40話 あってはならない足跡
(・ω・)用事で忙しくて忘れてて、時間が遅くなってしまった……。
数日後、天気も回復し、水が引いたところで、何人かの有志でより細かな被害状況の確認に向かった。俺は先日同様乗鳥のスキルを買われて、るーではなく荷物引きの仕事をしている鳥を借りて乗っていった。
在ったはずの家々の跡。あちこちに堆積する瓦礫。何日もかけて、写真と記録を残していく。予想はしていたが、被差別階級の人だとか、身寄りがなかったりなどの理由で記録がない人と思われる死体も見た。饅頭生物やエルフの魔法で海上の漂流物や死体を引き寄せ、身元の手がかりが無いか探る必要もあった。
タニーアは比較的被害が少ないが、それでも海に近い家は全滅しているし、港も瓦礫が積もり、留めが不十分だったらしい船がいくつも陸上でひっくりかえっていた。比較的最近にできた村は嵩増しや石垣などもないから、ただの瓦礫の山と化していた。
いくつめかの町で、メンバーの一人がやたらと他の人に話しかけ始めた。乗鳥(と饅頭ども)に食事を与えていた俺にも、そいつは話しかけてきた。麻袋からいくつか瓦礫を取り出して、俺に質問した。
「これ、船の部品だと思うんだけど、だれか分かる人居ないかな。」
俺は首を振った。そのときは、そいつが妙なものを拾って話しかけて回ってるだけという認識だった。
ところが、道中に機械の残骸が散らばっていた。一見単なる船の残骸だ。だけど、おかしい。
海沿いの港町の中で最も大きなタニーアでも、船は基本的に木製だ。削ったり曲げたりした木材に、植物などから作った薬を接着剤やコーティングのために塗って作るんだとNPCの人が教えてくれた。
しかし、その残骸は金属ぽいものが多量にある。ある程度拾い集めると、金属の板を加工したもののようだという人が何人かいた。
報告のために拾い集めると、疑惑はいっそう深まった。復元できそうな部分や、ある程度形が残っている部分を見て、少なくとも俺や、何人かは確信した。小さなボートだ。釣りとか観光用の、ニュースとかでプレジャーボートって言われてる奴。
俺たちは報告の後、まずリアル知識のある人にこのボートについて調べてもらうことを決め、残骸の一部と、発見した位置を託した。それから、残り全員と住民達で片づけを行い、知識のある人でまず最低限タニーア港の機能の回復を図ることを決めた。翌日から作業が開始された。
ひと月後。タニーアの港の残骸が片付き、無事だった船で試運転が行われた。次の月には、少しずつ漁業が再開できる見通しとなった。エルフの森の町から魔法使いと人足が派遣され、瓦礫や土を盛り固めた嵩上げが促進した。
建機なんかなく、鳥や牛に重い石やかごを引かせて運んだりならしたりしていたことを思うと作業効率は素晴らしく上がった。これでるーを休ませてやれる。手伝いに借り出されたせいでるーに運搬スキルがつきやがった。
ふた月後。元の三割くらいの規模でタニーアの漁業が再開された。あと、持ち主を探すために残骸から物を回収する作業が始まった。同時に、タニーアの町の住人の家を、嵩上げした先に移築する計画がスタートした。今月中に家のつくりとか、並べ方とか決めるのが目標だと聞いた。
気晴らしと買出しでアメリアへ行ったが、現地の様子をじかに知らない人が多いせいか、人々は楽観的だった。魚が取れるのならもう大丈夫じゃないか、といわれた。
十回目の『せかい』会議。ボート調査班全員と、残りの団員が集められ、中間発表が行われた。
・ボートの残骸から離れた場所に、ほかに飛行機の残骸があって回収したこと。
・飛行機の残骸の中に乗組員と思われる、リアルの服装をした死体があり埋葬したこと。
・飛行機は比較的形が残っておりすぐに飛行機だと分かったこと。
・高い崖の下に洞窟があり、そこにボートと同じマークをつけたパーカーを着た骨と、奥からノートと筆記具が回収されたこと。
・ノートの記述はリアルとこちらの両方の暦が併記されていたこと。
・確認できるもっとも古い記述は、リアルの暦で言うとP.F.O.正式サービス開始直後であること。
・記述から、何者かがリアルの物質を物質として持ち込むことが可能であったこと。
・持ち込んだ物質をどこかへ運ぶ仕事について書かれていたこと。
VRを使っても、もちろん、リアルからゲーム内に物質を持ち込むことは出来ない。擬似的に、データとして構築してもらい、持ち込んだように見せかけることはできる。
スポーツゲームのように自分の体を使って遊んでいても、あくまでデータで再現された自分でしかなく、プレイヤーの体そのものという実体がその世界に持ち込まれたわけじゃない。道具も同じだ。使っている道具を再現しているに過ぎない。
でも、このノートが、リアルで使用したノートのデータ化したものだったとしたら、こちらで何か記述するたび、そのぶんをわざわざ空けて次を書き、毎回データを更新するという面倒なことになる。それはそれで、どうしてそこまでする必要があったのかという謎が生まれる。
シェールは調査班に、飛行機や船が、リアルではいつのものかを調べて欲しいと頼んだ。そして、自分はボートの行き先を調べたいと言い出した。復興がある程度進み、住人達だけで暮らせるようになったら、必ず調べたい、と。その場にいる半数弱が賛成した。反対する人も、調べることそのものに反対する人は数人でしかなかった。
津波から一年後、リアルの災害と違い魔法の力もあって、生まれ変わった町サン=タニーア連邦市国がスタートした。
メインの都市サン=タニーアとその周りにある小さい町いくつかを纏めて独立国家にした。初代の首相を選出する選挙が行われ、俺たちは警備員や選挙管理員などを請け負った。
改めて、ボートと物質の謎を追うために、シェールの下に団員非団員関わらず有志が30人集まった。五人ずつ六組に分かれパーティを組み、三組でひとつの『同盟』を組んだ。なぜか推薦されて俺は片方の同盟のリーダーにされてしまった。もう片方はもちろん全体のリーダーを兼ねてシェールだ。
「よろしくねーチェリー大好きテンメイちゃん」
何人かが腹を抱えて笑った。俺がかつて検索した名前を呼んでウケている。やめろ俺はテンメイだがあくまでも明典だ。あの子由来のあだなを作るな。そもそも俺はさくらんぼは嫌いだし万が一あっちの意味だったら女の子が言うもんじゃない。ったく。




