。柔らかな香りのする温かいハーブ茶と、最近広がりだしたちょこれーと・ぱふぇという生クリームをふんだんに使ったデザートである。


 先に食べて、とフェーニアに促され、テンメイはちょこれーと・ぱふぇにスプーンを挿した。仕事の話や、行商しているときに出会った変わった物品など、フェーニアが何かを質問してテンメイがそれに答えるようにエピソードを話した。


 どれくらい経っただろう。フェーニアはそういえば、と前置きして言った。


「君の世界には帰れたのかい?」


 テンメイは最初意味が分からない風にしていたが、半分ほど減った二つ目のぱふぇを見ていて、ああ、と頷いた。


「もう、いいんだ。別に。」


 別に、大丈夫だし。テンメイはそう言って席を立った。


「ごちそうさま。今日の茶葉はこれに合ってていいと思うよ。」


指先でぱふぇの入れ物をはじくと、テンメイは出て行った。


~~~~~


 その『異世界』たる地球。大都会のどこか。巨大なサーバールームに人がいた。紺の作業着は新品のように汚れも無いが、その人の顔はやつれており、長時間何かの作業をしていたことが伺える。

 サーバーにつながれていないパソコンにマイクが接続されている。そこにいる人はマイクに向けて話し始めた。


「シミュレーションの新しいデータへの更新が完了しました。明日か早ければ今日の夜にでも次がはじめられますよ。」




(『コード4』に分類される分岐のひとつ

/PC側はあまり動かず諦めかけの状態で、運営側がPCのデータをコピー、サルベージして変換。NPC化。

この場合、PCはログアウト不可少し前からの記憶があいまいな状態で解放される。)


次回は18日前後に投下します。

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