第三話 なんとなく俺誕生
VRMMOについては、色々な作品の描写を参考にさせていただいております。MMO自体は少し経験があり、それを思い出しながらミックスしています。
鏡の向こうは、ヨーロッパの広場みたいな場所だった。高くても二、三階建ての建物に囲まれた、石畳の空間。真ん中に噴水があって、縁に腰掛けて喋ってたり、石像を眺めたり、小さな子が手元の水をすくって飛ばしたりしている。
一角に立て札があって、新規冒険者の皆さんへと見出しがついた紙が張ってあった。立て札の向こうにある建物で登録をしろということらしい。面倒だとおもったが、こっちの世界での冒険者登録ってことらしい。
シュクレ先輩が言うには、冒険者や旅人や行商人のような、ひとところに留まっている時間が短い人は、そういう職業だという登録をしないとホームレスとか難民だと思われて人々の待遇に差が出るらしい。
俺は素直に登録に向かった。リアル向けの登録と違って、名前と年齢と希望する系統だけでよかった。系統も前衛系か後衛系か、後衛は魔法をつかうのか道具や飛び道具なのかという三つのみ。それも、書いたからといってずっと魔法が使えないとかそういうことはなく、初期ジョブのようなものだった。
名前の「テンメイ」は、あきのりの漢字をひっくり返して音読みしただけ。実際有名人で典明と書いてテンメイって読む人とか、読みはのりあきだけどそう呼ばれるとか居るらしい。
シュクレ先輩が名前をいくつか挙げてくれたけど残念ながら俺は知らなかった。戻ったら一度検索してみよう。
出来れば苗字(家名)が必要だとか言われて、先輩がなんか聞き取りにくそうな苗字の案を出してくれたけど、そばに居た何人かに聞こえていたらしく吹きだされた。さっきのテンメイさんのうちの一人の苗字らしい。やめてください。
系統はとりあえず前衛にしておいた。魔法を使ってみたかったが、使うには何か座学とか研究とか必要だと言われて少しやる気が下がったからだ。かといって魔法以外の後衛職は、弓矢みたいな飛び道具だと毎回の矢弾代がめんどくさそうだと思ったからだ。受付から武器屋への紹介状と武器の選び方を書いた紙をもらった。最初の武器は一定額まではただでもらえるらしい。
建物を出ると先輩がメニューの出し方を教えてくれた。いくつか方法があって、どれかひとつ実行できればOKだ。
ひとつは音声入力。ほかのVRMMOでも多い方法らしい。「メニュー」とか「メニューください」とか声に出すだけ。小声でもいいが加減は調べておいたほうがいいと先輩に言われた。
ふたつめはコマンド。このVRMMOでは、パスワードのようなアルファベットの組み合わせをつくってそれを書くなり読むなり念じるなりするというショートカットみたいなものがある。ただし暴発を防ぐために短くても六文字くらいあって、メニュー出すのに使うにはうっとうしい。
みっつめは、先輩によって説明無しに実演された。某有名な錬金術士漫画とかいただきますのポーズみたいに両手をパンとならし、それからスマホやタブレット操作みたいに指で何かを平らに広げるような動作をする。閉じるときにはメニューを手で挟んでもういちど叩くなりくしゃくしゃ丸めたりする。感覚的というか、広げた指の間でメニューが広がっていくのが面白い。
練習でなんどか出したり消したりした後、メニューのそれぞれの項目を確認して、それから武器と防具をそろえることにした。
メニューを出して広げると、左側に項目が縦に並んでいて、横に表示するためのスペースがある。タッチパネルのように左側の項目を押せばいい。下側にはチャットやメッセージ用のキーボードを出し入れするボタンがある。
項目は上からステータス、アイテム、倉庫アイテム、クエスト、地図、チャット、設定。
ステータスはそのままだ。
名前:テンメイ
種族:人間・標準種
出身:来訪者
レベル:1
HP:10
MP:0
スキル:剣術1 こぶし1 槍術1 棍棒1
状態異常:なし
装備:普段着 革の靴 来訪者の指輪
取得経験値:0
利用可能ポイント:0
転移ポイント:指令船
指輪なんてあったっけ?と思って両手を見ると、確かに人差し指の根元に銀色の指輪がはまっていた。アイテムの項目から確認してみよう。
アイテムの項目を押すと「装備品」と「消耗品」の二つの項目が現れる。消耗品のほうは色がついていて押しても反応しない。何も持ってないって事だ。「装備品」を選ぶと表示スペースにずらっと項目が並ぶ。
頭:
耳:
首:
腕:
指:来訪者の指輪
胴:普段着
脚:
足:革の靴
その他:
それぞれ品を選ぶと、説明が現れた。
<普段着>
ごく普通の布で作られた、衣料品店で買えるありふれた服装。
<革の靴>
標準的な履物。
<来訪者の指輪>『指令船』に転移ポイントをひとつ指定する
他の星からの来訪者に目印として与えられる指輪。
倉庫アイテムの項目も押せない。スキルやアイテムによって、普通に持ち歩く以外にアイテムを持てるのだという。家具や大量の食料など、この「倉庫」を使うと平然と痛まずに出し入れできる。ということは…
「ああ、普通のアイテム欄は実際に自分が持ちはこびしているもので、倉庫は普通のゲームのアイテム欄だと思っておけばいいよ。」
先輩ありがとうございます。
クエストはそのまま、現在与えられた目標とか指令。地図も範囲がスキルとかで変わるくらい。チャットは押すとあて先とメッセージを入力するボックスが現れた。主に個人やグループだけで話をするときに使う。状態異常で口が聞けなくなった際の非常手段にもなる。
最後に設定。表示スペースには三つの項目が並んでいる。感覚救済措置の有無、感覚遮断の使用の有無、リンクの有無。最後に関しては先輩も知らないし、ゲーム運営側にメッセージを送っても教えてもらえなかったそうだ。
感覚救済措置は、無にすると実際に食らったら死ぬような攻撃を受けたり怪我をした場合にそのままの痛みが伝えられ、たいていの人はショックで気絶する。有にしておけば、ちょっと衝撃が伝わるだけとか、見た目は腕が飛んでようが少しの怪我程度の痛みで済む。
これがないゲームで、実際プレイヤー同士で攻撃できる場合にえげつないことをして相手の精神をぶっこわして社会問題になってゲーム自体が潰れたこともあると先輩は教えてくれた。
遮断は救済措置より強くて、一定以上の強い刺激を全部カットする。たとえば現実には出来ない、建物やがけから飛び降りて道をショートカットするとかそういう人はだいたい遮断しておく。このP.F.Oでは、痛みなどがカットされる代わりに数秒動けなくなる。
気にしなかったけど、現実とそんなに変わらない感覚がある。においはそんなにしないが、風というか空気を感じる。手足の感覚もリアルと大差ない。すごいな、VRMMO!
確認を終えた後、先輩や町の人に聞いて武器屋を探した。何人か同じような人が居て、結局五~六人でぞろぞろと歩いていった。