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30話 そういう意味で話題になるとは思わなかった

5章スタートです。5章を年内にアップして年を越す予定です。

 リアルではまだ俺がP.F.O.を始めてから半年ぐらいで、芸能人や有名人がはまっているとかもなく、知る人ぞ知る作品という感じで、VRMMOを扱った雑誌や本の中でもP.F.O.の扱いは小さい。


 メジャーどころが安定しているのと、あまりに沢山の会社が参入していて下を見ればはじめる前の俺から見てもクソゲーだろっていう奴まで幅広く、少しプレイしたらやめられてしまう作品が大量生産されているというのが理由だ。


 さすがに下のほうには見られていないが、マニアックな作品だとか、会社が無名なこともあって『意欲作』とか『挑戦的』とかそんな書き方をされている。

 プレイした感想が載っているのを見れば、おおまかなストーリーもなく何をしていいのか分からなくなりやすいのもあって『退屈』『ただの環境ゲー』『散歩ゲー』という内容ばかりだ。


 それでも、プレイ感想が載っているだけマシかな、と他の多くのVRMMOの記事の大きさを見ながら思った。




 買出しに出かけるときには色んなジャンルの雑誌を見るようにしているのだけど、経済雑誌なんかにも有望な業種がどうのこうのとか書かれた記事に有名作品のスクリーンショットが載っていたりして、意外とVRMMO自体は生活に浸透しているのだと感じる。それでもまだ、あくまで生活と切り分けられる、趣味の世界の話であって、上手くいえないけど、リアルの生活に関係ないものという雰囲気が感じられる。


 公式の側も批判や感想を知っているようで、運営会社やP.F.O.公式サイトのトップページの目立つところに声明のようなもののバナーがあり、クリックするとP.F.O.はRPGであるが、変化する世界を楽しむシミュレーションゲームでもある、みたいな文章が現れるようになった。


 まあ、今までも、NPCなどへの干渉で歴史が変わる、とか書いてあったのだし、そんなに目新しいというか、突拍子も無いことではないと俺は思うのだが、RPGとして売り出してる以上いちいちつっかかる奴は多いのかもしれない。


 実際、五月の連休でサリエル鯖とそのエキストラワールド鯖であるノンモ鯖で、何かの条件を満たしたという理由で歴史のリセットと更新が起こった。


 基本世界は歴史が巻き戻り、PCの持ち物やスキルなどはほぼそのままで、クエストやNPCとの関係などはすべて白紙に戻される(クエストなどでもらえるもののなかには消滅するものもある)。


 未来世界では都市の名前が変わっていたり、文化が変わっていたりするらしい。今回は満たした条件による効果としてノンモ鯖でだけいくつかの都市に緑が少しだけ残っていて多少作物が取れるらしい。


 他の鯖との違いは、PCがパルディリアに加勢しまくってツァーレンを滅ぼす寸前まで行ったということらしい。どうやらあの『最強戦士』の移されたサーバーだと知って納得できてしまったことに嫌悪感というか、背筋にもぞもぞと嫌な感じがした。


 他の鯖では大きな変化は無かったようだ。想定された歴史のとおりに進んでいるのだろう。いくつか、未来世界だけ更新され、同様に緑があったり、人口が増えていたり、都市の数が増えたり減ったりしているが、基本世界の巻き戻しは起きなかった。


~~~


 六月に入り、リアルは梅雨で鬱陶しい季節を迎える。俺は実家の祖母が倒れて母親が病院へ看病に通うことになった。それで一週間おきくらいに二、三日滞在しては実家の家事を手伝うことになった。体力をごっそり削られるから、実家への行き帰りの際にうまい店へ寄ったり、リアルの夜の時間にP.F.O.へログインして眠り、気分だけでも疲れを取ることにしていた。


 下旬に梅雨に入り、祖母が回復して引き上げるとき、俺も一緒に病院まで付いて行った。病院は市内でも巨大といわれるほどの総合病院で、市街にある。


 ついでに昼食を一緒にとろうと家族で食事処へ入った。祖母や祖父の要望で和風の麺屋だ。

 俺以外の兄弟や甥姪はファミレスがいいとか回転寿司がいいとか言いたい放題だったが、祖母の退院祝いで祖母の食べられないところや行きたいと思わないところへ行くのはどうかということで麺屋に落ち着いた。

 俺もうどんとかラーメンがよかったし通り道の店は一通り食べたからすんなりと連れて行けた。


 一角にテレビがあり、昼のワイドショーを流していた。政治家の失言や、芸能人の結婚、火災や交通事故など、とくに真新しいとか、気に留めるような内容は無いはずだった。


 しかし、急に司会者とニュースを読む女性キャスターがうろたえたような声が聞こえた。

 東京の大きなネットカフェで突然十人以上の客が同時に昏睡状態になって病院に搬送されたとキャスターが読み上げた。振り返ると、画面はそのネットカフェの前らしき通りの歩道で、中継しているアナウンサーの前後を人が通り抜ける。


 それだけなら俺は気にしなかったかもしれない。同時というのは大げさな表現で、どうせ昔からある体調不良がたまたま重なっただけだろう、と。


 でも、中継からスタジオに切り替わった後紹介されたVTRを見て、俺は箸が完全に止まった。たぶん、口もぽかんと開けっ放しなんだろう。


「『P.F.O.』は今世界的に流行しているVRMMORPGと呼ばれるゲームのひとつだ。

 日本はVRMMO大国のひとつと言われ、数百ものVRMMORPGのソフトが存在している。昨年には最大手XXX社の運営するゲームソフトのプレイヤーが熱中のあまり衰弱し病院に搬送され、運営会社が声明を発表したという出来事もあった。

 また、課金アイテムを巡っての争いが現実世界での殺人事件に繋がった事例も、海外では複数報告されている。」


 流れている映像は、サイトにある製品紹介PVだ。正式サービス開始時のときのものから最近のものまで、様々な部分を切り貼りして流し、番組ナレーションをかぶせている。


 番組がCMに入るまで魅入ってしまい、周りに心配された。俺は、自分がプレイしていると言うのは伏せてVRMMOプレイヤーが知り合いにいるし、自分も最近はVRゲームよくやるから心配だな、とごまかした。そのときはそれで済んだ。


 夕方になっても、ニュースは昏睡事件で持ちきりだった。翌日の朝刊の一面も飾った。最初のネットカフェだけでなく全国に広がっていて、昏睡状態になっている被害者は三日で三十人を越えて止まった。

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