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第一話「予言の少年」

書きたくなった

一面真っ白の雪景色の中、どの雪にも引けを取らない白い髪が揺れる。

雪は嫌いだ。


17年前、一つの予言が生まれる前の俺の人生を壊した。



『今より少し先、この地に白雪の如き髪と蒼玉の如き瞳を持つ少年が生まれ、彼の者は豊穣を枯らし海を果てさせ終末を呼ぶ英雄となるだろう』


この予言が世界に広がると同時にこの世界から俺の居場所はなくなった。

両親は俺が生まれた時、辺境も辺境、最早最果てともいえる森に住んでいたから原相登録をせずに済んだ。

両親はここにいれば大丈夫、英雄捜索隊も来ないと言っていたけど俺は自分のせいで両親が苦しむのも殺されるのも嫌だったから一人で生きていけるようになった13の時に家を出た。


それから3年が経ち16歳になった今、俺は雪がしんしんと降り積もる銀世界で野営をしている。

倒れた木に腰を掛け、横に倒れている氷鉱蜥蜴(グレイシャルリザード)の肉を焚火で焼く。

決して好んで食べれるような味ではないが、この寒冷地で食べれる物は少ない。

硬く、それでいて味も薄い肉を租借しながら自分がいる崖の下の様子を眺める。


この時期の魔物は冬眠している場合が多い。だが冬眠状態に入らずいて年中活動している魔物もいる。

そういう魔物に限って強い奴が多い。

そういう事情もあってギルドは冬季寒冷地の魔物討伐クエストはあまり推奨していない。


まぁ、だから俺がここにいるわけなんだが。



もう一口肉を食べようと口に運んだ時、微弱な振動を感じ手を止めた。

耳を澄ませてすぐに大凡の位置を特定する。

そちらを見ると森を横断する巨大な雪煙を発見した。



「結構多いな」



そう零して俺はローブのフードを深く被り、崖を飛び降りる。

高さにして20m程度、地面についたら終わりだな。


空中で身を捩り、体を地面に対して並行にし崖に足を着け一気に蹴る。

魔力による身体強化が可能とする技だが、跳べて数10m、雪煙までの距離はあと少しある。

木の枝上に着地した俺は一度雪煙の真下を凝視する。



千里(ラヴィテ)



()()を口に出して言うことで、その文に刻まれた現象が引き起こされる。

俺の視界に、魔物から逃げる一人の少女が映る。

追っている魔物、雪狼(フロストファング)か。

この時期に一人で?見る限り冒険者を初めて間もないようにも見える。

何が目的だ。



「まぁいいか。(レグナーレ)



俺は体に雷を纏い加速した足で千里を使いながら少女の元へと駆ける。

広い道を通って逃げているのに救われたな。狭い道なら詰まった瞬間食われてる。

あと少し…いた!



「来るな!」



視界に捉えた少女は必死に手に持った小さなナイフを投げている。

やっぱり初心者か、初心者をこんな場所に送るなんてギルドの奴は何をしてるんだ。

よし、射程距離に入った。

俺は、纏う雷を一層強くし大きく跳躍する。

上から見る限りだと20体、森の中にいる想定ならあともう何体かいるな。



創剣(グラディカーレ)不腕(マノトゥス)



俺の律文によって、空中に100本を超える剣が作り出される。

雪狼に気付かれる前に倒し切ることがベストと判断し俺は不腕の律文で剣を操作し、一気に雪狼を串刺しにする。

空から舞い降りる大量の剣が雪狼が貫く、周囲の雪を赤く染める鮮血を吹き出しながら倒れる雪狼を尻目に俺は地面に降り立った。

助けた少女は何が起こったのか分からずその場で立ち尽くしていた。



「君」

「!な、なんですか」

「どうしてここに一人でいる。パーティはいないのか?武器は?」

「わ、分からないです」

「分からない?」



魔物に追われたのが怖すぎて錯乱しているのか?

仲間が殺されたっていう線は、服に目立った返り血も傷もないから有り得ない。

本当に一人で来たのか?



「ぼ、僕は気付いたらここにいたんです。

 ただ村の神殿にあった銅像を磨いていただけなのに」

「…武器も装備も持っていないところを見るとその発言は信頼できるが、詳しい話はあとで聞こう」

「え?」



群れが壊滅したことで後方で怠けてられなくなったな。

俺は壊滅した雪狼の死体のさらに奥、ゆっくりとこちらに歩いて来る通常の雪狼の三倍の体格を個体、群れのボスを見る。

群れを倒されてお怒りってところかな。



「先に縄張りに入ったのはこっちが悪いけど、獲物になる気はないぞ」



俺はこちらへ殺気を向ける群れのボスに、雪狼のの死体から剣を一本引き抜き相対する。

自分の群れが殺されたから、警戒はしてるな。こっちの動きを探ってる。

でもそれは速度で勝てる前提の組み立てじゃないのか?

纏雷をしている俺にそれは…



「よくないな」



俺の腕が力んだ瞬間、感知した群れのボスは即座に腕を振るい強靭な爪で薙ぎ払う。

当たったと確信する程の速度、並大抵なら今ので即死だろう。


だが俺の動きは基本カウンター前提、先手からの圧倒はしない。

次の瞬間勝ち誇った群れのボスの顔面に回し蹴りが入る。

大きく退く群れのボス、何が起こったか理解できていない。



「痺れてる…?」

()()()()だ。俺に触れたらこうなる」



群れのボスは今、体を駆け巡る電気が筋肉の麻痺を起こすことで動けなくなっている。

この内に倒し切る。纏雷の加速で俺は距離を詰め群れのボスへ斬撃を合わせる。

しかし麻痺も永遠ではなくすぐに群れのボスは動き出し周囲を尻尾で薙ぎ払う。

回避のために一瞬距離を取り隙が生まれた瞬間、群れのボスは空に向けて遠吠えをした。

森全体に響くような狼特有の救難要請、すぐに近くにいた雪狼が現れる。



「やっぱり近くに待機してたか」



俺の周りを雪狼が囲んだと思えば、群れのボスは手下を置いて一目散に走り去った。

手下に時間稼ぎさせて、自分は逃げようってことか。

どこまでいっても考えが獣だな。単純で助かる。



「溜まってきたな」



剣でちまちま相手にしててもいいが、今は群れのボスを倒すのが目的だ。

荒っぽいけど使わせてもらうぞ。

俺は体に迸る雷を抑え込み、一気に外へ解き放つ。



放雷(ディスパージ)



俺の言葉に呼応して、体に溜められた電荷が一気に解き放たれる。

雷は一瞬で手下の雪狼を丸焦げにした。

雪狼を一掃した俺に焦った様子で少女が駆け寄ってくる。



「あの、さっきの大きい狼が」

「わかってる。創剣」



俺は再度剣を作りだす。今度はもっと刃も持ち手ももっと長い物を作りだす。

時間を掛けずに終わったおかげで、そこまで離れてない。

これなら届くだろ。

作り出した武器はっ最早剣と呼べるのか、槍にしか見えない代物、だが剣の律文で生成できるのなら剣で間違いない。



「少し下がってて」

「えっはい」



俺は彼女を3歩程後ろに下げさせると再び纏う雷を強くして投擲の姿勢を取る。

腰を捻り、肩に力を込め回転と同時に解き放つ!

腰の回転と共に解き放たれる方の力、そして槍にまで付与された雷の力が合わさり投擲した瞬間に目に見えぬ速度で飛んでいく。

空を切る一閃は瞬きの間に群れのボスへ迫り、一瞬でその胴に風穴を開けた。

残された足がその場で動きを止め、まるで起こったことが理解できていないようにドサッと倒れた。



「すごい…」



巨体すらも貫いた俺の投擲を見て、少女は思わず言葉を零した。

俺の周囲に他に魔物はいないことを千里で確認することで確信し、体の帯電を解いた。


さてと、周囲の危険は排除したわけだが、この子をどうしようか。

見た目は同い年くらいか?茶色の髪に、狐目ではあるものの少し活発さの残る感じ、髪は少し耳にかかるくらいの短さ。

捜索隊は一番有り得ないな。俺がここにいるのを分かっているなら態々演技で誘き出さずにすぐ捕まえに来るだろ。



「僕の顔そんなに変、ですか?」

「あ、ごめん身体的特徴でわかるかなって」

「出身はカノン聖教国の小さな村で、マカローンって所なんですけど」

「知らない場所だ」

「辺境ですからね」



この大陸の地理と主要な街やらは頭に入れているはずだが、聞いたことも無い。

知らない場所ってことは地図にも載ってないなら国の支配をあまり受けていない。

疑う情報はないはずが、一人でここにいること自体がものすごい怪しい。

でも転移してきたのが本当だとしたら?

…見捨てきれない。いや見捨てない。

危険に身を投じるとしても自分の本質に背いて、人を見殺しにするなんてことしない。


俺は被っているフードを脱ぎ、少女の言葉を一度信じてみることに決めた。



「君、名前と歳は?」

「僕はエルシア・フォール、今年で16です」

「俺はノア・ウェルス、今年16ってことは歳は同じだな。畏まらなくていいよ」

「えっ本当!?敬語使ってたの恥ずかしい…」



エルシアは同い年と分かると顔を真っ赤にして先ほどまでの自分の口調を恥じ始めた。

頬に手を当て、赤くなった顔を隠そうとしている。

いや隠せてないんだけどな。


それにしても同い年か、予言のせいで人付き合いもまともにしてこなかったからな。

同い年と面と向かって話すのはこれが初めての経験だ。



「エルシア、君の事情は一応把握した」

「ほ、ほんとに!?」

「ああ、カノン聖教国へ向かうのなら一度リムドール辺境国に戻らないといけない。少し歩くぞ」

「ってことはここはリムドールの領内かい?」

「そうだな。西側になる」



この大陸にある国は4つ、ウォルダン中央帝国、カノン聖教国、ロスペラ興国連邦、リムドール辺境国だ。

今俺達がいる場所はリムドール辺境国の西にあるフィンブル森林、俗に言う妖精族(エルフ)と呼ばれる種族の住む場所の近く。

ここから南西に向かいウォルダン中央帝国を突っ切ればカノン聖教国に到着する。

口で言うのは簡単だがやる事は実質大陸横断だ。

長い旅になる。



「少なくとも2年は掛かる。大丈夫か?」

「家に帰れるならやるよ。足手まといになるつもりもない。

 絶対に帰るんだ」

「いい心意気だ。なら行こう」



俺は彼女の意志を認めるとここに来るまでに一度通った道を覚えているのでその道に戻る為飛び降りた崖の方は歩き出した。

エルシアも、置いていかれないようにすぐに着いてくる。



「君、突然ここに飛ばされたっていうのに順応が早すぎやしないか?」

「気丈に振舞ってるんだよ。僕だって怖いし悲しいよ。

 急に誰もいなくなったのも、何も言わずに消えたのも

 でもあと一年で村を出て冒険者になる予定だったんだ。

 だからそれが少し早くなっただけって考えるよ。ちょっとスタートが違うけど…」



自分の現状に不安を孕みながらも呆れつつもポジティブに考える姿勢は良い点だ。

強い女性なんだろう。他人には悟らせず自分の不安は抑え込む。立派だ。


だが、冒険者になろうと言うのに魔物の知識が少ないのはあまり良い事ではない。

自然の中で生き抜く。サバイバルの知識だって必要だ。

知識という知識は命の殺り取りでは時に純粋な戦力よりも価値がある。

まあ気長に考えよう。旅の途中に軽く知識を与えるくらいはするか。



「にしても、この時期は本当に人がいない」

「へくしゅん!寒いことと何か関係があるの?」

「おっとそうだった。はい」



肌寒そうにしているエルシアを見て、俺は彼女があまり服を着込んでいないのを見落としていたと気付いた。

走り続けていたおかげで体が冷えていなかったのだろう。

だがこれからは冷えると思い俺は自分のローブをエルシアに渡した。

防寒用として裏には毛皮が付いている。少しは寒さが和らぐだろう。



「血生臭いとか獣臭いとか言うなよ」

「言わないよ!

 ありがとうノア、これ毛皮がついてるけど高かったんじゃ?」

「そりゃな。でもここで活動するならそれが最低限の装備だ」



俺の装備は四肢に鎧、魔物の素材を使った多少の防刃性能を備えた服と防寒用のローブだ。

律文を唱えれば体と思考の速度は上げられるが、細かい動作が鈍らないようにするためには防寒をしなければならない。

熱系統の律文があれば文句はないんだけどな。



「そうだ。さっきの質問に答えよう。

 人を全く見かけないのは寒いことも関係あるが、そもそもここは妖精族の領域のギリギリ、入れば迷うって言うのに態々領域の境界を見極めて行動する人間がいない」

「でも、ノアはここにいるじゃないか」



…鋭い指摘だ。

言えるわけない。予言で人目は避けたいから極力人のいない時期や場所を狙ってるなんて言える訳がない。



「パーティはいないのか?とか僕に聞いてたのに君に仲間はいないようだし」

「…」

「武器は持ってないのか?って言ってだけどノアも持ってないよね?」

「……」

「僕と同じくらい怪しくない?ノア」

「俺は一人の方が楽なんだ。武器は自分で作れる」



事実だ。だがエルシアに俺の事情を話す訳にはいかない。

予言の子として世界の脅威になった俺は、見つかれば即永久投獄か処刑だ。

今は右耳につけた特殊なピアスのおかげで髪の色をどうにか誤認させれているが、顔が割れてしまえば凌げるか分からない。



「冒険者を始めた頃に仲間と色々あって…」

「あ、そうなんだ…ごめん」



俺の苦し紛れの言い訳を純粋に受け止めたエルシアが申し訳なさそうに謝った。

年相応の純粋さに胸が痛くなる。許してくれエルシア。

そう思う俺を見て話題を変えようとしたエルシアが発した言葉は俺の顔を曇らせた。



「そういえばノアは予言の子って知ってる?」

「…もちろん知ってるよ」



一瞬、たった一瞬顔が曇ったが俺はすぐに他人事のように振る舞った。

彼女の様子から見て、気付いてはいないだろう。   



「終末の英雄なんて呼ばれて、()()()だよね」

「!…可哀想?」

「だって、予言だけで誰からも狙われるんだよ?」

「仕方ないだろ。世界か一人の人間なら、みんな世界を取る」

「でも、可哀想だよ」



なんとまあ根拠のない言葉だ。

誰だって一人と世界が天秤に掛けられれば世界を取る。

そして犠牲になる一人、俺のことは他人事だ。

死んで喜ばれる存在、それが生まれてから初めて貰った自分の評価だ。

根拠もなければただの主観で得た感情論、実に軽い。



「そうだな。少しは可哀想かもな」

「そうだノア、何度も話が変わってるんだけど、ノアはどうして冒険者になったの?」

「…旅をしながら稼げるからかな。あとは、色んな出会いを求めて」

「行く先で女を増やすのは良くないよ?」

「そういう意味じゃねえよ」



詰め寄ってきたり、発言の揚げ足をとってきたりと、この子少し距離感おかしくないか?

いや小規模な村だったんだろう。であれば誰もが友人又は家族同然だ。

幼い頃から誰とも家族的に接してきたんだろう。都市に出れば勘違いさせられる奴が多そうだ。



「色んな出会い、ドラマチックだね」

「そうか?確かに面白い出会いも幾つかあったな」

「じゃあ旅の途中で色んな話聞かせてよ」

「ああ、たった3年程度の旅の話だけどな」



たった3年間、生きるために多くのことを学んできた。

剣術、律文の技術、律文の威力、身体強化、魔物の知識、生存術、生き抜くために手は抜かなかった。

最初は剣術と並行して律文を使うのに慣れなかったが、時が経つにつれ順応してきた。

それによって得た者は多く大きい。その最たる例がこの耳飾りだ。



「そんなに長い間旅をして、ノアは何を…()()()()()()()()?」



さっきと同じ軽い言葉、その言葉に何か真意を探ろうなんて意はない。


何が欲しかったか、ね。

旅の目的も無しに放浪をする者はいない。

何かを求め、何かを為したくて旅をする。それは自分の人生に足りない物、あるいは自分の人生に充足を与える事を欲することだ。

俺の人生に足りない物、留まっていれば危険はなかったのに旅をしてまで手に入れようとする物。



「愛が欲しいんだ」

「愛?」

「誰だっていい。俺を、ただ肯定して欲しいだ」

「ノア…」

「なーんてな。臭いこと言ったから恥ずかしくて胡麻化しただけだよ。

 気にしないでいい」

「もー真面目に心配しちゃったじゃないか!」



俺の言葉に心配しかかっていたエルシアが冗談だと言われると頬を膨らませた。

冗談だ。冗談のままでいい。

誰にだって明かす気はないんだから。

この旅が終わるまで、君が俺の正体に気付くまで、この心は閉まっておくんだ。

あまり難しくなく、説明が多すぎない小説を書きたくて始めました。

どうですか?

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