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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
第3章 少しずつ盛り上がってきた
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16話 なんだか知らんが優しかったんだな

今週は忘れない限り一日おきに投稿する予定です。

 目が覚めると俺は見たことのない建物の天井を見上げていた。ただ、建材や雰囲気からエルフの町のツリーハウスに似ていると思った。でも、気を失っている人を転送するためにはかなりの転送魔法スキルが必要だ。

 体の状態を確かめながら徐々に体を起こすと、エリーとミミが部屋の中で何かしているのが見え、こちらを向いたミミがすぐにエリーに声をかけ俺が目覚めたことを伝える。


 どうやら俺と『最強戦士アルティメット・ウォーリアーズ』団長(とその団員十名)の殴り合いは速攻で俺が殴られてひっくり返って決着が付いたようだ。


 そして、二人が話してくれたところによると、たまたま帰ってきた別の団員が動転して外へ飛び出して騒いだため、近隣の軍団の人が何事かと押しかけたんだそうだ。


 軍団の拠点は一部屋だけ軍団員しか入れないように出来るが、俺が連れて行かれた部屋は運良く誰でも入ることが出来た。それで、死んだように動かない俺とそれを足蹴にしながらガハハと悪者のおっさんのように笑う軍団長を見つけた人が俺を外へ運んでくれ、俺とシュクレ先輩が一緒にいるのを見たことがあるという人が先輩に連絡してくれ、先輩の旅団の人が駆けつけて転送してくれたということだった。


 転送してくれた本人はリアル用事でログアウトしているが、一応エリーたちが事情を聞いておいてくれたから助かる。場所は港町のエルフ商人の家で、本当は追跡できないようにエルフの町まで転送するつもりだった。エルフの町へは転送石と町の有料転送以外、つまりプレイヤーキャラが使用する転送魔法での転送が出来ない。だから俺が目を覚まして多少回復するまで転送できなかった。


 俺は、お礼を考えなきゃなあ、と呟いた。力が出ない。ふにゃっとした声だ。エリーが言うには、お礼は要らないからこっちで友人として付き合ってくれたらいいとのことだが、何もなしじゃこっちの居心地が悪い。




 夕方、助けてくれた人が帰ってきた。シュクレ先輩も来てくれた。


「おれのせいで、ごめんな。あいつらが君の名前をだしてきた時点で、話しておくべきだったよ。」


 先輩は入ってくるなり俺のベッドの脇で土下座した。悪いのはあいつらだ。先輩は悪くない。ほかの軍団の人たちも。

 あの軍団の人がどれだけ加担しているのか、軍団長の言うことを本気で受け入れているのかは分からないけど。


 そのまま俺は数日休ませてもらい、さらにエルフの町に滞在した後、いよいよ長期メンテナンスのお知らせが入るようになったあたり、あと一週間くらい前でアメリアに戻って一度ログアウトした。お知らせの中に、念のためログアウトは最初期からあるエリア、できればアメリア市街でおこなうようにと書かれていた。




 リアルでは、メンテナンスが始まる前の日だった。最新のお知らせによると、翌日の昼十二時から予定通りなら二十四時間。


 俺は部屋を見渡してハウスキーパーの仕事振りを確認した後、その会社に電話して、人員を変えてくれるように頼んだ。


 冷蔵庫に残っていた缶コーヒーを飲み干してから、ゆっくり風呂に入り、着替えをして、村上に電話してメシ食いに行こうぜと誘った。奴が渋るのでこちらが半分おごるというとものすごい涙声でありがとうございます!と選挙カーの人みたいな声援を上げたので俺は受話器をぶんなげてガラスを割るかと思った。実際は体から一メートルも離れていない場所にぽとりと落ちただけで助かった。


 俺と村上は共通の友人で村上と同じVRMMOプレイヤーの神沢かんざわ、岬を誘って駅前の繁華街の適当な居酒屋に入った。二人だと村上の愚痴を聞くか俺が愚痴るだけになりそうだし、共通の友人ですぐ連絡が付く相手が居たので何人か電話したのだった。




 神沢も岬もVRMMOには早くからどっぷりで、P.F.O.のことも名前だけは知っていた。神沢は、クソゲーの予感がしてたと言った。聞いたこともない会社の第一作目で、映像と世界観だけは凝ってるなんて、VRMMOじゃなくてもコケる香りしかしないぞ、と彼は笑った。こいついきなり飲んでいやがる。


 そのまま三人が俺にP.F.O.について質問したことに少し答えた以外は、VRMMOの話自体をなぜかしなかった。

 神沢がべろんべろんになって、一緒に来た岬が苦笑していたり、突如女子会みたいにやたらスイーツばっかりみんなで頼む流れになって、俺が意外と甘いもの好きかもしれないことと、村上と神沢がスイーツ男子?てやつだと判明したり、久々に俺はテンメイではなく明典なんだと再確認した。


 『させられ』なくてよかったと思う。俺は仮想と現実のどちらかを選んで生きていくという考えがない。たとえVRになっても、現実の中に仮想があるというのは変わらないはずだ。仮想だけで生きていくことは出来ないと思うし、現実だけを見ろなんて陳腐な呼びかけをする気もない。


 ちょっと説教臭くなったな。まあいいや。意外と重要なことかもしれないし、そうじゃないかもしれない。本当はシュクレ先輩……佐藤さんも呼びたかった。二人にも確か面識あったし。

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