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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
第6章 世界が終わる前に
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43話 誰も得しない真実

このエピソードの最終章を半分強書き終えました。最後がとても手ごわいです。

 多少耳障りなくせに、合成音声は滑らかに喋った。


『あなた方は何故ここへ来たのですか?』


 近くの人と顔を見合わせていると、シェールが答えた。


「疑問の答えを見つけるためよ。

 ……わたしたちは、記録ノートを見つけました。そこには、この世界にあってはならないもの、私たちの世界のことが書かれていた。そのノートに書かれた足跡を辿って、この建物を見つけ、入った。中を探索していて、ここにたどり着いた。これでいいかしら。」


 シェールは隣にいた調査班からノートを受け取り、声のする方向へかかげてみせた。俺たちの世界、リアルで売っている大学ノートだ。

 声はしばらく反応しなかったが、唐突に、


『何故知ってしまったのか。』


とだけ喋った。


 何のことか分からない、と誰かが言うと、そうか、とだけ言って声は止まった。シェールがノートを調査班に返し、再び話しはじめた。他の者は疲労で眠ったままか、黙って聞いていた。


「あたし達の認識では、あたし達は、自分の本来居る世界からこの世界に呼ばれて、それに応えて来ているのは知ってる?

 でも、呼ばれてこっちに来られるのは、いわば、魂や心とかそういうものだけだとわたし達は聞いていたし、実際わたし達は何かを持ち込んだりはできない。だけど、こんなものが、あるってことは、わたし達と同じ世界から、物を持ち込んでいる人がいる、あるいは、今までにいたってことでしょう?

 どういうことなのか、あたしたちは知りたいの。」


 声は、その疑問の答えが含まれているかどうかは保証できない、と前置きした上で、話し始めた。


『私は、この世界を統括する、マザーコンピュータです。あなた方にとっては、「げーむさーばー」と言えばいいでしょうか。

 この世界は、あなた方の魂に由来するもの以外すべてが、私の計算結果に過ぎません。私のほかに、それぞれの「げーむさーばー」として独立した筐体が存在し、必要があれば、他の筐体や「あなた方の世界」にある上位の筐体と、リンクします。』


 シェールは、一度話を止めるように頼むと、意味が分からず混乱しているNPCの人たちを声から遠ざけた。なるほど、彼女が面倒な言い回しをすると思ったら、彼らへの配慮か。

 突然、お前は私に作られた幻だっていわれたら、精神的ダメージは計り知れない。


『逆に言えば、私たちは、惑星シェイリアに関する全てのデータを管理し、演算し、結果を「P.F.O.サーバーデータ」として排出し、変換処理された結果を最上位端末に報告するものです。』


 ちょっと待て、つまり、ここにいる俺たちは、惑星シミュレーションの中に異分子として放り込まれたデータだってことか。NPCはシミュレーションデータの一部分に当たるわけだ。


 でも、コレで分かるのは、ゲームサーバーがゲーム内の世界の変化として反映するだけでなく、何かゲーム以外の目的があり、ゲームとは別の形のデータとして運営のもつ別のスーパーコンピュータとやりとりしているということか。


 どうしてノートを持ち込んでるのかとか、持ち主は何のために、何を調査していたのかとか、肝心なことはさっぱり分からないままじゃないか。


 俺たちが黙っていると、コンピュータは話の続きをはじめた。まるで昔話を読む人のようだった。

 内容はこんな感じだ。






 あるとき、惑星シェイリア(ゲームとしてはシェーラ)は世界戦争や災害で荒廃していた。ちょうど未来世界みたいな感じだった。シェルターに篭り外をうかがうだけの生活になってようやく、人々は簡単に争いを捨てることが出来た。当然、遅すぎた。残った人の少ない、あるいは高年齢や低年齢に偏ったシェルターは人が減っていき、死滅した。シェルター同士の通信はずっと生きていたので、どこが死滅し、どこが生き残っているのかは分かっていた。




 どれだけ経っただろうか。通信の生きているシェルターで生き延びているのはたった十人になった。惑星の最大の人口は十億に近かったというのに、星も、人も、死に絶えようとしていた。


 ひとりは科学者だった。かれは残りの九人に提案をし、九人はそれに賭けた。科学者は残った通信や防衛などのコンピュータを纏め上げるシステムをつくり、新たに巨大な通信用のエネルギー発生装置を作り上げた。装置から何度か光が発せられた。

 その光を、偶然通りかかった宇宙船が受信し、シェイリアを訪れた。




 訪れた宇宙船の船員を招きいれた十人は、乗組員の同意を得てその宇宙船に乗り込んだ。コールドスリープやワープなどあらゆる設備を駆使しながら地球へ降り立った。彼らはその星をアーシアと呼んだ。


 長旅の果てにたどり着いたアーシアも、荒廃していた。十人は落胆したが、現地の科学者と協力し、タイムマシンを作り上げた。そのタイムマシンは定員五人で、五人の合計と同じだけの重量の物資を載せることができた。使えるのはただ一度のみ、二度と戻ってくることはできないし、失敗してもやり直しはできない。




 乗り込んだのはシェイリアからきた科学者、アーシアの科学者の一人、三人の技術者だった。彼らの体重の合計の重さぶんの、新たなスーパーコンピュータの設計図と部品が積み込まれた。




 五人は二〇XX年、主流のVRマシンの完成よりも何年も前にたどり着いた。たまたま出会った、身寄りのない人々という風を装ってソフトウェア会社を立ち上げ、偽装や制作費捻出の一環としてパソコンソフトやゲームソフト、アプリケーションを開発してしのぎながらスーパーコンピュータを組み立てた。

 何度か会社を変えたりしながらスーパーコンピュータを完成させ、完成後はすぐにシミュレーションを開始した。




 シミュレーションを開始したそのスーパーコンピュータが『上位の筐体』の正体であり、その発展型・改良版こそP.F.O.の運営サーバーだ。会社の頂点にいるのは、五人の子孫なのだ。







 コンピュータは自分をその『上位の筐体』から製作者五人の脳データをコピーして作られた、データ解析システムであると改めて名乗った。シミュレーションの結果の中から荒廃しない未来や惑星の救済に成功したデータを収集し、『上位の筐体』に保存するのが役目だという。最終的に俺たち地球人が宇宙船を作れるレベルに達したところで、その宇宙船のひとつを奪い、再び惑星シェイリアへ帰るという計画を立てているという。


『しかし、「未来」も含めた通算約300万通りのうち、現在まで成功例は見つかっていません。』


 コンピュータもシェールも黙ってしまい、誰も話さなくなった。

次回は19日に投稿する予定です。次の章もこのペースを保てるといいのですがまだ油断は禁物です。

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