28話 憂鬱の青とほのかな桜色
あしたより 火曜がいいな うちあげ日 (・ω・`)
天気が心配ですし月曜日は博物や科学館が休館で、パブリックビューイングの機会が減ってしまいます。
ブルーさんが戦線から帰ってきたこともあり、俺はシュクレ先輩に誘われて花見に出かけた。リアルではまだ梅が咲いている時期だ。俺は、近所のおばあさん宅の庭先の梅が散ると、もうすぐ桜が咲くな、と思う。
早く三月が終わって生活が落ち着くといいんだけど、とブルーさんが転送待ちの間にメッセージをくれた。そのままわいわいと喋るのではなく、わざわざメッセージで送ってくると、何か話しにくいことを話すのかなと思ってしまうが、ブルーさんやシュクレ先輩はそのあたりが適当だ。
同じ旅団なり軍団のメンバーだけで話すなら、他の団員がいても関係なくチャットのチャンネルを旅団にしてそのまま話す人もいるし、その場にいる人だけで話すならなるべく喋りたい人もいる。
もちろん、その場その場で違う、つまりこだわりのない人が多いのだろう。喋りながらメッセージで離れた人とやりとりしているという猛者を見たこともある。
俺たちは適当にだべったり、旅団の人とメッセージをやりとりしたりして転送の順番を待ち、東方の町シュエへ向かった。
シュエの気候は少し乾燥しているが他より断然日本に近い。建物なども和風や中華風に近い。南の海岸に近づくと東南アジアのような、リゾートっぽい木組みの家だったりする。今回は転送された町から少し北西へ向かったところの小高い丘を目指した。植林と自然の樹が混ざった、田舎の裏山のような木々を眺めながら細く踏み固められただけの道を歩いて丘を登っていく。
先頭には地図を持ったブルーさん。後ろに俺とシュクレ先輩とユベール。少し離れて歩き疲れたウィルが続く。
丘の上に、枝を広げた桜の樹があった。観光ガイドブックやワイドショーで紹介されるような、大きく広がった桜だった。太い幹がごつごつして、ひからびたこげ茶色の皮をしている。まだ二~三部咲きの花は少し濃い目に見えた。周りを囲むように広がっているよくみる桜、ソメイヨシノだっけ、それとは種類が少し違うのかもしれない。まるで、周りの桜を束ねる樹のなかの王様とか、童話に出てきそうというか、空気が違う。
俺たちはそこから少し離れて、その『王様』の全体が見えるあたりの、まだ若い樹のそばに大判のストールを敷いて座り、買ってきた食べ物や飲み物を並べた。ポーションじゃない、何の効果も無い普通の飲み物とふもとの村の地酒に、ふもとの村で作ってもらった味つきのおにぎり。あらかじめアメリアで買っておいたオードブル。
酒を飲んだことが無いというユベールに、キャラは成人で中身も大学生だろ?とウィルが絡む。コンパくらいいったことあるだろ?とウィルがもはやただの村上だった。俺はそこそこ飲めるほうだけど普段飲まないが、奴は代々続くうわばみだ。
ブルーさんがふもと村で買った、お猪口を一回り大きくしたくらいの陶器の器に酒を注いで、ぐっとあおった。
「リアルでもこんな花見が出来たらいいのにねえ。」
ブルーさんはプレイヤーが自営業で、花見のシーズンは忙しい。花見に行くのは近所のつきあいのために町内会の人たちで行くだけで、みんな花はそっちのけで、同世代から後期高齢者以上までぐびぐび飲んでは騒いで憂さ晴らしをするだけだと、寂しそうに言った。
俺も、花見なんて会社の行事で行って、大人しく上司の話を聞きながらちびちびとビールをやるだけのもんだったから、こうしてのんびりと桜を眺め、適度に食べ適度に飲んで、気の合う仲間だけで時間を共有するのはとても貴重に思えた。
こっちの世界でも、なかなかゆっくり見られる機会は少なくとも今シーズンはもう無いかもしれない。この『王様』は地元では有名らしく、一番いい時期は観光客や地元の人でいっぱいになってしまう。きっとプレイヤーの間でも有名になるだろう。
暗くなるぎりぎりまで俺たちだけの時間を楽しみ、転送石でアメリアまで一気に帰り、リアルでの花見の予定を立てて俺たちは解散した。俺は金策を兼ねて森の魔物や動物狩りをして転送石の待機時間をつぶし、北の町へ向かった。北の町でも熊とか狩って金策をしよう。
次の29話で4章はくぎりとなります。
5章は12月中旬~下旬にアップ開始する予定です。




