第13話 物語の始まり(4月22日後編)
自分を見た事がない人はまずいないだろう。鏡や写真が普及している現代なら簡単に自分の姿を確認することが出来る。
では自分の顔を自分の目で直接見たことがある人は居るだろうか?これはまず、いないだろう。まぁ急にこんな事を言い出して何なのかというと
目の前に自分の顔があったのである。
いや、顔だけじゃあない。身体も付いていた。普通なら有り得ないことが起きていた。最初は理解出来なくて、幻覚でも見ているのかと思った。少なくとも自分が見た覚えが無いとても驚いた顔をしていた。
自分ではないであろうことはなんとなく分かった。
しかし相手が今の自分の姿の名前を名乗ったのである。これには自分も驚きを隠せなかった………。
というのが先程彼女(俺は目の前にいる相手に対してこの三人称を使うべきなのか迷っている)が自己紹介をしてから俺が考えた事である。
時間にして10秒位だろうか。互いに沈黙したまま見つめ合っていたがとりあえず話しかけてみることにした。
「お前は…この…今の俺の身体の持ち主なのか?」夕暮れの薄暗い森の中、崩れた神社の境内に緊張したけどどこか綺麗な女性の声が響く。
すると目の前にいる『俺』は口を開いた。
「……うん。私は貴方の身体の持ち主」そう答える声は聞き覚えがあるようで若干記憶よりも違う、でも自分の声だとわかる、そんな男性の声だった。
こんな会話だけで相手が本当に宇月原真秀であるかは確実ではないけど、でもこの時は珍しく相手の言葉が信じれたのか、これ以上相手が宇月原真秀であるかどうかは聞かなかった。
男言葉の女子と女言葉の男子の会話は続く。
「お前も……突然その姿になったのか?」
「……うん。大体一週間くらい前かな……。その時と今との2回だと思う…」
「…そうか。俺も2回目だな。…お前もこの神社に来たことがあるのか?ここを知っていたみたいだが…?」しかしこの問には予想外の答えが帰ってくる。
彼女(やはり抵抗がある。でも彼ではない気がする)は首を振った。
「……ここに来たのは初めて。神社も初めてしったよ」
俺は驚いた。何に驚いたのかというとこの神社を見つけられた事だ。俺が自分で見つけておいて言うのも変だがこの神社、けっこう森の奥にあって分かりづらいのである。普通に探してもまず見つからなさそうな、そんな場所にある神社なのである。
「……じゃあどうやってこの神社を見つけたんだ?それにノートにはこの神社の名前があったし……」
「それは……、上手く言えないんだけど…。なんというか頭の中に声が響いてきたの。蟬坤宮に来いって。同時になんとなくここまでの道のりも頭の中に浮かんできたんだけど…。ノートには頭の中に聞こえてきたこの神社の名前を書いただけ…」
「頭の中に聞こえてきた……?それじゃあまるで神のお告げみたいなかんじゃないか」自分は神様とかそういうのはどちらかと言えば信じない方だった。そんな自分からすればその言葉は寝耳に水だった。しかし先程から続く異常事態に自分の脳は麻痺していたようで、そんな話も口では否定しながらもなんとなく信じてしまっていた自分がいた。
だからなのかどうかは知らないが俺はこの直後に起こった出来事にもさほど取り乱すこともなかった。普通なら恐怖して逃げ出すとか、腰が抜けてしまうとかそんな反応になるのだろうけど、俺も、そして目の前にいた宇月原真秀も、特に動じることなかった。まぁ、何があったのかというと――
[神のお告げか、成程確かにそれに近い物ではあるだろうな]
突然頭の中にそんな言葉が聞こえてきた。いや、浮かんできた、とも言えた。何故ならその言葉は声として頭の中に聞こえてもきたけど同時に頭の中に文書としても浮かんできたのである。この場にいた2人は思わず空を見上げた。
しかし声の主は見当たらない。2人は周りを見渡した。しかし周りにも見当たらない。ふと神社に目が行く。
その後の出来事は正直俺にとっては急展開過ぎて呆然と眺めているだけだった。だから何が起こったのかだけとりあえず書くことにしよう。
神社の前を風が通り過ぎていった。つむじ風みたいな風だった。そしてその風は同時に蝉の声も運んできていた。その蝉の鳴き声は聞いてる限りでは1匹に聞こえた。そして風が通り過ぎていった後、蝉の鳴き声は止むかと思ったらむしろ大きくなっていった。
すると何処からともなく蝉が1匹飛んできた。どうもその蝉が鳴いているらしい。その蝉は神社の社の正面の賽銭箱に止まった。
そして突然その蝉は光をだして輝きだした。見つめることが出来ないくらいに光り、思わず目を瞑った。やがて光が弱まったので恐る恐る目を開けてみた。そしたら蝉はいなかった。
その代わり蝉のいた場所に人がいた。
いや、人なのだろうか?俺はその時のことを鮮明に覚えているがどうしてもその時現れた『そいつ』の顔を思い出せない。いや、本当に思い出せないのだろうか?俺は『そいつ』を確かに見たし認識もした。
でもなんというか、分からないのだ。『そいつ』は覚えているのに顔が分からない。なんというか、頭の中で作った妄想の人物はイマイチ顔を思い浮かべにくい、そんな感覚だったと言うべきだろうか。しかも『そいつ』に関しては顔を思い出せないどころか服装も、声も、髪型も、体格も、何もかもを思い出すことが出来ない。そして初めて見た俺も『そいつ』が認識出来てはいるのに見えない。そんな感じだったと思う。どうも俺は直前の出来事を昔の事のように語っているがあくまで補足しておくと俺にとっては『先程』の出来事であった。が、なんせ理解不能な出来事なもんで自分の頭の中で整理しようとすると何故か過去形にするしか無かったのである。
時間としては多分30秒もなかったであろう出来事である。でも自分には時間の感覚はなかったからわからない。自分には一瞬の出来事であったように思う。
まぁとにかく俺の今目の前には神社があり、そしてその神社の正面には賽銭箱がある。そしてその賽銭箱の恐らくは上であろう、その場所にどうも『そいつ』が現れた、そうであるという事は俺は理解していた。未だに目で見ているのにその『そいつ』の特徴を表すことが出来ない。まぁだからどうしても想像出来ないのであればいわゆる『神』の姿でも思い浮かべるのが一番近いのだと思う。
話を戻そう。
『そいつ』は賽銭箱の上にいた。相変わらず立っているのか座っているのかもわからない。俺と宇月原真秀は何も言葉を発せずにいた。
僅かの沈黙の後、『そいつ』は初めて俺達の目の前で喋った。いや、脳内に響いてきたから喋ったのかどうかは分からないが。とにかくこう言った。
[ようこそ、我が蟬坤宮へ。1番目君と3番目さん。どうかね、身体が入れ替わった気分は]
その時、直感で俺はこの目の前にいる『そいつ』がこの俺と宇月原真秀が入れ替わっている事の原因なのだと、そう理解したのだった。
これが後後に続く様々な事件の全ての始まりとも言える瞬間であった
続く
前回の最後で次で謎が分かる的な事を言っていたな?半分正解で半分不正解だったよ。
すいません。長くなりそうだったのですこし話を弄りました。その関係で今回で話が纏まりませんでした。
次回はなるべくすぐに出します。ただ、次の話は少し長くなりそうなので予想しているよりは時間がかかりそうですが(汗
次回もどうか読んでやってください。
ではでは