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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
7章 あがいてみた、あるいは、あがけなかった結果
60/100

バッドエンド『コード1』

人によってはデッドエンドよりも後味が悪いかもしれません。

 人口百万人の政令指定都市。県立病院のVR専門病棟には多くの昏睡者がまとまって収容され、そのフロアには毎日のように見舞いに訪れる家族や友人の姿があった。


 有名なお嬢様学校の制服を着た高校生が入ってきた。生徒手帳を開いて病室と名前を確認しながら、高校生は目的の病室の扉をノックした。生徒手帳には『狭山恵梨佳』と書かれている。


「失礼いたします。」


 病室は六人部屋で、全てカーテンがしめてあった。恵梨佳は、窓際のベッドの前で声をかけ、少しだけカーテンを開けてベッドのそばへ近寄った。壁に、彼女と同じ制服がかかっている。


「ユウキちゃんも戻ってこないし、探しに行けば父や母に連れ戻されてしまうし、誰も目を覚まさないし、どうしたらいいのでしょう。」


 恵梨佳はベッドで眠っている少女に学校でのことを話したりして数分滞在したあと、家路についた。制服を着替え、VRマシンをしまいこんだクローゼットの扉を撫でながら、彼女は数日前に登校するときに駅前の大型ビジョンで流れていたニュースを思い出していた。


『新しい被害者の情報です。XX市在住の高校生大嶋勇気さんが行方不明になっています。またXXX市在住の会社員志摩崎敦さんが営業先を訪れた際に倒れ、病院で死亡が確認されました。……』


 画面に映された写真は確かに友人の生徒手帳にあるのと同じ写真だった。しかも、VTRで流されたスナップ写真の彼女は、P.F.O.をはじめてからキャラとおそろいにしようと一緒に作った手作りのアクセサリを身につけていた。不ぞろいな形の自然石を使っていて、まさか全く同じ形のものがあるとは思えない。




 同じ頃、遠く離れた県の国道をバイクで疾走する女性がいた。偶然にも、ちょうど彼女も『大嶋勇気』のこと、正確には『ユウキ・シルバーメモリー』のことを思い出していた。彼女も同じニュースを見て、名前と雰囲気から『ユウキの中の人』ではないかと思っただけで、恵梨佳のように直接の知り合いではなかった。


 再びVR機をセッティングしてプレイすれば、見つけられるのかもしれないとも、女性は考えたが、今は自分の生活で手一杯だ。今も、どうしても自分でないと困ると客先にいわれた会社から呼び出されて、慌てて飛び出していった帰りだ。早く帰って、生まれたばかりの我が子と、彼に悪戦苦闘しているだろう愛しい夫を、抱きしめてあけたい。




 それから数日後から、あらたな被害者は現れなくなった。ひと月ほど世間を騒がせたVRMMO『P.F.O.』プレイヤー昏睡・行方不明事件は原因不明で未解決のままだ。はじめは、プレイヤー全体の数が減少して割合が減っただけだといわれていたが、一週間経っても、報道されないだけでなく本当に被害者が出なくなっていた。




 さらに翌月、狭山恵梨佳は授業中に呼び出しを受けた。職員室から先生に付き添われて応接室へ向かうと、女性の警察官が数人おり、少し何か説明した後、そのまま恵梨佳をパトカーに連れて行った。


「つらいでしょうけど、本人の希望でもあるの。貴女に最初に会いたい、と。」


 連れて行かれた先は、県境をいくつか越えた、東京都心にある潰れたネットカフェだった。


 片付けと清掃に訪れた業者が、三日ほど前から昼夜関わらず微妙に明かりが漏れていることに気付いて捜索したところ、VR機の個室で倒れている大嶋勇気が発見されたのだった。

 VR機の状態から、そのVR機器メーカーの専門家が呼ばれ、接続を解除するための作業が開始され、朝方にようやくP.F.O.との切り離しが成功し、ユウキは数ヶ月ぶりに大嶋勇気に戻ったのであった。


 さらにVR機との接続を解除するための作業と平行して対話が試みられたのだが、大嶋勇気は


「まずエリに会わせて。あとは話したくない。」


の一点張りであった。


 恵梨佳が案内されてノックした扉を開けると、勇気は涙を流した。


「エリ!!」

「ユウキちゃん!!」


 恵梨佳は勇気の体をぎゅっと抱きしめた。専門の設備が無く、服はいろいろなものでひどく汚れていたが、そんなのはおかまいなしだ。


 そのまま接続解除まで数時間、二人は手を繋いで黙っていた。女性警察官がタオルや着替えを用意してくれたので、恵梨佳は自由になった勇気と一緒にネットカフェのシャワーを使って体を洗いっこした。




 勇気ははじめに、恵梨佳にだけ自分がどうしていたのか話した。


 親とP.F.O.について喧嘩し家を出てすぐに上京したこと。

 翌日たまたま浮浪者が従業員入口から入っていくのを見て後をつけ、ネットカフェの施設が使えると知ったこと。

 一番良さそうな部屋を選んでマシンをはずし、自分のを繋いでP.F.O.を再開したこと。

 プレイ中に、突然PCがいなくなったり別人のようになってしまったこと。

 何人か、何事もないPCもいたこと。

 遺跡の中で謎のコンピュータに運営が宇宙人とか未来人とかの子孫だとかいう話を聞かされたこと。

 どうすればいいか分からず、遺跡に居座っていろいろ質問したり試したりしたけど何も起こらなかったこと。

 たまに外に出たら天候がめちゃくちゃなときがあったこと。


 最後に、急に眠くなってそのまま寝て気が付いたら知らないおっさんに囲まれていたこと。自分が女子として(いや、たとえ男子……それどころか大の大人でも!)かなり恥ずかしい状態になっていたこと。




 それから二人は、運営のこととかヤバそうなことだけは省いて、警察や専門家に丁寧に話した。その日、何人か勇気のように行方不明になっていた人がどこからか見つかり、皆似たような証言をしたことと、その何倍もの人数がその一日の間に昏睡もしくは死亡し、運営会社が昏睡者の治療の全額補償をしたことなどを最後に、数ヶ月で事件は忘れられていった。


 勇気がネットカフェに入った日から見つかるまでの期間などの認識の差や謎めいた部分は、VRによる時間感覚のズレとして処理されるなど、矛盾や疑問はゲームやプレイヤーの感覚のせいだとされ、誰も深く追求しなかった。




(『コード1』に分類される分岐のひとつ/急進派が突如データを全削除した場合)

次回は13日(金曜日)ごろに投下いたします。

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