裁きの間
目を覚ますと、白い何もない空間に倒れていた。その様子から、僕死んだんだろうな、確かクソ親父とその情婦を殺したんだった。こりゃ地獄行きかな。嫌だな。でも、したことは変えられないしな。
罰は受けるしかないんだろうけど、ずっと痛いのとかは嫌だな。
すると、銀髪に白い衣を着た綺麗な女の人が玉座のような豪華な椅子に座って現れた。
「私は法と正義の神テミス。あなたは、相澤蒼ですね。死ぬ前のことは覚えていますか?」
そう問われたので
「はい、私は相澤蒼でした。私は自分の父と情婦を刺し殺しました。それに、大好きな、本当に大好きなばあちゃんのことも殺したようなものです。」
そう言って、込み上げてきた涙を抑えられず必死で声を殺して泣いていた。
「あなたの人生をすべて見ました。辛かったですね。それからごめんなさい。あなたに過分な重荷を背負わせてしまって。」
悪いことをしたのは僕なのに、どうして女神様が謝るのだろう。
「あなたの人生パラメーターを弄ってあなたの魂の変容を狙った者たちがいたのです。あなたの魂は一度真っ黒に染まりかけましたが最後に戻ってきてくれましたね。あなたが、人を殺したことを隠し、お祖母様の気持ちを踏み躙ることがあればあなたの魂を破壊し、輪廻させないことになったでしょう。でも、あなたは自分の行為に死んでも責任を取ろうとした。それはあなたの魂の輝きが失われていないことの証明です。ただ、人を殺すという行為に関しては看過できないので、私たちは特別の解決法を決定しました。」
そういうと、紺色の髪をした別の女神様が出てきて言葉を続ける。
「私は輪廻と転生を司る神カリス。あなたへの罰は、魂を地球の輪廻の輪から外すこと。故に地球で生まれ変わることはできません。そして、異世界にそのまま転生させることもできません。故に、私たちの眷属として、管理している世界の成長のために働いてもらうこととします。あなたはアリアーノという世界にハイヒューマンとして転生し、神の眷属として、世界の平和と安寧、そして発展を導く役割を担ってもらいます。」
全く想像もしていなかった言葉が出て、
「ちょっと待ってください。ぼぼ僕は、ただの大学生でそんな大きな責任というか、役割を果たせるとは思えません。」
そして、今度は桃色の髪の女神が現れて、僕に向かって微笑みながら
「私は愛と慈悲の神ナリス。蒼、あなたは両親の愛には恵まれなかったけど、祖父母や周りの人の愛に育まれて、あなたも彼らに十分愛を返していた。そして、あなたはいつも公正で慈悲深かった。あなた自身がこんなにも悲惨な毎日を過ごしていたのに、あなたは多くの人を助けてきた。あなたのその性質はアリアーノで今最も必要とされていることなの。」
そう言って隣にいる緑色の髪の女神に微笑むと
「私は大地と豊穣の神ワムス。世界の繁栄と幸せは、そこに生きるものたちを愛し、敬い、助け合う心がなければ成し得ない。枯れた大地を豊穣の地に導くのは、そのような者でないといけないの。今アリアーノは枯れて荒れた大地が広がる週末世界になり始めている。」
最後に水色の髪をした女神が
「ただ生きるのではなく、命が輝く世界でなければ生きるということにはならないの。蒼ならこの言葉の意味わかるでしょう。私は水と命を司る女神ミヌス。水は命を繋ぐのに絶対必要だけど、水だけでは生きられないの。難しく考える必要はないわ。あなたは思うがままに、生きればいい。その時、人助けしたり、物足りないものを補ったり、より良いものを提案したり、逆に支えてもらって、守ってもらって、全ての命を大切に生きてもらえれば。あなたが快適で素敵だと思う世界は、私たちにとっても理想の世界だから」
最初の女神であるテミスが
「そもそも、自分の子供をこんなに不幸にして当たり前と思っている人間が二人もいて、その子供がこんなに綺麗な魂を保っていることが奇跡なのよ。虐待と復讐の神である、エレンギオスがあなた達家族を狂わせたのだげど、どんなに酷い扱いをしてもあなたが崩れなかったことで、苛立ちを募らせたエレンギオスも、最後にあなたが両親を殺して復讐を遂げたことで、大きな神力を得ることになったわ。でも最後にあなたは自分のやったことに自分の命を持って贖おうとした。だから、私たちの網の中に入ってくることができたの。強くなったエレンギオスは他の邪神たちと共に、他の世界にも手を伸ばしてくるのは確実。だから私たちの代わりに奴らの神力の源泉であるリソースを与えないようにしてもらいたいの。難しいことじゃない。生きているものが理不尽な目に遭わずしあわあせに暮らしていれば。それを邪魔する人間を取り除いてくれればいいだけ。私たちはあなたがアリアーノで困らないように最大限のサポートをするので、私たちの代わりにアリアーノを楽しんで。」
5柱の神様の言葉に圧倒されてなんと返事をすればいいか迷ったけど、
「はい、皆様の最大限の温情に心から感謝申し上げます。本当は地獄行きのはずだったんです。僕みたいに悲しい思いをする人間がいなくなるように頑張ります。アリアーノを楽しんできます。」
と答えると。
ミヌス様が
「私の眷属である水の大精霊に、あなたの手伝いをするように伝えてあるから、わからないことはなんでも聞いてね。」
「はい、ありがとうございます。それ・・・・で・・・は・・・・・。へえええ」
なんか言い終わる前に急にすごい力で引き寄せられるように地上へと落ちていき、僕の意識もそこでぷつりと途切れた。