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27話 分裂するのは仕方がなかったと思う

(;ω;)おねがいですうちあげはふつかがいいです一日だと仕事一杯だし行く予定だったところは休館日でパブリックビューイングが無いんですおねがいします(しょんぼり中

 三月に入って、村上は配置換え、学生組は進級進学で忙しくなり、何をしているか分からないアクアさんと時間に融通がきくというクルクさんと俺の三人しか揃わない日が急増した。


 ブルーさんはリアルでは店が忙しいのと、P.F.O.では先日戦争から抜け出せたと思ったら知らない間に増えた旅団員からの相談やら仲介やら何やらでせわしなく動いていたという。一人になりたいという個人メッセージをかかげておいてエルフの町でのんびりしている。


 居場所を知っているのは俺とシュクレ先輩とNPCのフェーニアさん他数人だけだ。皆ブルーさんに世話になっているから口を割らないだろう。俺も休息を邪魔したくない。




 俺の旅団Trabantは新しい団員を募集していない、クローズドに設定してある。設立目的から考えて事情を知らない人を入れるのは可哀想というかひどいめにあわせてしまいそうだし、団長だからって俺が一番偉くて皆に指示して何かやらせようとかそういうのもない。


 しかしブルーさんの旅団『トラベラー』はクローズドにしてないし、団員になってリアル一週間以上経った団員なら誰でも新しい団員を承認できる設定にしてあり、いつも百人埋まったというメッセージが届いては誰かが抜け、また誰かが誘ってメッセージが来るという繰り返しになってきていた。

 正式サービスが始まったときに、一度クローズドにしたらどうかと他の知り合いに言われたがそうしなかった。


「だってさあ、今からクローズドにしたら新しい人が入ってこず、減るばっかりになるだろう?

 なんでか知らないけどものすごい勢いで減ることがあるんだよ。人が多いって聞いて入ってきた人ががっかりするんじゃないかなって思ってさ。」


 ブルーさんはそんなことを言っていたし、町で派手に宣伝した人がいたとかで、『トラベラー』は有名旅団になっていた。チャット目的で入る人はかなり多いのだろう。


 けれど、そんなブルーさんが一人になりたいと言ってフェーニアさんの家の一室に何日も閉じこもり、そんな中で俺とシュクレ先輩だけに、会いたいと一言だけのメッセージを送ってきた。


 俺たちはそれぞれ、指定された時間にブルーさんのいる部屋へ向かった。




 軽く二回ノックすると、ゆっくり扉が開いて、ブルーさんがどうぞと言って部屋に入れてくれた。目の下にはっきりと隈ができていたし、声はからからだった。シュクレ先輩が気を利かせて、持ってきたハーブのお茶やクッキーを皿に並べた。


 ブルーさんはお茶を少し口にして唇を湿らせてから、もう少しお茶を飲み込んだ。先輩がクッキーを自分でつまみ、ああちゃんと出来てるよかった、と呟いただけで、他には喋らないまま、お茶が冷めていった。俺は冷めたお茶を飲み干して、自分で次の一杯を入れた。


 先輩がもぐもぐと口を動かして、ブルーさんのカップの半分近く残ったお茶を飲み干して注ぎなおした。

ブルーさんは無表情のままありがとうと礼を言い、カップを受け取ると俺と先輩を交互に見て言った。


「うちの旅団、解散しようと思うんだ。」



 ブルーさんが旅団を作ったのは、まだ人が少なく攻略wikiもない頃だ。情報のやり取りをするために誰でもいいから仲間が欲しい人は集まろう、という趣旨を掲げ、とにかく団員同志の交流を大事にしてきたという。


 人数が少なかった頃は六人ごとにパーティを組んで一緒に行動することも多かった。攻略サイトの充実や様々な趣旨の軍団の設立によって、情報収集とか集まって何かをしようとかの意味合いが薄れても、まだ団員同士で交流しあったり、旅団イベントを企画して楽しんだりという団員がいるから、ブルーさんはそれを壊したくなくて、ずっと先延ばしにしてきた。


「だけどさ、ぼくじゃなくてもいいんじゃないかって思い始めたんだ。


 ぼくがいなくても、続いていけるっていうか、みんなの交流をぶっ壊してしまわないままで済むんじゃないかって。

 最近というか、きのう、かな。やっとそう考えられるようになってさ。それで、一番付き合いがあるシュクレと、昔のことを知らないテンメイくんに、聞いてみようと、思ったんだ。


 それがまずひとつ。」


 ブルーさんはまだ温かいお茶を半分以上飲み干して話を続けた。


「それに、やっぱりレアアイテムとか欲しい人が未来世界でイベントをやりたいって言っててさ。


 それだけならいいんだけど、レベルの低いプレイヤーさんもパーティに一人ずつ入れたりして絶対参加させようみたいな異見もあるらしくて。

 それが、レベル30くらいならいいけどまだ20代の人とかを連れて行こうとしてるんだって本人達から聞いたんだ。」


 誘われたほうの人にも話を聞いたが、そんなところに連れて行かれるとは思っていなかったし、自分も連れて行こうとは思わない。そうブルーさんは話した。残ったお茶を飲み干すと、カップをシュクレ先輩に返した。


 ブルーさんは早速旅団メッセージを更新していた。リアル一週間ののちに旅団を解散すること。何人かが作ろうとしている旅団や軍団の存在とその趣旨。箇条書きでそれだけシンプルにまとめてあった。


 鯖を移って『最強戦士』に入った人や、あれと似たような趣旨の軍団を作った人がいた。他の軍団や旅団に入る人、過去の『トラベラー』に似た雰囲気の旅団を作り直した人もいる。


 ブルーさんと親しい何人かが別れを惜しんでこっそりとクローズドの旅団を作り、シュクレ先輩を団長、ブルーさんを副団長として再出発し、俺も仲間に入れてくれた。これで、俺とブルーさんはそことTrabantだけに所属していることになる。


 旅団軍団といえば、最近ユウキとエリーも軍団を抜けてきた、と言っていた。いつの間にか『くるくる』に所属していたとのこと。俺たちと別行動の時に一緒になったりもしたらしい。

 こちらは、特に理由も無いらしい。他にいくつか旅団に入っているから別に気にしてない、とユウキは話していたし、エリーも一緒だから面倒なことは起きないだろうと思う。


 俺は先のとおり、Trabantと先輩の旅団との二つだけに所属することにした。しばらくは他に掛け持ちしたりしないことに決めている。だれが誰だが分からなくなりそうだし。




 攻略wikiとかを見ても、未来世界へ行くか行かないかは大きな話題となっている。VRじゃないMMOしかない時代からあるという、戦闘に必要なパーティを組むためだけのグループもいくつかあるらしい。

 旅団軍団問わず、決まったリアル時間に集まってパーティを組み、戦闘をこなして後処理まで終わったら解散するだけというものだ。たいていはリーダーが強くてドロップしたアイテムのなかでいい奴を持っていき、残りをゲームごとのシステムによって分配する。


 村上に聞いたら、そういうところは先の『最強戦士』以上にギスギスしているというか、リアル時間への拘束を求められると教えてくれた。悪いとは言わないが、場所がかぶったりすると他のプレイヤーより自分達が優先されるとか言い出す輩もゲーム問わずに存在するようで、良くも悪くも、そういう集団は話題になりやすい。


 P.F.O.でも同じように、他のプレイヤーと問題を起こした奴がいるだの、連続何回クエストをやっただの、都市解放クエスト一番乗りだの、色んな話題が掲示板をにぎわせているのだった。

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