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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
第3章 少しずつ盛り上がってきた
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13話 なんだか知らんが意外と平気かもしれないな

ここ数日でなぜか3話分くらい一気にかけたので、今週は一日~二日おきで投稿できるかもしれません。

 俺はまず、最初期に一度だけ転送の練習で行った『指令船』に行ってみることにした。シュクレ先輩やエリーたちと一緒に居る以外は一人だったから、情報交換みたいなことをしたかったし、誰かとしゃべったり何か考えることで、さっきのハウスキーパーサービスの奴を頭から早く追い出したかった。




 指令船は、窓が無く金属質でSFの宇宙船ぽい感じだ。通路があって一定間隔に扉が並んでいて、扉ごとに喫茶店のような、数人掛けのテーブルと椅子がいくつか置かれた部屋が並んでいた。ひととおりすべての部屋を覗いてみたががらがらだった。一箇所だけ旅団の喋り場にしているところがあり、ひとつのテーブルだけ一杯になっていて目立つ。


 俺は、その旅団から少し離れたテーブルで販売機のドリンクカップをちびちびやっている人に近づいた。同じ前衛の装備をしているのと、テストで呼ばれたエリアで何度か一緒になったことがある人だったからだ。


 すみません、と声をかけて、前にどこそこのエリアにいましたよねと確認した。その人はこちらを向くと


「ああ、うん。」


 それだけ言うと顔を元の向きに戻した。


「あんたも雇われてるん?」


 前を向いたまま俺に聞き返してきた。俺は素直にそうだと答えた。そのまま少しリアルについて話をした。その人はフードを目深にかぶっているのに、目線が怖い。体格も大きくて、肌は日に焼けている。そして、初めて見る赤眼の民プレイヤーキャラだった。


「オレさあ、こんなだからさ、町の人とか話聞いてくれないし、聞かせてくれないわけなんだよね。ちょびっとでいいから、なんか町のこととか教えてくれないかな?お礼はもちろんするし、なんかあったら協力出来るよ。」


 メニューから見ると、その人はレベル41だった。俺はまだ先日30になったばかりだ。俺はどうやって上げたのかと聞いた。その人はエルフの町に滞在して、森の魔物や動物を倒しているのだという。


「遺跡はしんどいし、お金になるようなものを取りに行けても、一人だと少ししか持っていけないし、回復用の薬品とかで相殺されて意味無くなっちゃうやん。」


 エルフは仲良くなると格安で泊めてくれるから、ウサギの皮じゃ無理だけどオオカミの皮数枚か、なめした革が出来れば十分なのだという。武器も安く直したり改造したりしてくれるようだ。

 ただし、あくまでもそこまで仲良くなれればのはなしだ。ついでに言うとエルフキャラでも仲良くなるまでの手間は少なくなったりしない。


 俺は有益な話を聞けたからそれで十分だといい、メッセージ登録をした。名前はペトロスさんか。そのあとは、お互い話題が無くて黙っている時間がほとんどだった。




 旅団の雑談や話し合いが微妙にもれ聞こえてくる。あの旅団はまだ遺跡に行くクエストをやっていないようだった。あのNPCの噂は知っているようだったが、見つからないようだ。


 俺は、何度も迷子になったあとようやく自分ひとりであのNPCの家を一人で訪ねられるようになったが、それでも何度も訪問するまで口も聞いてもらえなかった。どうやら、何かきっかけがないと、あのNPCは話をしてくれない、つまり、「フラグを立ててくれない」ということを、俺は知っている。


 この旅団はみたところ全員標準種とエルフだった。エルフなら話してくれそうな気もしないでもない。しかし、もれ聞こえてくるところによると、エルフのキャラは皆レベルが十分ではない。メニューで見ると、リーダー格が数人レベル20で、あとは15以下だった。


 そういえば、プレイヤー全体で、レベル21を超えている人が一割以下だと公式からのお知らせに書いてあった。半数近くがレベル2~10、残りはレベル1が一割、レベル11~20が三割。レベル上げを必死にしなくてもリアルと同じように自分を売り込んで働くとか、適当にプレイするだけなら宿代以外ウサギやオオカミの皮で十分まかなえて、レベル上げは必要ないからか。


 だいたい、あのウサギのような手近なクエストでそこそこ楽にあげられるのはレベル10までだろう。まして15前後になるとウサギでは大量に狩らないと経験値にならないし技能を使ってもスキルが上がらない。だから実装されているクエストやダンジョンが極端にすくない現状では、レベル15まで上げたあとは森へ行ってせめてウサギのなかでも高レベルの個体やオオカミを相手にして20以上まで上げ、あのクエストを受けて遺跡へいけるようにしないとレベル上げが困難なのだ。


 そしてあのNPC、どうやらレベル以外にも話を聞いてくれる条件がいろいろあるらしく、攻略wikiには「受けられた人はそのときのやりとりや状況、パーティメンバーのレベルなどの情報の提供をお願いします」と書かれている。

 俺たちはシュクレ先輩がいたからよかったが、レベルが十分な両性種が居れば済むわけでもないようだ。




 ペトロス氏は顎で旅団のほうを示し、俺に顔を寄せてささやいた。


「あいつらはどうやら、このサーバーで最初に遺跡を全踏破する目標を掲げているらしいなあ。一人だけ年食ったおっさんがいるだろ。さっきあんたが来る前に聞こえたんだけど、TRPGとかでマッパー経験豊富な奴らしくて、そいつに地図作らせてはソレを売って資金源にしようって魂胆のようだねえ。」


 TRPGというのはゲーム機とかが出てくる前の、紙と鉛筆とさいころを用意して話し合いですすめるRPGのことだ。

 マッパーというのは口頭の説明や行動の結果から地図つまりマップを書いていく人のこと。これはゲーム機のRPGでもあるよな。攻略本が買えなかったり、売ってなかったり、載ってなかったりする奴は自分で紙に書いたりするだろ。あれだ。


 この世界では、森やダンジョンのマップはほぼ存在しない。森の地図なんて街道が腺で引いてあるだけだ。エルフの森とそこにある町は、わざと町の外に地図が出回らないようにしている。だから森や遺跡の地図なんて結構売れる。

 俺たちがシュクレ先輩たちと行動するときも、何人かでマップを書きながら進むし、森には野営ポイントとか、何の木が生えてるとか、おいしい果物が取れるとか、書き込みをたくさんする。


 ペトロス氏は話を続けた。ほかにも、自分達で森を開墾して村をつくろうとしているとか、地球上にある文化とかを再現して売り込もうとか、金儲けやら大きな目標やらを掲げる旅団や軍団があるらしい。個人でひたすら食事や服を製作して裏通りの貧しい人に配るボランティアをしている人がいるという話もある。




 自由だからな、このP.F.O.って世界は。ペトロス氏はそう言って俺と別れた。別れる前に、口をつける前のジュースを一杯置いていった。俺はそれを飲むと、まずはこの一週間、こちらでは半年近くの間に何をするかを考えることにした。




 せっかくなのでレベル上げはするとして、それ以外に何をするべきか。何をしてみようか。

 俺には目的が無かった。そこで、今日一日は人と話をすることにしようと決めた。空になったコップをくずかごに捨てて、水を購入し、元の席にもどって聞き耳を立てた。


 旅団はずっとあの遺跡のクエストの話をしている。NPCとの約束はあるものの喋ってしまう人はいるようで、断片的に、例えばエルフの町にいくことなどが伝わってしまっている。

 高レベルの人にお金を積んで転送使ってみようとか、エルフの森の実装時に無理やり突破しようとか、俺から見ると無理だろって言う話しをしているのが聞こえてくる。


 俺はせめて、言ったことのない人の転送は出来ないってくらい教えてあげてもいいかなという気がしてくる。でもそれを言うときっと町のことを喋らされるだろう。NPCとはいえ長く過ごす場所での間柄をわざわざ破壊する気はないし、いずれ仲間にも迷惑がかかる気しかしない。




 俺は水がぬるくなるまで旅団の話を聞いた。彼らが解散していっせいに転送でいなくなった後、そのぬるい水を飲んで、その部屋を出て通路にある椅子に適当に座った。眠くなってきた。眠っては適当に話をしたり聞こえてきたりするのを繰り返していると夜になったのでいつもの宿に移動して眠ることにした。

 一日目はそれで終わった。




 二日目から何日かはアメリア市街の食堂や酒場で同じように話を聞くことにした。合間に、久々にウサギ畑に行って一人でオオカミ狩りをしつつ周りの低レベル冒険者に回復魔法をばらまいた。


「十二時、ポニテ剣士、回復」

「四時、男前衛二人、回復」

「十一時、パーティ範囲、解毒」


 魔法はだいたい皆既存のRPGの魔法の名前をつかうが、俺はめんどくさかったので回復とか解毒とか、麻痺取るとかそのまま呼んでいる。最初の「何時」は方角だ。ショートカット以外で魔法を使うには相手とどの魔法を使うかを指定しなければならない。


 本当はこの世界の呪文があるんだけどそれを覚える気もない。もちろんそれを使いこなす変人もいるっちゃあいることも知っている。魔法の勉強をしながらメシを食ってる奴もいるし、諦めて初期設定で出来たショートカット(=初歩のHP回復)とそこからポイントを振れる奴しか使えないのも珍しくない。


 何度目かに宿屋で夕食を食ってるときに、お礼とともに魔法教えてくれって頭を下げてくる人が何人かいて、俺は余計に疲れた。


 座学スキルがない場合いきなり魔法スキルが取れるのかどうかとか、そもそも俺が教えても座学スキルが生えるのかとか、考えたこともなかったし、取れるのだとしても、いろいろ説明するのがめんどくさい。俺は教え方が分からないしノートとかを見せてはいけないことになっているから説明できる自信がないと素直にぶっちゃけて諦めてもらった。




 翌日、久々に特訓したときの魔法ノートを見返した。読めるぎりぎりだろう汚い俺の字の間に、可愛らしいエリーの文字。欄外に走り書きされた意外と女の子らしさあふれるユウキの文字。


『◎魔法を唱える基本

・相手

・どの魔法

(上級)

・いつ、いつまで(どんなタイミングで)

 *魔法言語を使うと短く早く唱えられる』


 魔法言語までやる奴は皆無なのが最初から想定されているのか、魔法言語を織り込んで呪文を唱えると効果が何割か高くなる。

 細かくは覚えてないけど、方向を表すなど単語を組み合わせて呪文につかう音を決める。音を決めたらテンプレみたいに残されている先輩たちの魔法を暗記する。


 上級魔法は自分で音を変えたり増やしたりしないといけないので、残されているテンプレをそのまま使うとしてもどれが自分に合うかを探さなければいけない。運営が世界観に凝った結果だろう。


 NPCもどんどん脱落している。俺がエリーたちと特訓のために魔法の学校を見学したり、図書館でいろいろ本を読んでいるときも、練習スペースから失敗した声やため息、ショックのあまりの叫び声なんかが聞こえてきてた。もちろん、図書館のスペースだとうるさい人には司書がすっとんでいって注意もしくは追い出すという処置をとる。




 一日何もしないリフレッシュをはさんで、俺は一人で順番に町をたどってみようと思った。

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