世界神様からの初めてのお使い依頼
(蒼side)
女神様方をお見送りした後、完成したばかりの世界神様塔の入り口に差し掛かったところで、跪き祝詞を唱える。
『世界神様、蒼でございます。御用を承りに参りました。』
すると、塔の周りのステンドグラスの絵が動き出し、新たなストーリーを映し出す。一台の馬車が荒れた街道を走っている姿で、その後ろに馬に乗った一団が迫っている様子が見える。
塔の階段を登り映像を確認していくと、同時に頭の中にメッセージが送られてきた。
「あなたが蒼ね。世界神のテレサよ。管理神たちからあなたのことは聞いています。今私は他の世界の作成中で手が離せなくて、会いにいけないんだけど、あなたが代わりに動いてくれると聞いて、安心してるの。今、アレジ王国の王太子妃とその子供が、トラブルに巻き込まれてアレジ王国の王宮から逃げ出してるところなんだけど、ちょっと複雑なの。そのトラブルを解決すると、あなたがやらないといけないことの手がかりをつかめると思うの。やってもらえるかしら?」
「はい。最善をつくします。」
「あなたならきっと大丈夫。頼みます。」
そういうと、通信が切れた。
ふん、結構今現在進行形でやばいってことね。まずは、彼らを助けよう。
そう考えて、塔から飛び立った。
(セリーヌside)
私が幼少の頃より支えてくれている、侍女のベロニカが私の寝室に入ってきたのはまだ夜が明ける前の時刻だった。
「セリーヌ様」そう言いながら私の寝台に近づき、揺り動かす。
「ベロニカ。まだ外は暗いわ。一体どうしたの?」
「セリーヌ様、先ほどより、何やら不穏な気配が。第2王子のテラノ様配下を名乗る騎士たちが、セリーヌ様との面会を希望して、門の前に来ているのですが、時間が時間ですし、あまりにも不自然で。今は警備の兵たちに時間を稼がせております。お子様方を起こしてまいりますので、至急身支度をお願いいたします。」
「テラノ様の騎士?こんな時間に王太子宮殿に騎士を遣すなど、あり得ないこと。王太子様が不在とはいえ不敬であることには代わりないわ。わかりました。準備します。」
そういうと、ベッドから立ち上がりいつものドレスに身を包もうとして気がかわり、使用人が着るような質素なワンピースに身を包み、ストールを巻く。護衛の騎士たちの大半は、王太子が愛人たちと過ごす離宮に詰めているため、現在ここの警備は手薄だ。第2王子の主力級を当てて来られると、太刀打ちできない。ここは一度身を潜めて情報を集める必要がある。
自分の身支度を終える頃、隣の子供部屋から、娘のアリサがやってくる。お気に入りのワンピースを着ている。
「お母様、まだお外は暗いよ。眠いー。」そう言ってぐずるアリサを抱きしめて、
「朝早く起こしてごめんなさいね。急だけど、ちょっとお出かけしないといけないから、お母様と一緒にいきましょう。」そう言って彼女の手をとる。
「ベロニカ」
声をかけると、生まれたばかりのセディを抱いて部屋の中に入ってきた。
「ベロニカ、現在この宮の警備は手薄。彼らの主力が攻めてきたら、守り切れないわ。ゆえに、一度城を出て、おばさまのいるアンダルシア城を目指します。そのまま、状況によってはミノラ王国に戻ることになります。」
「はい、セリーヌ様。護衛はミノラ王国より連れてきたもののみにいたしました。彼らには馬車の準備をすでにさせております。秘密の通路を抜けた森の中の炭焼き小屋のなかの出口を使って脱出いたしますので、お急ぎください。」
「わかったわ。」
震えそうになる身体に鞭打って、我が子だけはどうしても守らなければという思いで、地下通路を直走る。
この秘密通路は王族のみに伝えられるのだが、結婚当初から折り合いの悪かった王太子が信じられないことから、秘密裏に専用の出口を作らせていた。それが今向かっている森の中の炭焼き小屋だ。管理している老夫婦は、ミノラ王国から着いてきた御庭番で、情報収集を頼める信頼出来る部下だ。
複雑な通路を抜け、出口前の最後の扉の前に到着した。追っ手は居ないようだ。
魔法の鍵を解錠して、階段を登る。蓋を跳ね上げて炭焼き小屋に入る。
「ああ、姫様。ご無事で何よりでございます。馬車の準備はできております。お急ぎください。」
年老いてしわくちゃになったお庭番のアランが声をかけてくれる。
「アラン、ジュリ久しぶりです。また今回も、其方たちには迷惑をかけてしまいました。」
小さい頃より、私を守ってくれた二人には実の親以上の信頼と愛情を感じている私は、二人に駆け寄り、抱きつく。
「姫様、名残惜しいですが、一刻も早くここをたたれた方がよろしいかと存じます。ご案内いたします、こちらへ」
そう言われて馬車に向かって歩き出す。そこには古馴染みの側仕えの者たちが馬車に乗って待っていた。アリサとセディをともなって、ベロニカが馬車に乗った時だった。
クインクインクイン
聞いたことのない音があたりに鳴り響く。
「姫様、曲者です。お急ぎください。私が時間を稼ぎます。」
そういうと、アランは警報の鳴った方へと走っていく。
「アランなりません。あなたも一緒に。」
そう言った瞬間、気を失ってしまった。
(ベロニカside)
ジュリがセリーナ様を魔法で眠らせた後、私たちを出発させ、アランの救援に向かった。
セリーナ様どうぞお許しください。
自分の親よりも大切に思っている、御庭番の二人を死なせることになるであろう企てに加担してしまった自分に嫌気がさす。しかしこれもセリーナ様のため、母国ミノラ王国のためと思い直し、セリーナを座席に寝かせ、アリサ様とセディ様のお世話をする。
「ベロニカ、お母様はどうされたの?」
「少しお休みになられているだけです。アリサ様もどうぞお休みになってください。朝早かったので、眠かったでしょ?」
「うん。じゃあ少し寝るね。」そういうとあっという間に寝息を立て始めた。
このまま、この森を抜けて、アンダルシア城へ入ることができればあとはカイデル王太子がうまくやってくれるはず。
そう思っていた時だった。
御者が軽い呻き声を上げたと思ったら、どさっと落ちる音がして、ベロニカが驚いて客車の窓から振り返ると、地面に横たわる御者の姿が見えた。しかし、馬車は止まらず走り続けている。
どうしてなの?こんなことは計画になかった。
そう訝しみながらも、仕方なく、御者席になんとか登ると手綱を持って、馬車を止める。
「ベロニカ、ご苦労だったな。」
その声に振り返ると、カイデル王太子付きの騎士、ダンデル卿の姿があった。
「ダンデル卿、これはどういうことですか。元々の予定ではあなた方は、姿を見せず護衛をするはずでは?」
「予定が少々変わったのだよ。いや実を言うと、本当の計画に沿って動いているんだよと言った方がいいかもな。」
まさか、そんな、王太子様がセリーナ様を害するなんて
「そんな、顔で見るなよ。我が主人は昔から、優秀な王女殿下、失礼王太子妃でしたね、がお嫌いだったのですよ。目障りな女を殺し、その子供を使って隣の国を併合する。なんと能率の良い計画であったことか。まあ、母国の利益のために死ぬんだ。国のために尽くせて嬉しいだろう」
醜悪な顔で、笑いながら私の主人であるセリーヌ様を冒涜する。私がバカだった。バカすぎた。
こんな奴らを信じるなんて。私はいつも馬鹿な男たちに傷つけられる姫様の当たり前の幸せを願っただけなのに。
「さあ、お前の役目は終わりだ。あとは俺たちに任せて安心して旅立てば良い。すぐに主人はそっちに送ってやるからな。」
そう言って、馬車の方へ歩き出す。私は命を代償に契約精霊に願う。
「契約せし、精霊に願う。我の生命を対価に我が主人とその子達を守りたまえ。『アルティメットバリア』」
そう言うと、馬車の周りに分厚い障壁が生まれる。この術は、自然界の魔素を使って発動されているものの、私とその契約精霊の実力不足を私のHPが補っている。ゆえに私のHPが尽きる時、このバリアも中の人の命運も尽きる。でも、私にはこうするしか他に道はなかった。
「セリーヌ様愚かな女官をお許しください」
「ダーーーー、かったるいな。こんなことしたところで、時間の問題だろう。手間をかけさせるんじゃねえぞ。」
そう言うと、持ってる剣で障壁を殴り始める。ダンデル卿は武に秀でた騎士。あの力で殴りつでけられれば、私のバリアなど、もうそんなに持たないだろう。それでも最後の1秒まで、私は命の限りお守りする。神様どうか力を。そう願った瞬間だった。
「ごめーん。お待たせーーー」
そう言いながら白いローブを纏った黒髪の少年が上から降ってきた。
「へ?」そう言ったきり私の意識がぷつりと切れた。
(蒼side)
ふう、なんとか間に合ったぜ。この子のバリアの上から、強ーいの一枚かけてっと。あらら、HP1で気を失ってる。死んじゃうといけないから、精霊術を解いて、HPの一部を回復っと。
今できることをチャチャっと済ませると、バリアを殴り続けていた、悪役顔の男に振り返る。
「それで、あんたが、悪い騎士さん?自分とこの姫様殺そうとするのも、その子供を使って戦争起こそうとするのもどっちもいただけないなあ」
移動しながら状況は一応把握してるので、面倒だから、色々すっ飛ばして話しかけてみた。すると、弱そうな僕の姿を見て自信を持ったのか、相変わらず横柄な態度で、返事をする。
「お前のようなガキにとやかく言われる必要はない。俺は自分の仕事をしているだけだ。邪魔をするならお前から殺すだけだ。」そう言って、襲いかかってきた。宿地を使って、間合いをつめたのはいけてるけど、僕にとっちゃ遅すぎ。難なくよけると、馬車側に距離を取る。
「話し合いを飛ばしていきなり押しかかってくるようなやつに騎士は似合わないなあ。卑怯な汚れしごと専門の半人前さん。ふふふ」
「このクソガキが。」と言って、剣を持って前に出ようとするその瞬間に剣を逆に押し込み、後ろへと吹っ飛ばす。
「こんなクソガキに吹っ飛ばされるなんて。ふふ、ねえ弱すぎるんだけど。そのでかい図体は飾りなの?だからさ、使い捨ての仕事しか任せてもらえないんだよ。それに、頭悪すぎ。ただ剣を振り回すだけなら、誰でもできるよ。頭も体も悪いなんていいとこないね」そう言って、奴の剣を弾けとばす。
「お前みたいな半人前に剣なんて贅沢だ。『分解』『収納』」
そう言って、奴の目の前で、剣を金属のインゴットと、剣の柄に分解して収納した。ささやかなこの仕事の報酬ってとこかな?
「それに、お前には不相応な装備と財布だなあ。それも没収。」
そうやって取り上げた財布の中には金貨と銀貨がジャラジャラと入ってる。当座の資金になるかな?ま、こんなとこか。
「てめえ、俺にこんな真似・・・」
回しげりを喰らわし、大きな木にぶちつける。悪役の言葉ってどうして毎度同じなのだろう。悪役検定とかあるのかあ?
瞬間に転移し、気の根元でうずくまるやつに
「こんな真似したらなんだって?」
そう言いながら奴の胸グラを掴んで持ち上げる。
「ヒイイ、やめろ」
そう言いながら、逃げ出す。その背中に向かって闇魔法を発動。
『傀儡』
その場で立ち止まり、振り返りこちらへと歩いてくる。僕の前に跪き、頭を下げる。それに向かって伝える。
「これより、お前の主人の元に戻り、こう伝えよ。セリーヌ暗殺及び、アレジ王国への陰謀はすでに露見した。今までの行動を反省し心を入れ替えるなら、穏便な対応を取るが、また性懲りも無く、悪事を図ればその時はお前の命運尽きる時だと知れ。情けをかけるのは一度きりだ」
「承知しました、御使様」
そう言うと、フラフラとミノラ王国へ向かって歩き出した。この世界に降りてきて、初めて闇魔法を使ったけど、これ効きすぎじゃない?こんなに簡単だったら、戦闘しなければよかったよ。
去っていく後ろ姿を見送っていると、背後に気配が。
「アラン・ジュリ、今見たこと聞いたことは内緒だよ。」
「御使様でいらっしゃいましたか。我らを救って下された時と今の様子を見ても力量の差は明らか。地上のものが束になっても叶いますまい。そのようなお方に我らの命のみならず、主人の命も救っていただきました。私共が捧げられますのはこの命のみでございますが、何卒主人をお見捨てなきように」
「やめてよ、アラン。セリーヌは、アランとジュリを本当の親よりも大切に思ってるのに、君たちの命なんてもらえるはずがないでしょ?僕の名前は蒼。いいね蒼ってよんでね。それとこれからは二人がセリーヌたちを助けてあげて。ベロニカは罪を償わないといけないからね」
「もったいないお言葉です。蒼様。」
「さあ、みんなを起こしてアンダルシア城へ移動しよう。アランと僕は御者台に乗るから、ジュリは馬車に乗ってみんなを起こして、アンダルシア城へ向かうことを説明してくれる?」
「御意。蒼様」