25話 エルフの港町と面倒な情勢
内容と全く関係ないですが、
30日はいよいよ『はやぶさ2』の打ち上げですね!
天気が良くなるといいですが…
現場まで行く人も、パブリックビューイングの方も、今のうちにしっかり休んで万全の体調で見に行きたいですね!
レベル60代が三人と50代五人、30~40が三人という俺たちでは、たとえやる気にあふれていようと未来世界では一瞬で殺される。
俺たちは時間の合う合わないもあって、なかなか全員そろって何かをするということはなかった。でも、集まったときには五、六人で一緒に旅をすることにしている。
あるとき、俺とユベール、アクアさん、シュクレ先輩、ミミちゃん、クルクさん、ウィルがたまたま港町で出会い、一週間くらい一緒にいられると分かった。短い人でもリアルで半日ちかく時間が取れそうだったんだ。
荷物を出し入れしている大きな船に、俺や先輩のことを町でみたというエルフの船員がいた。そのエルフが俺たちのほうへ来て、積荷を見せてくれた。野菜や果物、魚などの食料品のほか、錬金などの調合材料となる素材…例えば宝石や鉄鉱のような鉱物だとか、よく分からない薬品とか、漢方薬みたいなかさかさの植物とか、そういうものまで、様々だった。
わいわいと盛り上がっているうちに船長や他の船員もやってきた。俺たちが旅をしようと思っていると話すと、次の港までならほぼ無償で乗せてくれると船長が言ってくれた。次の港はエルフ特有のなんだか長くて面倒な名前だった。
むしろ面白そうだとアクアさんと先輩は乗り気だ。ミミちゃんも魔法関係はエルフの町が充実しているらしいとかで、行けるなら行ってみたいなぁ、と呟いたのが聞こえた。俺も異論はない。クルクさんは聞くまでもなく大はしゃぎだ。意見のないユベールとむらか…ウィルも反対はしなかった。
積荷の入れ替えを手伝って、改めて船長に揃って挨拶し、俺たちは船に乗り込んだ。
船の大きさは大河ドラマとかの元寇のシーンで出てくるような、人間と比べたら大きいけどおそらく現代の貨物船とか戦争の頃の軍艦とかとくらべたらかなり小さいかもしれないな、と感じた。
船旅どころか船に乗ったこと自体がない俺は緊張しすぎて酔わないくらいだった。大人になってマシになったが俺は乗り物酔いがひどくて薬が手放せない。こういうところも俺とテンメイで差異があるのはありがたい。
緊張でひどい顔をしていたらしくミミちゃんとクルクさんが話しかけてきて、状態異常を解除する魔法をかけてくれた。そのまま乗り物酔いの話をしたら、クルクさんもプレイヤーはあまり乗り物が好きではないのだと教えてくれた。
「あたしの『中の人』は大人になってもアレだよ。
大学入った夏休みに免許取りに行ってさ、試験で他の人が運転してる間がほんときつくてさー、
何ってあたりまえだけど運転ヘタクソじゃん?変に左右に揺れる奴とか、左右曲がるときにがくっと曲がる奴とかいるわけよ。ほんとこの体はありがたいわー。
一応免許とって通勤用に自分の車があるにはあるけど、結局二輪ばっかり乗ってて両親に貸しっぱなしだもんねえ。今の話聞くまで忘れてたけど、思い出せてたらこの船乗るの絶対反対してたわあ」
クルクさんは大笑いしている。二輪といってもスクーターかなと思ったが聞いてると結構大きい奴に乗ってるらしくてちょっとかっこいい。もちろん知らない人だからクルクさんの姿でしか想像できないんだけどさ。俺は二輪の乗り物は自転車しか乗れない。残念。逆に車ばっかり。
話しこんでいるとウィルがやってきた。何だよお前ばっか女の子と仲良くやりやがって、といわれても、俺から話しかけたわけじゃない上に内容は情けないし、そこまでうらやましがる状況じゃねえよと言い返したくなったが弁解すると変に勘違いされそうな気がしたのでスルーすることにした。
出港したのが昼前で、さっきの話じゃないけど食べるのは我慢しようということになり、昼は飲み物だけにしておいた。
ウィルは乗り物酔いはないと自慢していたくせに、はしゃぎすぎたせいか甲板の隅のほうで座り込んた状態で、やばそうな顔で一生懸命ストローで回復薬を吸っている。病気とかああいう症状に効くのかは知らないが、少なくとも現状よりはマシなんだろう。俺も風邪とか引いたら飲んでみるか。
他は出港前に荷物から買った果物からジュースをスキルで作ったり、お茶を入れたりしている。タニーアの『お茶』はウーロン茶とかそっち系の、麦茶みたいな葉っぱから出来ているコクのあるお茶だった。魚より肉に合いそうな気がする。薄めに入れて三回ぐらい入れて飲んだ。
途中にある灯台に荷物を少し下ろした以外は特に立ち寄る場所もなく、夕日に照らされて目的の港に到着した。
エルフには大きく分けて二つの種族というか民族が居る。ひとつは森の中に住む、俺たちの想像に近いエルフだ。人を避けるように、森の中の樹に町を作って住んでいる。耳が長くて、まじないやお守りの意味を込めた金属のピアスやイヤリングをしていて、弓使いが多い。森のエルフと呼ばれる。
もうひとつは、人と積極的にかかわり、一生のほとんどを船の上と港で過ごすエルフ。ダークエルフというか黒い肌っていうより、小麦色というか健康的な肌色をした、女性でも筋肉質な人が多い。ピアスやイヤリングはせず、布や革で出来たペンダントやチョーカーをしている。出身の船(集落)によって柄が違うらしい。弓はもちろん、短剣の扱いを小さな頃から鍛えているとのこと。海のエルフと呼ばれている。
海のエルフ以外に遠洋に出る船はない。そういえばタニーアに並んでいる船は小さな漁船ばっかりだった。マグロやカツオなど、遠洋漁業の魚もあるにはあるが、地球で言ったらいわゆる200海里の範囲からは出ないらしい。海のエルフ以外の船は、取れるぎりぎりまで遠くへ出て、それ以上に陸から遠ざかろうとはしないんだそうだ。
だからドラゴンが居た何千年か昔からの言い伝えを信じるエルフ以外には、この世界がひとつの惑星つまり球体であり一周できると信じている人は居ないようだ。
ドラゴンは休みながらならこの惑星を半周できるくらい一気に飛べるらしく、大昔は惑星じゅうにドラゴンが住んでいたのだと船員の一人が教えてくれた。
テスト時代に航海に出るとか言う軍団が失敗した理由がよく分かった。海のエルフの人々が実装されていない状態、つまり船を作るための技術やノウハウのない状態で、地球の知識だけ(もちろん遠洋に船を出した経験者は居ないだろう)で船を作ってもうまく動かせないに違いない。その軍団が今どこの鯖なのか知らないが、話を聞かないからどうなったのか分からないけど。
夕暮れのなかで荷物を降ろし、行き先によって分けて引き渡し、俺たちは船長たちと別れた。
まずは宿を探して何軒めかでやっと泊めてもらえた。人間を嫌ったり遠ざけているというのではなく、『宣託を受けた者』(プレイヤーキャラ)が珍しくて対応がよく分からないという感じだった。
翌朝、ゆっくり起きて、食事を受け取ると、メニューが小さく現れた。『メッセージが来ています』という表示があって、それを押すと内容が表示された。旅団のグループメッセージでブルーマウンテンさんからだった。
「To Tenmei From Bluemountain
『ごめんなさい。戦争に巻き込まれました。ログアウトしてリアルに戻る以外で現在滞在している国エル=パルディリアから出ることが出来なくなりました。無いとは思いますが相手国ツァーレンに入国していたorした場合傭兵組織に編入されて、もしかして僕たちと戦うことになるかもしれません。二国の付近に近づかないようにしてほしいです。』」
二国はアメリアやタニーアのあるあたりより北だが、北方よりはかなり手前にある。
転送以外で北の町へ行くには地図を見る限りツァーレンを通って北上してからツンドラ地帯を進むか、東から大陸の中央部の山岳地帯など、ひたすら様々に木々の違ういくつかの森の中を抜けていくルート、大陸東部から山越えするルートがある。
森の中はパルティリアの植民地で、ツァーレンとは反対側だけども通行規制や荷物検査が厳しく行われているらしい。植民地内の町は、最初にタニーアで話したときに北の町の次に行き先候補にあがった。今回は寄るのをやめておいて、北の町は転送で行くしかないか。ドワーフの工房で修理スキルをみんなでつけようかという話だったんだけどなあ。せめて休戦状態でないと観光どころか通る際に宿や食事の確保が出来ない。
そもそもツァーレンは観光するような場所もなく、国民すべてが兵士みたいな制度の国だし、NPCですら観光なんてとんでもないと証言するところで、サイトの紹介には『行こうとする人はいないと広く考えられている』という文章すら書かれている。
その東にあるエル=パルディリアは逆だ。観光や行商人が多く、あちこちに古代の文明の遺跡があり、ダンジョンとして攻略対象になっている。あのドラゴンの熱帯雨林と比べたら格段に交通の便がいいし、町の規模が大きいから買い物なども便利だ。NPCもあまり種族差別がなく、赤眼の民とか亜人種の固まって暮らす集落もあり、俺としては砂漠の国に続く異国情緒あふれる場所だと思っている。
部屋で食事を取りながら俺たちは話し合った。クルクさんが露骨にがっかりしていた。ミミもパルディリアの魔法具屋に行きたかったらしく寂しそうだ。さいわい、ブルーマウンテンさんたちは傭兵自体は何度も経験済みだ。転生もあるから休戦か終戦までうまくやってくれるはずだと信じよう。
北の町に行ってる間に戦争が終わってくれれば、森を抜けるときに魔法の力場探しとかやっておきたいし、そこでしか覚えられない魔法の系統があるらしいのでまた座学だけでも取っておけたらいいんだけどね。
だめだったら、観光や時間のかかるスキル上げやアイテム探しは今居る町の周辺だけにするしかないな。このあたりはアメリアからだとかなり南のほうになる。気候的には亜熱帯とかかな。かなりあったかい。