婚約破棄!からの…! 願ったり叶ったりですわ!
学園の卒業パーティーで、この国の第2王子であるアランが言う。
「フィリア、すまない。君との婚約は破棄させてもらう。私は、イリスと婚姻を結ぶことに決めた。勝手だが、イリスを愛してしまったんだ。自分の気持ちに正直にありたい」
「ごめんなさい、フィリア様。
ですが、私もアラン様を愛しているのです。
これから、しっかりと王子妃教育を受けて、フィリア様に恥じない王子妃となりたいと思います」
アランの隣にいるイリスが涙を流しながら申し訳なさそうに言った。
そう、侯爵令嬢フィリアはアランの婚約者だった。
14歳の時に婚約を結び、それなりに良好な関係を築いていた。
だが、今日の卒業パーティーに着るドレスや宝飾品が送られないことで、イリスがパートナーとなるのだろうと察した。そしてアランが迎えに来なかったことで、近日中に婚約が解消または破棄されるだろうことは予測していたので驚きはない。
この場でなくても…との思いは少なからずあるが、穏やかに微笑み、カーテシーをした。
「アラン殿下、婚約破棄謹んでお受けいたします。
イリア様とお幸せになってくださいね」
姿勢を正して、くるりと踵を返したところで……
「では、私がフィリア様に婚約を申し込ませていただきます。フィリア様、よろしいですか?」
と、騎士団長の息子でアランの側近であるランデルがフィリアの前に立って手を差し出した。
「婚約をお受けするのは父なので、お返事は出来ませんが、大変嬉しく思います。
ランデル様。ありがとうございます」
と、その手に手を添えた。
「では、このままガーディアン卿に挨拶に伺いましょう。アラン殿下、御前失礼します」
と、二人で会場を後にした。
フィリアの内心は拍手喝采、今にも踊り出したい気持ちで頭の中はファンファーレが鳴り響いていた。
(イリス様!大変、大変!ありがとうございます!!
これぞ、願ったり叶ったりですわ!!)
実は… フィリアは、密かにランデルに恋をしていたのだった。
――――――
16歳となり、侍女達の間で流行っている恋愛小説を密かに借りて読んでいたフィリアは、恋愛感情がなんたるかを理解し、そして自分の好みのタイプをハッキリと自覚してしまったため悩んでいた。
フィリアのタイプは、ランデルのような、細身でありつつも筋肉がしっかりついた、長身で短髪でキリッとした顔立ちの令息であった。
アランも長身だが、鍛錬は殆どしていないため筋肉はあまりついていない。サラサラの長い金髪は毎日丁寧に侍女によって纏められ、やや中性的な顔立ちをしている。
決して嫌いではなく、婚約者として大事に思っているが、タイプではないので全くときめかない。
(あの、ガッチリとした腕と胸に包まれてみたいですわ… お姫様抱っこなるものも、ぜひともしてもらいたいものですわね…あの硬そうな髪にも触れてみたい…)
フィリアの目は自然とタイプであるランデルに向かってしまう。
アランの婚約者として不誠実だと自分を責め、残り1年半となった学園生活が終われば、アランとの婚姻の準備に入るのだからと、恋心を封印しようと決意していたのだが……
1ヶ月前に2年生のクラスに編入してきた伯爵令嬢のイリスが、最近アラン達とよく一緒にいる。
イリスは伯爵家の庶子だったが、平民の母とともに市井で暮らしていた。平民の母が病で亡くなり、伯爵家には跡取りの令息はいたが令嬢がいなかったことで正妻の子として引き取られる事になり、籍を入れた後貴族学園に通う事になったのだった。
平民出身のため、まだ令嬢としての所作は身についておらず令息達との距離もとても近い。
貴族令嬢は、婚約者以外とは人1人分の距離を常に保ち、体に触れることは決してない。だが、イリスは不敬を物ともせず、アランにも顔を近づけて話しかけたり、腕に気軽に触れたりしていた。
学園の生徒は、学園では身分差はないものとし、王子であっても不敬を問わないとされている。だが、暗黙の了解としてアランや高位貴族達には不敬とならない最低限の礼をもって接している。それを無視しているイリスだが、平民出身だから仕方ないとして誰も咎めることはしなかった。
婚約者のフィリア以上に近い距離にいるイリスだが、フィリアも咎めることはせず、ランチやティータイムには、カフェテリアで楽しく話している二人を、アランの反対隣に座り穏やかに微笑んでみていた。
そんなフィリアを気の毒そうに見つめるメンバーの中にはもちろんランデルもいた。宰相の息子のレオンとその婚約者のヴィヴィアン、公爵令息のクリフとその婚約者のエリカ、そしてまだ婚約者がいないランデルがいつものメンバーだった。
学園が終わるとフィリアは王子妃教育のため、ランデルも騎士団の訓練に参加するため、二人はアランの馬車に乗せてもらい毎日3人で一緒に王宮に向かっていた。
ある日、イリスが最近できた人気のパティスリーに行きたいと言った。その日は王妃様による直接の教育があるためフィリアは王宮に行かなくてはならなかった。ランデルも模擬試合の日だったため、不参加はしたくないと話した。
では他のメンバーだけで行こうとアランが言ったため、フィリアは自分の馬車を呼んでもらって王宮に向かう事にした。侍女が馬車とともにやって来てくれるため二人きりにはならないから、ランデルも共に乗りましょうと誘い、二人で王宮に向かった。
「フィリア様、アラン殿下とイリス様をみていて辛くはないですか?お辛いようであれば、私から二人に意見をさせていただこうと思いますが…」
と、フィリアを気遣う表情を浮かべながら言い、フィリアをじっと見つめる。
「ランデル様、お気遣いありがとうございます。
ですが大丈夫ですわ。私とアラン様の間に恋愛感情はないのです。お互い婚約者として大切に思っていますが…… もし、アラン様が他の方に恋愛感情を抱いたとしても受け入れる事は出来るんです。
王子妃教育も機密事項は含まれていませんので、他の方に変わっても差し支えありませんし、わたし自身にとっても教育自体無駄にはなりませんから。
むしろ、もしそうなれば、高度な教育を受けることが出来て幸運だったと思うと思いますわ」
と微笑んだ。
「そうですか……
なら、私はこのまま行動を起こさない事とします。
アラン殿下次第ですが……
もし、アラン殿下が他の方を選んだとしても、決してフィリア様の非ではありませんから、ご自分を責めないでください。
フィリア様は、誰よりも魅力的なお方です」
キッパリと言うランデルに、フィリアだけでなくその場にいた侍女も赤くなって俯いた。
(あぁ… ランデル様、かっこ良すぎます…
これでは、侍女も恋してしまいますわ…
……罪なお方ね…… ますます好きになってしまう…)
フィリアは、この状況を作ってくれた二人に感謝し、密かに二人の仲が発展する事を望んだ。
その後も度々、放課後のお茶や買い物をイリスは提案した。フィリアが王宮での教育を優先して参加せず、またランデルもその度にフィリアと共に王宮に行くため、自然と3組のデートのような形となっていた。
日増しにアランとイリスの仲は深まっていったのだが、学園のカフェテリアでアランの横に座るフィリアは、二人をいつもニコニコと微笑んでみていた。
その様子に、いつものメンバーだけではなく学園の誰もがアランの婚約者が変更されるだろうと予測し、フィリアに同情の目を向けた。
「せっかく王子妃教育を受けておいでですのに、このままだとイリス様に立場を奪われますわ。フィリア様はなぜお二人を咎めないのかしら……婚約者として咎めてもいいと思いますわ」
「フィリア様は、アラン殿下を大切に思っていらっしゃいますから、そのお心に従うおつもりなのでしょうか」
「フィリア様は、とても慈悲深いんですのね。アラン殿下のお心が他の方に向いても受け入れる事が出来るなんて…」
フィリアの立場を気の毒に思いつつも、フィリアが何も行動しないため、他の生徒達はただただ成り行きを静観していた。
生徒達の噂はフィリアに届いていたが、フィリアはランデルとの馬車でのひと時に心を躍らせており、
(次はいつデートを提案してくれるのかしら?
私としては毎週お願いしたいところなのですけれど!イリス様に流行りのお店をそれとなく伝えてみようかしら?)
と、自身の欲全開に、二人の仲が進展する企てを立てていた。
淑女の仮面のせいで、誰一人フィリアの内面に気づく事はない。
いや、いつも3人で王宮に共に行くフィリアの侍女だけは気づいていた。
(フィリアお嬢様、今日もランデル様に見つめられてとても嬉しそうね…… 今日もイリス様がアラン殿下をお誘いしてくれて、イリス様グッジョブ的な感じで思っていそう。
……ランデル様はフィリアお嬢様に絶対気があるわよね。ちょいちょいお嬢様を褒め称えるし、お嬢様を見る目が優しいわ。
お嬢様も、淑女の仮面で隠してはいるけれど、褒められる度に顔が赤くなるので、ランデル様にときめいてしまっているのが丸わかりだわ。
アラン殿下との婚約が解消となっても、この二人なら大丈夫ね)
甘い空間を邪魔しないよう、ひたすら空気でいようと侍女は毎回努力した。
――――――
「フィリア様、もうお気づきかと思いますが、以前よりお慕いしていました。
アラン殿下の婚約者であったため気持ちをお伝えすることはないと思っていましたが、婚約者がいないあなたには、もう気持ちを隠す事はしません。
私には誰よりも魅力的です。愛しています」
「わ、わ、私もランデル様のことを、以前からずっとお慕いしていましたの!アラン殿下の婚約者なのに、不誠実だと自分を責め、この恋心を封印しようと思っておりました。ですが、諦めなくて良いのですね!嬉しいです!!
ずっと以前から大好きですわ!ランデル様!
ランデル様の婚約者にしてください!」
満面の笑みで見つめあって二人で手を握り合う。
「もちろんです!
婚約破棄された事は、早馬でガーディアン卿に伝わっているでしょうから、おそらく私達の婚約も滞りなく進むと思います。私の父には、アラン殿下の様子を伝えて、私の気持ちと婚約申し込みの許可を得ています。ガーディアン卿のお許しがいただければ明日にでも書類の提出が出来ますよ。
明日からは、結婚式について毎日話し合いましょう」
「う、嬉しすぎます〜。
大好きなランデル様の妻になれるなんてっ!
愛してますわっ!ランデル様!」
(泣き出したお嬢様を抱きしめたくてうずうずしているが、チラッと私をみて我慢したようだ。変わりにハンカチをお嬢様に差し出した。
……そう。私はいつもの如く馬車にいる。空気となるよう努めたが、さすがにこの状況は辛い…… 一刻も早く邸宅に着いて欲しい。御者、もっとスピード上げてくれないかな……
あぁ、だけど本当に良かった。
これぞ、願ったり叶ったりですね!お嬢様!)
泣いているフィリアとそっとその手を握っているランデルと、二人を穏やかにみつめる侍女の3人を乗せた馬車がガーディアン邸に着くまであと20分程度。侍女は、その間必死で空気となるよう努めるのであった。
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