表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
第6章 世界が終わる前に
45/100

39話 雨を飲み込むみずのかたまり

今回には津波の到達する様子が出てきます。

まだまだつたない描写とはいえ、直接的というか、

人が比較的間近に津波の接近を目撃するシーンなどがあります。

つらいと思われる方はこの話数を飛ばしていただいて構いません。

(飛ばしても影響の無いように話数を割ったつもりです)

 二十日目の朝。ここ数日の雨もだいぶ弱くなっていた。リアルでいうなら10時前、本来なら商店が開きはじめるかどうかという時間。地球で言うと成層圏?みたいなとんでもない高さにいる見張りの饅頭生物から連絡を受けた饅頭から報告があった。

 本当に、津波が来ているのだと。それも、その饅頭の主観ではあるが、エルフの漁船のでかい奴を飲み込める高さがあるという。饅頭たちが独断で、残ってる頑固者たちを運んでくるという報告が入り、転移魔法や補助魔法の使い手を数人、村の外の、高台ぎりぎりに配置してそいつらを待ってもらうことになった。


 田舎の有線放送のように町中に、基本的に家から出ないように知らせが響き渡り、俺や数人で乗鳥を駆って仮設や本住居を見て周って、外にいる人を見つけたら家まで送り届けた。予想では、昼過ぎから日没までには陸地に到達するという。


 一番早い時間を想定して、きっちり、外を見回る。ぎりぎり生きている軍団旅団チャットをつかって、高台の魔法使いたちとも連絡しあう。数人、饅頭に連れられた人が見えるというが、残っている人はリストを見る限り全部で三桁いる。高台の人もリストを持っていて、チェックしながら周りに気を配っている。




 正午前、今のところ人の肉眼では津波は見えない、と高台の人から連絡があった。饅頭たちも、観測用に二、三匹残して後は撤収させ、子供の相手やけが人の手当て、在宅の急病人の対応と、防護壁の強化をさせている。


 スキルのある人が医者とともに魔法で上空を飛んで病人の対応に当たる。俺も回復や補助の魔法のスキルを買われて、饅頭たちの言語に慣れた人とともに対応に回った。他の知り合いは、ミミが高台へ行ってるし、先輩とエメラルドさんは防護壁にある見張り台の交代要員として休憩中。ユウキは調理のスキルを買われて炊き出しの準備。クルクさんは子供の世話。アクアさんは分からなかった。


 高台のミミによると、リストのうちまだ半分も確認できていないという。饅頭たちは問答無用というか無理やり運び上げているからだいたい運ばれた人たちは怒っている。そういう人を、誰だったかの提案で一人ずつ小さめの、椅子ひとつしかない部屋ばかりの建物に収容していく。

 饅頭たちはじかに顔を合わせなくても意思疎通する方法があるらしく、説明しなくてもどんどんそっちへ運んでくれる。ひどい奴は手のひらサイズの小さな体の何処から出てるのかというような馬鹿ぢからで、運んだ人を勢いよく部屋に放り投げてはさっと扉を閉め、魔法で開けられなくしていく。




 平和ならアフタヌーンティを楽しむような時間。ミミと交代した人から、やっと半数を超えたと教えてもらった。饅頭を増員し、高台に着いた人から人間の案内に代わってもらって、ひたすらに頑固ジジイやら何やらを運んでいく。饅頭の一匹は言う。


「にんげんは よく しにたくない と いう。にゅーたちは ごはんくれるにんげんが しぬの いや。だから もっていく。」


 人間に対する慈悲なのか、自分達の食い意地なのかは置いとくとして、「もっていく」という言葉のチョイスに、妙に納得してしまう自分が少し嫌になるな。あれだけの説得を聞かなかった人があの饅頭たちに着いていくわけないだろうから「つれていく」とは言い難いのだろう。

 だがせめて「はこぶ」くらいにしてほしい。とこんなときでも考えがそれていくのは、恐怖から逃げたいという現実逃避なのだろうか。




 日が傾いてきたころ、高台の人の中にも津波が見えるという人が現れた。避難民を連れた饅頭生物も数百以上に増えた。一人を十匹で運んでいるとして数十人が一度にやってくるのだ。急いで饅頭たちに補助魔法をかけてやったり、空間魔法で動かしたりしていく。俺も初歩だが空間魔法を覚えておいてよかった。軽く感じる魔法を避難する人にかけて、饅頭たちには素早くなる魔法をかけていく。


 俺たち自身が逃げ遅れたらまずいから、十数人ずつ交代でやっているが、魔力の加減でなかなか魔法がいきわたらない。誰も彼も、必死で魔法を唱え続ける。魔法陣を書き続ける。杖を掲げ続ける。饅頭どもも必死に飛んだり走ったりしてくる。暴れる人もいて、時々人から剥がれ落ちる奴もいたが、必死にもとの位置に喰らいつく。


 俺は息をつきながら沈んでいく太陽と迫り来る津波を見つめた。饅頭どもが言うには、最高でも村の境に作った防護壁は越えてこないという。今いる高台も十分安全だというが、一応防護壁より奥へ退避することにしていた。走りながら、高台を越えてきたばかりの饅頭に運ばれる人の腕を引っ張ったり、魔力の残る人が補助をかけたり空間魔法で引っ張ったりして、高台から離れた。




 しんがりの人が防護壁を通過して、俺は防護壁の見張り台に上って海のほうを見た。何人かが同じように上ってきた。高台は確かに無事というか、水を少し被った程度だった。しかし、高台の結構ぎりぎりの高さまで、水が来ていた。高台にぶつかった水が別の波となり、重なってざぶりと高台の上をぬらしている。


 あのまま留まっていたら、あれを、どこまでも広がる濁った青くて黒くて緑で茶色い、水の塊を、あんな間近で、足元をぬらしながら、見ることになるのだ。何人かが吐き気を覚えてうずくまったり、耐えられずに吐いたりしている。そこへ饅頭を連れた人が来て、死傷者なしという知らせをもたらした。その場にいるものは、皆泣き、叫び、隣の知らない人同士で抱き合い、また、いたわりあった。俺も、子供の時以来のギャン泣きをして、そばにいた魔法使いの人に抱きしめられた。




 轟音は夜も続いた。翌朝目が覚めても、耳にこびりついて離れない人が多かったという。俺もそうだ。




 数日後、何人かが調査隊を組んで、被害状況を調べに行った。この世界ではまだ珍しい写真機を、科学の発達しつつある国から借り、被害を写真に収めてきた。

 ほとんどの家々は石でできた基礎のみになったか、あるいはそれすら流されていた。




 饅頭どもが、一人ずつの部屋に閉じ込めておいた人々に、写真を見せ、それでも連れてこられたことに対する不満を述べる人には


「いま いきて これからいろいろするのと しんで おさかなの えさ もう なにもできない。どっちが いい?」


 非情な選択を示していた。一匹が言う。


「いきものは いきているから いきもの と よぶ。

にゅーたちは にんげんのことばに そんなことを おもった。」


「にゅーたちとちがい にんげんは つたえなきゃ つたわらない。

したいこと やってくれる ひとは たいてい いない。

じぶんで じぶんのしたいこと しなきゃ まんぞく しないと おもう」


 話した奴はウサギの毛づくろいのようにくしくしと頬?をこすりながら瞬きをし、仲間の元へ去って行った。

3.11当時、親が緊急時はニュースばっかり見る人で、

食事のたびに建物が流されたりする映像を見ていました。

その少し後に体調を崩しました。

体をまっすぐにして立てなかったり、痛くて腕の可動範囲が半分くらいになったりしました。

被災したフォロワーさん(福島県の方でした)が心配してくれ、

しばらくテレビやネットから離れたほうがいいと言って下さいました。

直接被害の無い人でも事件や災害の映像を繰り返し見ると心身にかなりダメージがある

というのをそのときに知りました。

ネットでは映像を見ようとしなければ見ないで済みますが、

テレビの報道などはもう少し考えて欲しいと思いました。

ネットではかなり言われたようですが、そのあとの色んな報道を見ると、あまり変わって無い気もします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ