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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
7章 あがいてみた、あるいは、あがけなかった結果
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バッドエンド『コード4』 上

 世界滅亡を知らせるメッセージから一年ほど経過したころ。PCの人口は五百人程度にまで減少した。大陸にはPCが集まる組織がふたつ、急速に勢力を増し、互いににらみ合っていた。


 ひとつは『ニューディリア』。PC人口は約二百人強。新しいパルディリア、というそのままの名前どおりの場所にある。


 パルディリアの一部にPCが集まって独立した地域か拡大し、あのメッセージの少し前にパルディリア本国を乗っ取った。数ヶ月前から『ニューディリア』を名乗っている。

 全人口は公称で約五百人。数日遅れてあの忌々しい遺跡へ行った者の話が伝わった後も、その時まで生活を続けるだけ、という声明を発表。反発するNPCたちをルシエンのような辺境へ追いやり、傀儡のみを近辺に配置するなどして、国土と資源を独占した。


 ニューディリア政府は成立して即座にツァーレンへ同盟を申し入れ、形だけとはいえ二国間の争いがなくなった。ニューディリア側はツァーレンとの小競り合いによる消耗が無くなり、ツァーレンも別方向へ国を拡大するために兵を向けることが出来て、お互いに得である。


 もうひとつは『アルマゲドン』。あの遺跡での出来事で蜂起したPCが主体となり、とにかくあがいてなんとしてでもリアルに帰り、運営会社を打倒してやる、という危険思想気味な主張をかかげている。


 NPCも多く住む国家であるニューディリアの人口と比べ人数はNPC協力者込みで二百人程度と少ないものの、科学の進んだリアル知識と経験、ルシエンの魔法学園の主席やエルフの大魔道師に匹敵する魔法使いをこの一年で三十人ほど育てつつあり、さらに、『神』への不満を持ったNPCの協力者もごく少数であるがじわじわと浸透しつつあった。


 『アルマゲドン』はNPCに危害を及ぼさないことや、NPCやPCの暴徒を鎮圧してくれることから、妨害などはされないでいた。

 もちろん、積極的な支援など求められようもないのはPCであればどの陣営であろうと個人だろうと同じであった。




 テンメイはドワーフの工房で武器の修繕を担当していた。数日ごとに、転移魔法で武器や防具が持ち込まれる。

 いくつか並ぶ炉はどれも赤々と火がついており、ドワーフたちがせっせと焼きいれたり、叩いたり、水で鋼をしめる音などが続いている。


 テンメイが仕上がった剣を荷物タグをつけて所定の位置へ置くと、交代のドワーフが隣の炉の担当に食事を手渡して言葉を交わしていた。自分の交代時間はもう少し先だ。のどを潤したいけど水筒が空なので、いつもの甘どんぐりをひとつかじってよしとした。


「よう、おまえさん。」


 入れ替わって休憩に向かうドワーフがテンメイに近づいた。持ち込まれた修繕依頼の品を見やって、彼は苦笑した。


「水筒、ついでに入れてきてやるよ。ああ、オレは今日はもう終わりだから気にすんな。」


 テンメイは礼を言うと、水筒をドワーフに渡した。そして、また別の剣を手にとって、状態を確かめる。

 水筒を受け取ったドワーフが工房を出て行き、入れ違いにユベールが入ってきた。修繕品の山を見て驚いている。


「はぁーあ、こっちも全然減らないんですね。次の作戦までに間に合うか心配になります。」


 テンメイは剣を磨いている。専用の油のつぼにどぶりと刃の部分をつけると、刷毛で少し落とし、やすりで端から一定の力でこする。別のつぼにつけてこすったカスを落とすと、向きを変えながら刃を見つめ、筆で印を書き込み、印にあわせて磨いていく。

 満足のいくところまで磨いたら、やすりを細かいものに持ち替えながら仕上げをするのだが、テンメイは表情を曇らせながら、何度目かのカスを落とし、刃を見つめた。


「うーん、これ、違うなぁ。汚れじゃなくて、欠けちゃってる。

 こういうのでも、刃こぼれって言うのかな。『先輩』としてはどう思う?」


 刃の先から数ミリのところに、泡のようにぽつっと点がついている。テンメイに聞かれたユベールは腕組みをしてうーん、と唸ると、点のところを中心にその剣を見た。一度布でふき取り、明かりに向かってかざし、見る。


「ああ、こういうの、最近多い気がしますね。需要が突然増えましたし、安い大量生産品だしで、鋼の質が良くないものが増えてるんでしょうか。

 刃の部分ごと取替えでいいと思いますよ。こないだなんか鋼って言いたくないようなのが来ましたよ。」


 そのまま手馴れた様子で柄やつばなどを外していく。テンメイは外れた刃を所定の場所へ捨て、新品の剣を仕上げる係のドワーフに声をかけた。


「またかい。これだけで何本の新品がつくれるかねえ。」


 魔法で材料の鉄に戻し、節約するのである。


「シュエみたいな、あんな美しい剣は、こちらではオレがいる間に扱えるかどうかだね。」


 新品係はため息をつきつつ、刃だけのものから適当に何本か選び、柄などの部分とあわせて、その一本を使って元のように組み立て、テンメイへ返す。


 シュエの剣はいわば日本刀だ。上質な鋼を鍛え、細身で、少し反っている。西方の剣・アイテム的に言うとロングソートよりもやや短いものがほとんどである。専門職用として、ドワーフや両性族の身長くらいある長いものが存在するが、ここを持ち場にする中でそれを見たことがあるのは最古参のドワーフだけで、しかも、修行の旅の途中、本場で一度っきりだ。

 一応代々受け継がれる革の帳面には彼が書いた図と記述があるが、他の誰も、短いものを数回だけしか触ったことは無い。


 テンメイは安い草で出来た紙を取ると、シュエの刀の鋼、と書いてエプロンの下に着ている下穿きのポケットにしまった。




 ミミは構成員のほとんどが魔法使いという専用部隊を率いている隊長になっていた。

 この部隊は、魔法の使用に長けていることを最重要としている。単に多くの種類を扱えるとか、威力が強いのではなく、場に応じて使いこなせることを必要とする。ミミはその点ではトップだった。


 威力だけならいくらでもそれ以上がいる。しかし、組み合わせて思いも寄らない作用をもたらすなど、魔法の仕組みそのものへの理解は、伝説で語られる魔道師に匹敵するとさえ言われ、本人は恥ずかしくて卒倒してしまうほどだった。遠慮がちな性格で仕方の無いことであった。


 実際エルフの魔法使いの指導者を呼んで最初の十人ほどで色々試した結果、やや誇張されているにしても、彼女が総合的にもっとも魔法に長けているということが証明されて、ミミは満場一致で部隊長に選ばれた。選ばれてからは、責任感や、役立ちたいという志から、厳しい指導者に染まっていくのであった。


 雑草がまばらに生えるだけの砂地で、十人ほどの魔法使いがおそろいのローブとチュニックを着て整列している。一人ずつ、杖や、かんざしやブローチといったアクセサリーなど、媒介を掲げて魔法を唱えると、風や雷、水、石つぶてなど、個々人によって様々なものが飛んで、敵役のゴーレム<土壌生成物>にぶつかっていく。


「オリハさん、もう少し範囲を狭められるように、

 ええと、次は指定の音を足してみてください。」


 最初に撃った魔法使いオリハは元気良く返事をすると、自分のそばに入る別の先輩魔法使いのもとへ行き、呪文について相談を始めた。


「リェンさん、媒介を変えるか増やせませんか?

 せっかくコントロールはいいのに、魔法自体が維持できていません。」


 リェンと呼ばれた魔法使いは肩を落として首を振る。ローブを外すと、チュニックのウェストよりやや上に締められたベルトに指輪やネックレス、ブローチであろう宝石がじゃらじゃら下がっている。それを見たミミはリェン以上に肩を落とした。


「……あとで、合う媒介を一緒に捜しに行きます。そんなに使ってたなんて、早く言わなきゃダメでしょう!?」


 比喩ではなく、本当に雷を落としながら、ミミが大声を出した。後輩達だけでなく、その背後に控える先輩達までびくっと肩が動いた。


 魔法の威力は、素養・力場・使う魔法との相性で決まる。

 リェンは素養はあるが、かなり条件のよい力場でないとなぜか魔法が弱体化してしまうので、宝石などの魔力を補うための媒介を大量に買い込んでいたのだった。


 媒介にも個人や魔法との相性があり、複数持ちが当たり前ではあるが、普通は部位ごとにひとつずつつける。ブローチとネックレスだとか、杖と指輪だとか。

 女子高生のキーホルダーよろしくじゃらじゃらつける人はいないし、音で常時敵の気を引いてしまう。後衛としては間違っているだろう。


 ひとりずつ声をかけ、後輩達は練習に戻ったり、背後の先輩と相談したりしはじめた。ミミはふう、とため息をつくと、後輩や先輩たちとは別の装備をした別の魔法使いふたりとその様子に目を光らせた。




 『アルマゲドン』がニューディリア=ツァーレン同盟の北の山中に潜伏していることから、時折討伐隊が送り込まれる。

 臨時の討伐隊はいつしか正規軍となり、ふたつの勢力はやがて日常的にぶつかり合うようになった。PC同士であっても潰しあいはもはや当たり前になりつつあった。

次回は14日に投稿します。

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