バッドエンド『コード4』 中
別サイト連載用の準備の一番最初の段階が片付いてほっとしています。
あとは小説として仕上げなければ……。
さらに一年が経過する間に、アルマゲドンがかなり劣勢になっていた。ニューディリア+ツァーレンとの戦いは毎回三十人程度で二百人前後を相手にしなくてはならない。
戦略の違いや魔法の優位性などで、なんとか一気に叩き潰されずに済んでいるという、奇跡的な状態であった。
魔法部隊のトップスリー・ミミ&フィリア&メーリンは新人のある程度の育成のあとずっと隠れて健闘していた、奇襲作戦のための魔法の研究の一応の成果をアルマゲドン中枢で発表した。
彼女達が研究していたのは、『倉庫』を魔法で再現できないかという疑問を発端に始めた、大量のものを自由に持ち歩く空間魔法の人間への応用である。つまり、複数の人間を一度に送り込むいわば転送魔法の拡大版である。
『倉庫』魔法のほうは、ゲームの『倉庫』には及ばないものの、箪笥ひとつぶんくらいの容量に、数トンまでの重量まで収納できるところまで開発した。いまのところ使えるのはトップスリーと空間魔法に長けた一人だけであるが、普通の魔法使いでもアイテムが倍は持てるようになったため、アイテム係を付随させずに済み人員の節約になっている。
肝心の転送魔法は、そこそこの魔法使い二人で合わせて五人が飛べるようになった、とメーリンが言った。
「アタシともう一人いれば最高で七人はいけるけど、あとがダルい。
実用レベルはまあ四~五人てとこ。
安定して七人でもいければ、一軍全員で殴りこみかけれるんだけどね。まだなんか足りないのよね。
呪文も改良してるけど、上位の子でも限界がきちゃってる。確実に何人か耐え切れない子が出るからまだ無理。」
そこへ、重装備用の装束を着た男性が手を上げた。
「仮に、今の魔法部隊全員でやったら、何人飛ばせる?
そのあと、どれくらいのことができる?」
ミミは視線を前に向けたまま首を少し下げ、目をつぶってしばらく考え、それから答えた。
「今一度に出してる三十人なら、飛んだ後に、半数はしばらく動けないですけど、あとは回復や補助を数回なら使えるはずです。
メーリンの言うとおり、増員にはとても対応できません。」
さえぎるように別の男性の声がかかる。
「これ以上待っても、俺たちが先に潰される。そんな作戦より、飛ばせる人数でできる案を考えるべきだろ。
例えば、奇襲するにしても手薄な場所にするとか、目的を決めてピンポイントに行くとかさあ。」
ミミは再び目を閉じ、腕を組んだ。その間、他の者達がああでもない、こうでもない、と案を出しては穴だらけだったり人間や資源が足りなかったりで破棄されていく。
数時間経ち、食事をしようというときに、ミミは腕をほどき、目を開けた。
「例えばですが、もしツァーレンの大統領の居場所が分かったとします。
一番強い人ばかり集めたパーティがひとつあったら、暗殺できますか?
パーティふたつならどうですか?」
翌日から、転送魔法の精度向上と建物の間取りなどを探るため、隠密スキル持ちの人間を送り込む作戦がおこなわれた。
忍者の装束に見える、着物のように黒い前あわせの衣服と最低限の胸当てと篭手をつけた六人と、転送魔法を行う六人の十二人を二組用意し、交互にツァーレンにかなり近い場所の建物へ送り込んで持ってきた情報だけでその建物の見取り図や周りの地形、道などをどれだけ正確に割り出せるか試した。
情報を纏めたところで実際に戦う前衛を転送し、確認をする。
十日目、四つ目の建物の確認をした前衛が戻った。司令部はメンバーを絞り込み、まず数人の隠密係と魔法使いを旅人に偽装して少しずつ送り込み、連絡を待った。
数日後、ひとりの魔法使いが一度戻ってきた。
ツァーレンの下級兵士向けの教科書を入手し、窓の配置など見た目から分かる程度の大統領府の図を作っていた。内部などそのまま他の者の情報を書き加えられるように空白の明け方や記述の仕方など、工夫がされている。
残りの偽装旅人は、一週間しないうちに、向こうに素性がばれずに戻ってきた。ただ、それ以上は隠し切れないとも彼らは証言した。うまくやれるのは三~五日が限界だった。
一日の休みの間に、大統領府の内部について議論が行われた。部屋の間取りはそこそこわかってきたが、部屋の内装までは分からないところがほとんどだ。
トイレや給湯室、守衛室、通常の議会が行われる議場など、分かっている場所から想像し、様々なパターンを考えるしかない。
全体から、五つほど目星をつけ、そこに大統領がいるだろうと考えて、アルマゲドン司令部は転送場所と時間を話し合った。
作戦の決行日。非参加メンバーの強化魔法でステータスや特殊効果を最大限上げた作戦メンバーは決められた2箇所へ飛んだ。
想定した五つの部屋のうち、AとB二つは廊下を挟んで反対側。CとDはそれぞれ階は上と下だがAとBの近く。Eは同じ階の少し離れた場所だ。
まずX班がAの部屋、Y班がEの部屋に飛ぶ。どちらかが正解なら、正解の部屋のメンバーが暗殺を実行し、もう片方は陽動などを兼ねて暴れる。どちらもハズレなら、X班はBへ移動、Y班はCへ飛ぶ。それでもハズレなら、Dまで壁や天井をぶちぬいて部屋ごとぶっこわす。
綿密な作戦があるべきだという意見もあったが、大雑把に順路だけ覚えておくだけのこの作戦の支持はそれなりにあった。魔法や遠距離攻撃での狙撃よりはよっぽど確実だし、脱出さえ出来れば失敗しようが損害は相手側だけにしかないというのがその理由だ。穴はあるだろうが時間をこれ以上かけられない。
結果から言うと、作戦はあっさりと成功した。最初に飛んだ部屋はAが執務室で、大統領は居なかったが、予備の執務室への経路をメーリンの魔法で見破ることが出来た。そこで予定通りY班が飛んだCに大統領が居たのでそのまま捕縛。
ついでにY班はかなり大暴れし、様々な機密文書ごと部屋は灰になった。しかも、三階のCから数人で攻撃魔法を撃ったら一気に一階のDまでぶち抜けた。
参加メンバーは魔法使いは転送のために精神集中に入り、前衛たちは爆発物などをありったけ使い、さっと引き上げた。
転送で連れ去った直後に、大統領に戦闘の終結と最低10年の非戦を誓わせ、それをラジオ相当のメディアでツァーレン全土に伝えた結果、一部のツァーレン軍人の反乱がおきた。
それを回復したミミたちの土魔法で地面を波立たせたり急激に盛り上げたりして、攻撃できなくし、雷の魔法や支援魔法などで相手の武器を変形させたり破壊して無力化し、アルマゲドンは反乱の鎮圧に成功した。
次回は15日に投下します。




