24話 三英雄
俺の旅団はとくにレベル上げを重視しているわけではないが、俺はあまり苦戦したくないという理由もあってテスト時代からこつこつレベルを積み上げてきた。
先日ようやく60代に入って、もうアメリアの店では合う用品がないと言われるようになった。兵士などのNPCの最高レベルが60代らしく、そういう奴は皆専用の装備を着ている。同じようにプレイヤーも彫金などのスキルで作られた高レベル向けに実装された装備を、素材を集めて職人に渡して作ってもらうか、作った奴を買う。
60を越えると次の必要経験値が異様に多くなる。全ワールドで最高は90台が8名。一人が俺の居る杖鯖、あと7人はあの『最強戦士』のメンバーで蛇鯖だ。レベル80以上のプレイヤー数は90台の人も含めて100人居ないというから、恐ろしい執念というか、『遊びじゃない』って奴を感じる。
リアルが二月に入るとレベル90台だった人から三人、レベル100が現れた。リアル時間だとあまり差がないことから、三人とも『最初に最高レベルに到達した』という名誉称号と、専用の武器や防具が贈られた。
公式サイトに紹介記事が載ったからwikiにも転載やリンク付けされていて、プレイヤーの多くに知れ渡ったことだろう。
一人は予想通りあの『最強戦士』の団長だ。送られたのは、野菜切り包丁をでかくしたような、いかにもゲームじゃなきゃ扱える人は居ないだろう大きな剣だ。
<英雄の剣>
先駆けてこれ以上ないほどの強大な力をつけた者の栄誉を讃える。世界に一本しか存在しない。
二人目はあの団長とも俺とも違うサーバーの人で、前衛(剣と槍)と中衛(弓)を使いこなす人らしい。武器や魔法のスキルはどれかを10まで上げきってしまうと、残りはポイントを振らず自分で技能を極めなければいけない。3系統もスキルを上げきったということは、どれだけあの未来世界で腕を振るったんだろうか。
<ミスリルフルアーマー胴・銘&徽章入り>
<ミスリルフルアーマー脚・銘&徽章入り>
<ミスリルフルアーマー腕・銘&徽章入り>
<ミスリルフルアーマーブーツ・銘&徽章入り>
<英雄の弓>
先駆けてこれ以上ないほどの強大な力をつけた者の栄誉を讃える。世界に一つしか存在しない。
三人目は槍使いで、有名RPGの竜騎士のようにヒットアンドアウェイ的な動きを得意とするそうだ。あれみたいに乗り物や使い魔的なものもないのにどうやって一撃離脱してるんだろうか。
ちなみに竜騎士はこのP.F.O.にも一応あるけど、名乗るには槍のスキルを全開に上げて、熱帯雨林のダンジョンを一人でもちろん武器は槍だけで踏破して、最奥のドラゴンと戦って実力を認めてもらう必要がある。ちなみにそのダンジョンに俺や先輩は近づいたこともない。
<ミスリルブレストアーマー・銘&徽章入り>
<ミスリルライトアーマー脚・銘&徽章入り>
<英雄の槍>
先駆けてこれ以上ないほどの強大な力をつけた者の栄誉を讃える。世界に一つしか存在しない。
三人には専用装備のほかに、未来世界でごく稀に手に入るレアな素材も少しプレゼントされた。修復にでも使えってことでしょ、とユウキが言っていた。
確かに、武器や防具も消耗品であるこの世界では、修繕は非常に重要だ。前はなんとかいう職人ばっかりの軍団にお金や素材を持ち込んで頼めばよかったけど、彼らはワールドが分かれたときに別へ行ってしまった。なので、今は修繕や手入れはエルフの町の職人に頼んでいる。会心の作は生まれないが、安定して、かつ安い料金で仕上げてもらえるので十分満足している。
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攻略wikiにはテンプレ生活みたいなものが載っている。大雑把な目安にするためだ。
レベルの低い人や10~20まで上げたら職人などを目指してスキルあげする人はアメリアや港町タニーアを拠点にする。
15~30くらいまでは旅をかねて平原の町をいくつか回って、カタリアで例のクエストを受けてたまにダンジョンにもぐる。
30以降はダンジョン通いと東の森。
50前後でエルフの森とダンジョンの深い階層まで踏破もしくは戦争中の国の傭兵。
60はそれ以上の高レベルの人が居れば未来世界、そうでなければ高難易度ダンジョン通い。まあ、大きく分ければダンジョンか傭兵(戦争に参加)か都市の防衛か決まった相手を倒すといった感じで戦略が結構違う。
レベルが70以上あれば、全体の2割に入れる。テスト時代からのプレイヤーでも20代のままの人も居るし、新しい人が傭兵や未来世界行きしてることもある。今までの経験と攻略wikiに集められた話から察するに町の人から受ける大半のクエストはレベルが30あればパーティを組めたらいけるし、ものによってはそれより少しレベルが高ければ一人でもいい。レベルに関係なく一定人数が必要なものもあるのでそこを気をつければ詰まることは少ない。
2月に入ってようやく俺も60台に入ろうというところで、停戦状態の国境警備クエストを受けてみたがそれでもしんどいというか、リアルすぎて心まで疲れた。
停戦状態でこれだから、傭兵をやった先輩たちはさぞかし心が擦り切れたことだろう。この世界は、感覚がリアルなせいなのか、精神も削られたりゆったりした心地になったりする。
設定的に未来世界は、地球から来た人が生き残ったとある都市の人と協力して他の各都市を防衛するために派遣されたことになっているとサイトには書かれている。
過去である基本世界はどういう関係なんだろうかとか、いろいろ疑問に思う人が書いた考察が攻略wikiにもいろいろ寄せられているが、俺はあんまり気にしてない。そういうものだ、と思うことにしている。どうせ何かあれば公式サイトに設定が乗るだろうなとかそのくらいにしか思っていない。
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テストが始まってから丸一年になるとかで、プチイベントとしてチート強化された社員PCと戦ったりくじを引いたりしてアイテムを貰うというのがあった。
イベントクエストをいくつかやってチケットを集め、引けるだけくじを引き、俺が手に入れたのはアメリアの食堂で使える食券ばかりという有様だ。
商品は10等まであり、負けても成績で1~5等のアイテムがもらえる。
一番の成績ではかなり珍しい素材と賞金、魔法のこもった『魔符』3種類がもらえる。『魔符』は魔法が使えない人でも一回だけ魔法使えて、使い終わったら魔法関係のアイテム屋に高く売ることが出来る。スキルがあればまた魔法をこめられるらしい。
2~5等は結構珍しい素材や回復薬などの消耗アイテムだから低レベルから高レベルまで誰でも使い勝手がいい。
6等はまっさらな転送石3つ。
7等は武器か防具一点の低級の修復をその場で受けられる。あんまりボロボロだと一気には直らない程度だがそれでもありがたい。
8等は一番初歩の回復薬10本、9等は俺がもらったアメリアのいくつかの店で使える食券10枚。10等は8等と同じ回復薬が2本。
俺はなぜか食券ばかりになった。知り合いで最高はくじで4等を引いたミミちゃん。最低は一回だけ参加して10等だったシュクレ先輩。だいたい7等~10等ばかりになった。
風のウワサでは、さすがにチート社員を倒した人は居ないが、あのレベル100一番乗りの三人は倒す寸前までいったらしい。
いつのまにか、PCの間でもNPCの間でも、『三英雄』という呼び方が定着していた。大剣のアームストロング、霊銀のシラヌイ、強槍のウィルベルヴィント、だそうな。
あいつ名前もいかにもな感じだったんだな。今まで名前を気にしてなかったし向こうに名乗られたこともなかったから、初めて知ったよ。お似合いなことだ。