45話 終わりを探すはじまり
「どうすれば帰してくれるのかなあ?」
シェールの質問に、声は答えた。
『シミュレーションの今フェイズを終了させることです。例えば、先にあった全世界での災害で、合計8割以上の「人間」が死滅すればその時点で次フェイズを開始する準備に入るため、あなた方は強制排出されます。』
誰かが、俺たちを何だと思っているんだ!と叫んだ。津波のときに高台での輸送や補助魔法を手伝っていた一人だった。見回りで浮浪者の死体を発見し、埋葬も手伝っていたメンバーだ。俺も叫びだしそうになっていた。爪が手のひらに食い込んでいく。
「要は、何か条件を満たせばいいってこと?
それなら、その条件を教えて。できれば、正解に近いやつを、できるだけ全部。」
シェールは怒りの声をあげる数人を後ろへ下がらせ、冷静なまま会話らしきものを続ける。
『終了条件の全提示は不可能です。』
声は返してきた。
『条件は多岐に渡っています。細かい条件を含めれば、現在までに三万種の終了条件が規定され、満たされてきました。
そして、生命には倫理的観点から理解を得られないもの、あるいは、近似により判別できないものなど、こちらとしても提示の意味がないと判断する内容もあります。』
なお、俺たちにわかるように大まかな条件を箇条書きで示すとか、そういうのは条件同士が複雑に関係していてできないという。
声がいうには、条件を満たしさえすれば、全員を解放する、つまり強制ログアウトして俺たちは帰してもらえる。その間生き残っているだけでいいらしい。
しかし、一旦死ぬと、VRに関するデータ管理の都合で、五感だけでなく本人の精神や、場合によっては身体に影響を及ぼし、最悪は死に至るという。
精神に影響が出ればよぶんなトラウマというか恐怖などが残りカウンセリング行き。もっとひどければ正気が吹っ飛んで檻付きの病院へ行くことになる。
身体に影響が出ればリアルに怪我をしたり、同じように手足が吹っ飛ぶだの胴体に穴が開くだの、もちろん放置すれば死ぬしかない。
声は付け足した。
『なお、あなた方が、私がお話した内容を全て破棄し、相応の動きを起こさなかった場合、あと三十年の経過が必要となります。時間感覚の圧縮を最大限にした場合でそちらの時間が約1年以上必要となります。』
普通、ログイン時間が連続1週間を越えるとハウスキーパーや病院から連絡が行って、専門の業者が保護に来る。おそらく、俺たちのリアルの体は、VR機と繋がったまま既に収容されているはずだ。
機械の接続や電源を切れない状態だろうから、開発会社にあるようなカプセルをそれぞれのプレイヤーのところで展開して、点滴や排泄用の生命維持装置ががっつり装備されてるはずだ。
しかし、俺が今までに知った限り、持つのは装着からふた月くらいが限界のはず。それ以上は装置の清掃や点検、設備や装置まるごとの交換が必要になるからだ。装着したまま半年通して作業を続けさせた開発業者が逮捕されてる。
ログアウト不可の時に時計がバグったし、声が言うには圧縮率を変えたらしいが、それでも今からひと月程度は必要らしい。限界ぎりぎりだな。
声はもう言うことがないとばかりに丁寧な別れの挨拶をして聞こえなくなった。数分後床が上昇し始め、元に戻った。俺たちは何も言わずに身支度をして外へ出た。夕日がまぶしかった。
ぼうっと夕日を眺めながら歩くと、久々に公式からのお知らせウィンドウが視界にポップアップしてきた。のんきなチャイムが余計に苛立ちを倍増させる。何人かが悪態をついて足元の石や地面、木などを蹴っ飛ばした。
メッセージ内容はっさきまでの話の、不自然すぎる要約だった。
『世界は滅亡する。
生き残るためには、使命を果たせ。
帰りたければ、生き延びろ。
死は 死のまま残される。』
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これまでの丁寧な文章とは違う文体に、
ほとんどのPCが戦慄あるいは絶望した。
次回で6章は終わりです。
7章を2月に投稿して、数ヶ月空ける予定です。
半分以上かけているので、なんとか今月くらいのペースで投稿できそうです。




