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付喪神九十九の伝言

付喪神九十九の伝言


「では、まず付喪神から行こうか。」


ヨミ様はそういうと、いつの間にか僕の首に巻かれていたペンダントに手をかざす。

すると包丁の形に変わって目の前に現れた。


「あっこればあちゃんの包丁だ。」


今の今まで忘れていたけど、ばあちゃんが料理をするときに使っていた包丁で、砥石で研がれることで随分と小さくなっている。この大切な包丁を俺は人殺しに・・・・。

込み上げてくる苦い後悔に軽く歯を食いしばる。そんな俺の様子を見てヨミ様が包丁に声をかける。


「其方の思いを、蒼に伝えてみよ。」


そういうと、その包丁からたくさんの映像とともに、言葉や想いが溢れてきた。


「蒼が喜んでくれたらいいけど。」

「上手く作れるかな。」

「どうしてあの子ばかりこんな目に遭うの。あんなにいい子なのに」

「蒼、ごめんなさい。」


じいちゃんとばあちゃんと暮らし始める前の記憶から、一緒に過ごした楽しい思い出、悲しい思い出、いろんな情報と想いが心の中を駆け巡る。

最後のメッセージにはその言葉の背景も一緒に語られていた。

認知症の診断を受け、心が弱っているところに、父が帰ってきて、これからは俺がちゃんと面倒見るから、安心してくれと言われ、蒼に迷惑をかけたくない一心で、後見人を父にすることに同意してしまったということだった。あと、預金封鎖が怖いから、必要なお金をこちらで支払いできるようにしてくれと言われ、暗証番号を教えてしまったようだ。きっと、僕に迷惑かけたくない思いと共に、どっかで自分の息子を信じたい気持ちがあったんだろうな。その優しい思いを踏み躙りやがって。くそ


多くは、料理をしながら思っていたことや、食卓での楽しい思い出、ばあちゃんや時々はじいちゃんの思いが僕の心の中に溢れてくる。知らぬ間に僕の目からは涙が溢れている。会いたい、もう一度でいいからじいちゃんとばあちゃんに会いたい。でも、僕は地球の輪廻の輪から離れてしまったからもう会えない。


「私がこれを作れるのはもう最後かもしれない。蒼、御免なさい。愛してるわ。幸せになるのよ。あなたの父親や母親がいかにひどい人間でも恨んで心を揺らしてはダメよ。あなたは、ああ、わからなくなる。病気が恨めしいわ。私もお爺さんもあなたのことを一番大切に思ってるから。」


(ああ、ごめんなさい。恨む気持ちに勝てなくてごめんなさい。)


すると突然、優しいおじさんの声がした。


「蒼、私は付喪神の九十九。今まではお前に婆さんと爺さんの声を届けられなかったが、ヨミ様の助けで、お前に届けられて本当に良かったと思っとる。彼らは本当に善良な人達だった。いつもお前のことを愛し、気遣っていた。おばあさんがいつしか、私がいなくなった後も、あの子をよろしくね。って私に願うようになって、付喪神として神格を得るようになったんだ。」


「九十九様、じいちゃんとばあちゃんの声を届けてくれてありがとうございます。俺は愛されてたってちゃんとわかったから、もう大丈夫。一人じゃないって思えるよ。」


溢れる涙を抑え切れずに俯いていたが、両手に包丁を持ってちゃんと笑い顔を作る。


「そう、お前は一人じゃない、これからもずっと君のそばにいるよ。だから、私の新たな住まいを作ってくれ。」


「新しい、住まい?」


そう、九十九に問い返すと


「わしから、説明しよう。新しい刀を打とう。そして九十九の新たな住処として、一緒に旅を続ければ良い。」

ヨミ様はそう言って、いい笑顔で笑いかけてくれた。

まずは其方に鍛治スキル、錬金スキル、クラフトスキルを授けよう。

そういうと、僕の両肩に手を置いて、目を閉じて何かを念じ始めた。

すると肩から体の中に温かいものが入ってきて、急速に体の中を巡り始めた。


「よし、いいだろう。じゃがせっかくだから魔力循環と神力循環も一緒にマスターしてしまおう。今から魔力を流すぞ。」


そういうと、今度は僕の手をとり、目を閉じ、何かを念じ始めた。

すると、手のひらから、体の中に、濃厚な少しドロッとした力強いエネルギーの流れが最初はゆっくり、だんだん早く体の中を駆け巡り始めた。


「手のひらから、心臓、お腹の両脇を走り足のつま先までそこから、足の裏から背中を通り、首の後ろから頭のてっぺんへ、最後に肩に下ろしてくる。」


ヨミ様のいうとおりにイメージし、感覚を追いかける。すると最後に、肩にホットタオルを置かれた時のような首と肩が緩んだような感覚を覚える。


「ほーーー。蒼はすごいの。こんなに早く魔力循環を覚えるとは。」


「最初はどろっと濃い赤ワインのような感じから、だんだん軽くスピードが上がっていく。力強さと、軽さ、鋭さの両面を持っているんですね。」

「そうだ。いい表現だ」


「では、神力を流すぞ」


「はい」

そういうと、今度は僕の頭の上に手を翳して、目を閉じて何かを念じ始める。


すると、最初頭のてっぺんいチリチリした微かな感覚があった後、鳥の羽を頭の上からファサっと落とされているような感覚を覚える。


「神力は鳥の羽を頭の上から落とされるような軽い感触なんですね。」


「そうだその感覚が上からだけではなく体全体に包まれるような感覚に変化していく。」


「神力は覆われる感覚なんですね。」


「そうだ」


そういうと、部屋の奥から、2種類の金属の塊を持ってきた。


「これは、ミスリルとヒヒイロカネという金属のインゴットだ。これから、この二つの金属に魔力を通して一つに溶かしていく。金属に偏りがでいないように2つの金属を完全に溶かし、均等に偏りなく混合し一つの合金を作る。イメージはできたか」


「正しいかどうかはわかりませんが、一度やってみます。」


金属ということだから、溶かす、混ぜる、冷やす。火魔法を使って、金属の温度をどんどん上げていく。融点を超えて液体化し始めたら、細い糸を作るようにイメージする。その糸を絡ませるように合わせて行って、それを何度か折り返し塊を作る。そうして、冷やし固めて薄い長方形の金属片を作り上げた。


「上手くいったな。こんなに簡単にいくなんて。ちょっと驚きだ。」


「昔じいちゃんとテレビで、刀鍛冶の作業をみていたことがあるからそのせいかも。でも糸みたいになんてのは魔法じゃないとできないからそこはちょっと違うけどね」


「そうか。じゃあ、次は鍛治スキルを使って、叩いて伸ばして整形していくぞ。普通の剣を作るなら、方に流し込んで終わりじゃが、刀は粘りと強さを出すために叩いて伸ばさんといかん。大変な作業じゃがへばるなよ。」


「はい。」


少し離れたところにいつの間にか、鍛治場ができていて、ヨミ様の指示通りに位置に着いたら熱しながら叩いていく。無心に叩いていると、次第にヨミ様の声も聞こえなくなり、手の中の金属が叩いてもらいたいという場所がわかってくる。そうして作業を続けていると、ふっと外の音が耳の中に入ってきた。


「いいだろう。形はまだまだだが、しっかりとした刀になっているぞ。それに九十九が入るんだ。奴が勝手に最高の刀に整形するだろうよ」とヨミ様が言ってくれた。


「鞘と柄はわしのコレクションから進呈しよう。これを合わせて。うん、初めてにしてはいいんじゃないか。完成だ。」


そう言って、思っていたよりも何倍も素敵な刀を渡してくれた。


「ヨミ様ありがとうございます。じゃあ、九十九お引越しだよ。」


そういうと、包丁が消え、刀の中に消えていった。


「住み心地はどう?」


そう尋ねると、少し刀身が伸び細かな図柄が鞘に描かれ、刀の刀身の輝きが一段と凄みを増していた。


「うん、最高だ。蒼、ヨミ様ありがとうございます。」

「これからもずっと一緒だよ。九十九」

そう言って腰に下げた。


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