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第二話「戦い方のご教授」

「この肉、あんまり美味しくない」



エルシアが氷鉱蜥蜴(グレイシャルリザード)の肉を食べると、顔を顰めて不味いと言わんばかりの顔で言った。


あるきはじめて数時間、日が落ち辺りが暗くなった雪の森で俺達は野営をしている。

フィンブル森林の末端まで来たはいいが、夜に移動するのは得策ではない。

そういう訳で、近くにいた氷鉱蜥蜴を倒してその肉と果物を集めて腹を満たしている。



「我儘を言うな。まだリムドール辺境国まだは距離がある。

 食べておかなきゃ生きていけないぞ」

「そうだけど…」



露骨に嫌そうな顔をするな。

確かに俺も初めて食べた時は微妙な顔をしたのを覚えている。

どうにか美味しく食べようとしてはみたが、この魔物の主食が好物なせいで肉自体の微妙な味は打ち消せなかった。



「諦めろ。いつか慣れる」

「そ、そんな…」



がっかりと首を折り、エルシアは諦めてちびちびと肉を食べ出した。




「なんだかノアって同い年じゃないみたい」

「経験があるからな。初心者から見ればそうなる」

「そうなのかな?」



確かに、俺と同じくらいの歳でクエストにソロで行くやつなんて見たことない。

そもそもソロでクエストに出る事態でおかしい奴ではあるんだが、16歳は普通やっと自立し始める年だ。

普通と違う3年間が俺を普通から変えていくのは容易なことだったろう。



「3年もあればな。でも他人事じゃいれないぞ」

「どうして?」

「足手まといにはならないんだろ?

 戦闘技術、魔物の知識、あらゆることを教えていくからな」

「そうしたらノアみたいになれる?」

「それは努力次第だ」



物心ついた時から俺は勉学を始めた。今の俺の知識レベルにまでになるのは少し無理がある。

エルシアが現状どれくらい知識があるのかは分からなかいが、全てを教えるとなると無理があるのは流石に分かる。

最低限の知識を教えていくのが一番だな。並行して戦闘経験も積ませていくか。



「俺に並びたいのなら明日からは戦闘と知識どちらも育てる。

 俺も剣術は独学だがある程度は教えられる」

「剣ってノアのやってたあのズバズバー!って動き?」

「ま、まぁそうだな、それと同時に律文の鍛錬もだ」

「律文か~村じゃ私的に使っちゃいけなかったから結構楽しみ」



律文、原理は解明されていないが特定の言葉を発することでこの世界で引き起こされる現象や物を引き起こし、作り出すことができる。

しかし、誰でも好きに律文を使える訳ではなく生まれた瞬間にる還る律文は決まる。

そして使える数にも上限と個人差がある。0から7個の律文が生まれた瞬間に授けられ後天的に手に入れることは不可能、とされているのが今の常識だ。


先の戦闘で俺が使用したのは剣、雷、不腕、千里の律文だ。

剣の律文は剣を作りだし、雷の律文は身に纏えば蝕電効果、速度の上昇を得る、不腕の律文は腕を使わずに物や魔力の操作を行え、千里は見たい場所を凝視することで遠視、透視を可能にする。


世界には律文が無数と言ってもいい程存在する。

どの律文が宿るかは運以外のなんとも言えないが、遺伝するものも偶にあると言う。



「エルシアの律文はいくつだ?」

「僕は4つ、ノアと同じだよ」

「…なら戦闘には困らないか。律文の種類は理解してるか?」

「もちろん、刹那、落花、金焔、残響だよ」

「…どれも初めて聞くものだ。辛うじて残響の律文を知っている程度だな」



判明している律文はウォルダン中央帝国中心で本にまとめられている。

確認され、律文の詳細が理解されていれば本に記され人目に晒される。

俺もその本は読んだし中に記された律文は粗方覚えたはずだが、今の中で知ってるのは残響の律文以外になかった。

領土の問題を避けるためにかなり昔に各国の領土が設定されてからは4国全てが不可侵を誓っている。

だが領土を決めたはいいものの大陸にあるどの国も支配が完全な訳ではない。

端に行けば行くほど手が届かなくなるものだ。ならばその環境で生まれた律文を確認できていないなんてことはよくあることだろう。



「律文を知ろうとするだけ無駄ってことか…」

「?」

「こっちの話」



今この世にあるだけでいくつあるんだか…原理もわからない与えられた力を人である身で知ろうとするのは禁忌ってことなのか。



「明日は朝早くから動く。早めに寝ておけよ」

「ノアは寝ないのかい?」

「俺はいい。数日程度ならどうにかなるしな」



冒険者になってから数日寝ない生活は日常だ。

それもクエストに出るのなら尚更、移動の往復で一日程度、クエストに実行で1から3日掛かる。

これも慣れだ。初めの内は木の上で寝たりして危険を避けるが最終的には不眠になる。

いつも通り寝ない気でいる俺に、エルシアは許さんと言わんばかりに顔をずいっと近づけた。



「駄目だよそんなの!」

「気にするな」

「気にするよ!」

「はぁ…わかった寝るよ。でも君が寝た後でだ」

「…わかった」



俺が代案を提示すると渋々と言った様子でエルシアは了承した。

そして数分後、焚火の火が弱まり徐々に光を失う中でエルシアは木に()()掛かり眠りについた。



「よし寝たな」



その様子を確認した俺は周囲の見回りへと移った。

正直寝るまで寝ないなんて言われると思っていたが、ちょろいなエルシア…

実際夜に行動する魔物がこの近辺ではあまり出ないから寝てもういいんだが、それでも不安は残る。

俺だけならどうになる。でもエルシアを守りながらでは難しい。



「ローブが無いと寒いな…リムドールに着いたらエルシアの装備を買うか」



俺は焚火を挟むようにエルシアの対角線に座りじっと彼女を見つめる。

我ながら馬鹿なことをしたものだ。素性も知らない怪しさの塊のような少女と行動を共にするとはな。


人助けをするのは当然だ。誰かが苦しんでいる。泣いてる。助けを求める。

俺はそれを放って置けない。誰からも狙われるのに誰でも助ける姿勢を、俺の親は良く思わなかった。

誰だって助けようとする俺を見た親は、時折何の理由もないのに俺に謝るようになった。

今なら分かる。あれは俺を予言の子として産んだことへ謝っいたのだ。

いっそ手の施しようのない悪であれば悲しみは少なかったのに、人を助けられる人として産んでしまったから苦しみを抱えなければならなくなった。


何をしても俺は両親を苦しめた。だから俺は家を出た。

寒風が吹く音だけが聞こえる夜、両親の寝ている間に俺は手紙を置いて家を出た。

父さんと母さんは今どう暮らしているんだろう。

俺が居なくなることで楽になったことがあるだろうか?苦しくなったことはあるだろうか?

居なくなれば救えるなんて、逃げるための言い訳なんだろうか?



「お前もそうなるのか?」



寝ているエルシアに、ふとそう聞いてしまった。

彼女はきっと、俺が終末の英雄であることは知らない。

確証がある訳じゃない。ただ一つの言葉が胸に残っているだけだ。



()()()



初めてそんなことを言っている人に出会えた。

消えることを望まれたり、無関心だったり、俺は人に目を背けられるか、見られた上で踏みつけられるかの二つしかない。

そう思っていたが、こんな子もいるんだな。

ま、たしかに言葉にされなかっただけで不の感情以外を向けない人がいたんだろうが、言葉は口にしてこそだ。



「可哀想ね…」



ずっと気付かないでいてほしい。でも、本当の自分も見てほしい。

俺と過ごし、知ったうえで、君は俺をまだ可哀想と思うのか。

それとも別の何かを思うのか。



ーーー



視界一面の花畑、虹色の花園に立ち尽くす僕を誰かが呼んだ。



「     」



振り返ると白髪の老人が僕を指さして何かを言っている。

なんて言っているんだろう?何も聞こえない。

わからない。この場所も、あの人も、何を言っているのかも。

白髪の髪、それは僕に一つの存在を思い出させた。

…終末の英雄、予言の子。でもあの人は老いている。

予言の言葉から考えても終末の英雄がこの年齢なのはおかしい。じゃあ、この人は誰?



「         」



また何か言っている。僕が話そうとしてもなにも言えなかった。

僕はまだ、ここに存在だけを許された存在なんだ。

この夢の中にいる事しか許されていない存在、体の感覚もはっきりしない。

それでも一度老人に手を伸ばそうとした時に体が引き込まれるように感じて夢は覚めた。


薪の燃える音が横で聞こえる。肌に寒い空気が当たって意識がはっきりしてきた。

そうだ。僕は気付いたらこの森にいたんだ。

それで…僕は…



「エルシア」

「…ノア?」

「寝ぼけてるのか?」



そっか、ノアと在ってリムドールに向かってる途中で野営して寝たんだ。

思い出した。



「起きるの、早いね」

「ああ、あまり深く寝れなくてな」



嘘である。別にあの後も一睡もしていない。



「すぐ起きろ、今日は実戦を行う」

「うっうん、わかった」



俺に急かされすぐに立ち上がって準備をするエルシアを見ながら俺は焚火の火を消した。

準備ができたエルシアと歩き出し、朝日に照らされる雪道を歩いているとエルシアの顔が何かを抱えているように見えた。



「どうしたんだエルシア?嫌な夢でも見たのか?」

「大丈夫、ただ…よく分からない夢だったんだ」



…ぼかした言い方ってことは触れない方がいいんだろうな。

でも、放って置いて後々爆発でもしたら大変だ。少し釘は刺しておくか。



「詮索はしないけど、抱え込むなよ」

「うん、ありがと」

「さっきも言ったが、今日は魔物との実戦を行う。

 この前会った氷狼(フロストファング)との戦闘をするぞ」

「任せてよ覚悟は決めてる」



そう言ってやる気満々の顔をしているエルシアには申し訳ないが、そこまで期待はしていない。

基本対人戦で戦いのやり方を身に着けてからクエストのところをすっ飛ばしてやろうって言っているんだ。

全て任せてしまえば彼女が危ないだろう。



「最初っから群れとは戦わせないからな。まずは一体一だ」

「そんな~」

「緊張感を持て緊張感をそもそも氷狼の特徴も何も知らないだろ」

「う…」

「そして剣術は君の律文を見てから決める」



主流な剣術はあれど型に従ってばかりではいざという時に対処できない。

自分にあったスタイルを見つけ出し改良し続けるのが剣士のやり方だ。

エルシアの律文を俺が理解できていない以上勝手に組み立てることはしたくない。なので直に目で見てから決める。

最悪律文を全て見れさえすれば、俺が魔物を殺したって良い。



「今の内に渡しておくぞ。創剣(グラディカーレ)

「短剣?」



俺が律文で作った剣を見てエルシアはその形状に首を傾げた。



「多少筋肉はあるとは思うが、剣を振る筋力はないだろ?

 魔力強化分を俺の勘で予想した上でそれにした」

「なるほど!」



エルシアに渡した剣は片刃の短剣、身長や体系から判断して俺が選んだ。

俺が冒険者を始めたときも使っていたから、初心者でも取り扱い易いはずだ。

貰った本人は目をキラつかせて喜んでるしあとは本番を待つか。



「俺の傍から離れず、最初は見ておくんだぞ?」

「うん、わかった」

「それじゃ、(レグナーレ) 」

「へ?」



俺は手を空に掲げ雷の律文で作り出した雷球を空へ打ち上げた。

一気に空へ撃ちあがった、雷球はそのまま破裂し空中に亀裂を作りだした。

エルシアは俺の突然の行動に理解が及ばないでいる。



「なにしてるのさ!?」

「これで敵が寄ってくるんだよ。

 弱い魔物は馬鹿だ。よくわからないものがあったらとにかく見に来る」

「そ、そうなんだ」

「ほら、言ってたらきたぞ」

「はや!」



説明している前になんと速いことか、もう魔物が寄ってきた。

俺は千里の律文で雪煙の上がる方を見る。

運がいい、あれは氷狼だな。



「下がれエルシア」

「うっうん」

「いいか?動きを覚えようとするな基本的な身体強化で戦うから剣の扱いと魔力の流れを覚えるんだ」

「がんばるよ」

「それじゃ!」



エルシアを一旦後ろに下げさせ、見るべき動きの要点のみを伝えて氷狼に駆け出す。

雷の律文を纏いながら向かう俺を本能で敵と察知した氷狼の1匹はすぐさま俺に飛び掛かる。

数は5体、剣術のみそして簡単な動きだけで倒す。


俺は氷狼の飛び掛かりを躱して無防備になった頭に剣を振り下し両断する。

獣系の魔物の頭は大抵普通の獣と同じ、本能でしか動かない。

敵を見つければとりあえず先手必勝、つまりこちらはカウンター前提の動きづくりで戦えば不利にはならない。


すかさずもう二匹が襲い掛かるが一匹の顎を後ろ蹴りで砕き、もう一匹の口に剣を突き刺し塞ぐ。

分かり易ように速く動きすぎず、一つ一つの動きは激しくしない。

口を塞いだ剣で脳まで切り裂く。

カウンター、複数相手の動きは見せた。最後に見せるべきは…

持っている剣を振りかぶり、後方で逃げようとしている一匹に向かって投擲する。

投げられた剣は回転しながらも外れることなく標的の頭を穿った。



「よし最後はお前、だ!」



味方が1匹もいないことに氷狼の本能が警鐘を鳴らす。

俺を視界にいれて警戒しながらゆっくりと後退している氷狼を逃がすまいと一瞬速度を上げて背後に回り蹴りで吹き飛ばす。

氷狼はこの寒さを乗り切るために体毛があつく、物理への体制が高い。

だからこの攻撃じゃダメージは入らないし、そもそもダメージが目的じゃない。

氷狼が吹き飛ばされた先にいるのは、エルシアだ。

起き上がった氷狼は目の前の新しい獲物を威嚇する。



「来た…」



よし、ちゃんと目標の場所まで飛んだな。

あいつが俺のこと警戒しているせいで近づいたら逃げるだろうし、ここで見ておくか。

剣を持ち氷狼と相対したエルシアの手は震えている。だが握る力が弱まっている訳ではない。

エルシアは俺の動きをしっかり見ていたんだろう。先手は撃たず、相手の動きを伺っている。

目の前の獲物に我慢を知らない氷狼は飛び掛かるが、エルシアは難なく避けて俺の真似をするように後ろ蹴りを放った。



「?」



なんだ、この違和感は?

感じた違和感の答えを得れないまま戦闘は進んでいく。

エルシアは体制を直した氷狼の次の突進を姿勢を低くすることで避けつつ氷狼の前へ進む力を利用し腹に突き刺した剣で切り裂いた。

腹を綺麗に切り開かれた氷狼は血を吹き出してその場に倒れた。



「やった、できた!」



エルシアは初めての魔物討伐に感極まり、その場で大きく飛び跳ねた。

その様子を見て、心配は杞憂だったかと思い俺は彼女の元へ戻った。



「おめでとうエルシア」

「どうノア!上出来でしょ?」

「想像以上だ。と言いたいが…エルシア、律文を使ったな」

「ギク」



当たりか…感じた違和感の正体は動きが完璧すぎることだ。

センスと言えば方ずくものでもない。

塾講されたような最適解をその場で導き出し完璧に実行する様子に俺は違和感を覚えた。

そしてエルシアにそれはできない。

戦闘経験から導き出される技術であるはずのものを初戦闘のエルシアが席る訳がない。

残された選択肢は、律文のみということだ。



「えっと、刹那の律文って言って自分の思考以外の時間を止めてくれるの」

「なるほど通りで」

「相手が動くと同時に使って一番良いなって思う動きに合わせたんだ」



思考以外の、時間停止か。確かにそれなら慣れない内に使ったとしても動き影響は出ないだろう。

だが時間停止と言うのが少し引っかかる。

それだと律文の効果範囲が世界全体にまで至るということになってしまう。それは有り得ない。

なら時間停止とサックスる現象と言えば…思考の高速化だな。

思考のみを加速させることで、知覚できる全ての現象がゆっくりに見えていたんだ。

戦闘の中で無意識に使えれば光る力だろう。



「よし、基本的な戦い方は刹那の律文を使いながらでいいだろう。

 リムドールに向かいながら無意識に発動できるように特訓だな。

 明日には着くだろうし今日も進むぞ」

「はーい!」



まだ肌寒い風が吹く中で、降る雪は段々と量を減らしていた。

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