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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
第6章 世界が終わる前に
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37話 それぞれの過ごし方

 品物を売りさばいて再び南下する際に、旅団メッセージに『本拠地』に集まろうという内容を書いておいた。こちらで一年経つ間に、『せかい』の会議以外で出会った知人は少ない。

 連絡を貰ったシュクレ先輩とエメラルドさん、エルフの森のダンジョン挑戦中のユウキ以外、ひと月以上会っていないから、話を聞いてみたくなった。


 シュクレ先輩とエメラルドさんは聞いたとおり商人の護衛をしている。ユウキはまだエルフの森にいて到着は翌日以降。


 ミミはずっと騒動を知らず三日ぐらい過ぎてからログアウトしようとして思わず泣き出してしまい、図書館の司書さんたちになぐらめられたと話した。もちろん恥ずかしかったが司書たちのおかげで自分だけではないと早くに知ることが出来たのはよかったとのこと。


 ユベールはムィルースィの集落で熊を狩る猟師に弟子入りしてスキルを磨きはじめ、もう少しで俺みたいに熊狩りで毛皮や食料をゲットできるようになる。


 アクアさんとクルクさんはアメリアから南下した場所の新しい町と二つのルシエンを行き来して人外成分を満喫しつつ住み着いているようだ。仕事は裁縫や革の加工を請け負っているらしい。


 村上……ウィルは見ない間ずっとフェーニアさんの家で思い出せる限りのリアルのことをノートに書き綴っていたらしい。話をした後も黙々とノートに書き込んでいる。


 いないのは引退したドワーフ夫婦を別にすればエリーだけか。決まったところしか動いていないユウキやずっと町にいるミミやアクアさん、クルクさんすら姿を見ていないのだから、ログアウト不可以降、ログインもできなくなったということだろう。ここに来るまでに出会ったPCに聞いても証言を得られなかったしな。


 ウィルだけはやばそうだが、行動できなくなるほどのショックを受けた人がなさそうなのはさいわいだった。もちろん、平気だとは限らないけど、人と接することが出来て、意味のある言葉を交わせて、まずは安心した。

 ウィルにどうしてノートを書き綴っているのかと聞こうとしたらシュクレ先輩が俺の肩を強く引いて首を横に振った。やめておいた。


 ウィル以上に深刻な状態になっている人ももちろんいる。クルクさんの話によると彼女の軍団『くるくる』のサリアさんは数日で心を病んでしまい、軍団本拠地の一室の隅で、床に体操座りしてふさぎこんでいるそうだ。話しかけても反応しないわ、時々動いたかと思うと叫び声をあげるとか。

 仕方ないから交代で魔法で眠らせてクルクさんの滞在先で診てもらっている。出会ったのはあの『最強戦士』騒動の時だけだが、明るくて気さくな頼れるお姉さんという感じだったのに。


 シュクレ先輩たちのいた『トラベラー」の人の中にも同様にふさぎ込んだり心が壊れて妙な行動に走るようになった人がいるようだし、副団長アリスタさんのように姿を見かけなくなった人もいるという。

 人によっては単にP.F.O.自体をやめてしまったのだろうと思うが、先の予定を話していた人もいることから、やはりログインもあれから出来なくなってしまった可能性が高まったな。


 他には、俺のような商人ぽい活動をしている人や、傭兵・用心棒をしている一部のプレイヤーがNPCの間でも有名になってきているらしいというのを先輩から聞いた。やることの無いPCが待遇につられたりしてパルディリアの国民になってツァーレンと戦っているらしいという話は、近くへ行けば真相が分かるかもしれない。100人単位らしいからあのあたりへ入植しようとしていた人たちも含まれているかもしれない。


~~~~~


 夕方近くなり、解散してここで夜を明かす人は準備をしようというときに、近所に住むマテュースさんが訪ねてきたので中へ招き入れた。ユウキが攻略中のダンジョンの近くの町へ帰るのにエルフの船と交渉してあったのだが、その船長が出港できないから船以外の方法を探してくれと言伝していったのだという。

 出港できない理由を聞いてみたが、彼は、船長に聞いても「はっきり分からないから」と言って教えてくれなかったのだと答えた。


 天気はいいし、かなり遠くまで目立つような雲は無い。数日前に少々の雨が降った程度でその雲が少し東側に見えるだけだ。風が少しあるが見下ろしても波で荒れているようには見えない。


 天気予報なんて無い世界だが、エルフは風や波を『読める』種族で、数日ぶんの天気ならはっきり分かる。もしかして嵐が来るのか?気象条件のことなら、予報の仕事をしているエルフから知らせが行って、港に旗が立つはずだがそれもない。亜人や地元の漁師の船は普通に出ているのが少し見える。




 俺とクルクさん、ユウキ、ミミ、ユベール、シュクレ先輩で港へ向かった。漁船の倍以上の大きさのエルフの帆船がひしめいていて、船同士ぶつかってしまいそうだ。港の出入り口ではぎりぎりですれ違う姿が見える。場所が埋まって地元の漁師ともめているエルフの船員の姿もある。俺たちは船員の胸倉を掴んだ漁師を引き剥がしつつ、船員に船が溜まっている理由を尋ねた。


「ああ、他の皆さんには、分からないんでしたね。

 そこの宣託の同胞の方は感じませんか?

 まるで恐ろしいものを前にしたかのように、背中に寒気がするというか、むずがゆい、居心地の悪さを感じませんか?」


 エルフであるユウキとクルクさんに逆に船員が尋ね返してきた。二人を先頭に、海に近いほうへ移動してみる。海のにおいの中で深呼吸して、二人は俺たちに


「ん、なんとなくだけど、分かるかも。

 落ち着かないっていうか、不安なときみたいに、ぞわっとするのが、少し。」


「怖いとか寒気っていうかさ、そこまでじゃないんだけど、それに近いなって思うよ」


確かに「居心地の悪さ」があると言った。


 このまま船が増えると港の機能が止まってしまう。なにがあるのだろう。

次回は7日に投下します。

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