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第5話 優しい鬼の子、五羽が選んだ優しい道

 

 六羽がいなくなった日、五羽いつばは、屋敷にいなかった。

 下界から戻って聞かされた事実は、五羽を打ちのめした。

 

 「ただいまー」


 いつも通り、普通に帰った。ただ、それだけだ。

 しかし、五羽を出迎えた使用妖怪が、尋常ではない悲鳴を上げたので、びっくりした。


 「えっ、何っ!?何なのっ!?」


 新しく雇ったわけでもない、古参の保持妖怪だ。

 怖がられる理由が分からなかった。


(そういえば、眼鏡の度が合わなくなったって愚痴をこぼしてたわ。もう歳だから仕方ないって、先週そう言ってたわね。でも、声で分かるでしょうに。耳まで遠くなったのかしら?)


 五羽が首を傾げていた所へ、一羽が素っ飛んで来た。


「あっ、一姉かずねえ、ただいま~」


 五羽が微笑むと、一羽が、目を見開いて叫ぶように名前を呼んだ。


「六羽!!」


「!!もう!一姉ってば、また間違えた!三羽と四羽は見分けがつくのに。どうして、あたしたちは、間違えるの?ひどくない?」


 五羽にしては、珍しく拗ねた。

 もう、なれっこだが、何となく良い気がしなかったのだ。


「確かに、あたしたち二人、声も、そっくりだけど。雰囲気で見分けられない?」


 ぷくぅっと頬を膨らませた。しかし、一羽の反応を見て、ぎょっとした。

 その場に崩れ落ちるようにして、両手を床についたからだ。


「ちょっと!!一姉、大丈夫!?」


「良かった、あなたで……」


「!?」


 呟いた一言を聞き取って、五羽は眉をひそめた。


「何が、あったの?六羽は、どこ?」


 その時、か細い声が聞こえて目を遣った。


「むっちゃん!?」


「あっ、二羽ちゃん!ただいまー!」


にこっと笑い掛けた瞬間、信じられない事が起きた。

二羽が、脅えた目をして、今にも泣きだしそうな顔で走り去ったのだ。

おそらく、行き先は、リビングだ。


「えっ!?二羽ちゃん!?」


 何が起きたのか、五羽は、一瞬分からなかった。避さけられたのは、初めてだ。 

 ショックで棒立ちになった優しい弟を見て、一羽は、立ち上がった。 


 「六羽が、二羽を襲ったのよ」


 「!!六羽が!?」


 五羽は、信じられない思いで一羽を見つめた。

 一羽は、言葉にするのが辛かった。


「そうよ。三羽と四羽、自分の兄二人を斬り付けて、大怪我を負わせたの。最後は、十羽に斬られていなくなったわ。私たち、十羽に救われたのよ」 


「そんな!!」


五羽は、心の中で、六羽に問い掛けた。 


(ねえ、六羽、あたし達は相容れない。それでも、同じだったわね。お互いが、恋焦がれた相手は。でも、あたし達のどちらにも、叶う未来はこないから、一緒に諦めたじゃない。急に、どうしたって言うの?一体、何を求めて動いたの?) 


 二羽の綺麗な黒髪は、ばっさり切られていた。

 五羽は、自分の顔を見て震える姉を悲し気に見つめた。

 

「いっちゃんも、嘘なの?」


 弱々しく、声を振り絞るようにして尋ねる姉を見て、五羽は、瞬時に決めた。


「ううん、あたしは、あたしよ。六羽とは違う」


 熱い決意を胸に秘めて、五羽は微笑んだ。

 そして、悲し気な問いに、優しい嘘で答えた。 


「これからも、可愛い妹でいさせてね」


 五羽の言葉を聞いて、二羽は安堵したように、くしゃりと顔をゆがめて笑った。


「よかった」 


 一羽は、壁に背を預けて、二人の会話を聞いていた。

 そして、無言でリビングを出て行った弟の、寂し気な背中を追い掛けた。


「五羽!!あれで、本当に良かったの?」


「一姉?」


「六羽みたいな事をされたら困るけど。あなたも、もとに戻ったら?屋敷から追い出したいわけじゃないのよ。でも、苦しい恋を続けてたら、あなたまでおかしくなるわ。玉砕覚悟で、告白してみたら?たとえ、二羽を傷付ける結果になっても、あなたの責任じゃない。ここを出た方がいいわ。だって、辛すぎるでしょう?」


 一羽は、切実に、それを望んでいた。

 リビングからは、だいぶ離れた廊下だったが、万一の事を考えて、一羽は声を潜めて話した。  

 必死な声音で、諭すように言う姉を見て、五羽は、弱々しく微笑んだ。


「ありがとう、一姉。でも、あたし、決めたの。今日ね、もう一度生まれ変わると決めたのよ。父親は同じなのにね。これが、鬼の血かしら。六羽も、あたしも、気が狂いそうになるほど愛した女は、義理の姉だった。他は、いらない。まるで呪いね。でも、ちゃんと分かってたわ。あたしたちのどちらにも、叶う未来は、初めからないって。だから、あたしは、大好きな人の笑顔を見られる幸せを選ぶわ。その為なら、オカマ双子と呼ばれ続けても構わない」


 固く言い切って自室に向かう弟の、逞しく育った背中を、一羽は、じっと見つめた。


「五羽、私は、鬼の血を混ぜて行ったあの女が、心底憎いの。あなた達に罪はないって分かってるけど、それでも思ってしまう。あなたが、あの女の子供じゃなかったら良かったのにって、思わずにはいられないの」


一羽は、悲しそうに目を伏せて呟いた。


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