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9.国境へ

◆◇◆



 降りしきる豪雨のなか、リューゴたちを乗せた飛行バイクは街を通過し、森の上空を飛行していた。

 眼下に広がる森は淡い青色の光を放っており、それを見たアズールが言った。


「"青の森"だね。地下から飛び出したアルクが森のエネルギーで僅かに発光しているんだ。ここまできたら国境までもうすぐだ。ほら、あれを見てよ」


 西の方角にぼんやりと見える、水平に並ぶ白い光。

 あれこそが国境の警備灯であり、この国と西の国との境界線である。


「あの光の向こう側が西の国だ。ただし、国境の壁を越える必要があるけれど」


「故郷を囲んでいた”壁”に比べりゃ粗末なもんだろ」


「それもそうだね。この調子でいけばギリ燃料が切れる前に国境上空を通過できそうだ。悪天候もいい隠れ蓑になってる。今のボクらにとっては追い風って訳さ」


 その時、リューゴの眉がぴくりと動く。


「……何か聞こえねェか?」


「え、そう? この天気じゃ鳥も飛んでるはずないと思うけど……」


 再度首を振るが、暗い闇には何も見えない。

 だが、今も確かに聞こえる。

 エンジン音と雨音に紛れて、風を切るような音が。


 リューゴは今一度周囲を注意深く見渡した。

 その時だった。

 右斜め後方の空間が一瞬だけ赤く点滅したように見えた。


「なんだ? 今のは……」


 リューゴは目を細めた。

 そして、もう一度赤い光が点滅したのを確認した時、リューゴは息を呑んだ。


「――マズイ」


「え? 何か言った? リューゴ」


「アズ、落ち着いて聞け」


「? どうしたのさ」


 リューゴは前置きの後、低い声で言った。


「ミサイルだ。追尾しながらこっちに飛んできている」


「ミッ――」


 アズールが後方を振り返り、車体が大きく傾く。


「バカ、前を見ろ!」


「ご、ごめん! で、でもどうしてボクたちの位置がわかったんだ!? 機体を調べた時に発信機がないことは確認したはずなのに!」


「知るかよ! とにかく逃げろッ。直撃したらバイクもろとも木っ端微塵になるぞッ!」


 アズールがアクセルを全開にする。だが、


「ダメだッ。このバイクの馬力じゃ最高速度でも到底逃げきれない! あと数秒でぶつかる!」


「仕方ねェ、降下しろッ!! できるだけ森に近づけッ!!」


 アズールの操作によりバイクが前のめりに傾き、勢いよく降下していく。


「オォォッ!!」


 リューゴは拳を振るい、バイクを覆う雨除けシールドを殴り壊した。

 砕けたシールドが後方に流れていく。


「アズ、オレの合図と同時にバイクから飛べ!」


「と、飛ぶ!? 〜〜〜〜ッ、わかったよ! キミを信じるッ!」


「まだだ、まだ……ギリギリまで引きつけて…………今だ! 飛べッ!」


 二人はバイクから飛ぶ。同時に、リューゴはバイクを蹴りつけてミサイルの方向に吹き飛ばした。

 次の瞬間、バイクに直撃したミサイルは大爆発を起こした。


「くっ!」


「うわああああっ!」


 衝撃波が襲い、リューゴたちは錐揉みしながら吹き飛んだ。

 みるみるうちに大地が、森が迫ってくる。

 リューゴは辛うじて体勢を立て直し、バイクと雨避けシールドを壊したことで得た"破壊エネルギー"を黒炎に変え、両の拳にまとった。

 そして、森に突っ込む寸前、拳を木々に向かって何度も振り下ろした。


「ぬおおぉぉッ!!」


 黒炎が樹木を吹き飛ばす。

 アズールが悲鳴を上げた。


「ぶ、ぶつかるッ――!」


 地面に直撃する直前、黒炎の”紐”が周囲の木々に絡みつき、”網”を形成した。

 ”網”は二人の身体を受け止め、あと数センチのところで地面への直撃を免れた。


「あ、熱ッ――くない……? 温かい……」


「黒炎は”壊したものの性質”しか持たねェ。”火”とは違う。……やれやれ、間一髪だったな」


 二人は森に降り立った。


「クソッ……どうしてオレらの位置がああも正確にバレたんだ? まるで発信機でもつけられてるみてェに……」


 その時、雨に紛れて街の方から音が聞こえてくる。

 リューゴはアズールと顔を見合わせた。


「追手だ。国境まで走るぞ!! オレの背中に乗れ!!」


 リューゴは地面から生えたアルクの青い光を頼りに森を駆ける。

 両足には黒炎が渦巻き、みるみるうちに加速していく。

 木々の隙間を縫い、坂を越え、国境を目指す。

 やがて、遠くに眩い光が見えてきた。

 背中でアズールが叫んだ。


「国境だ! この森を抜けたら国境だ!」


「このまま突っ切るぞ!」


 リューゴはスピードを上げ、森を飛び出す。

 しかし、すぐさまリューゴは急ブレーキをかけた。

 立ち止まり、荒い息を整える。

 アズールが呆然とした様子で言った。


「そんな……」


 森を抜けた先、国境の手前に敷かれたフェンスの前に大勢の兵士が待ち構えていた。

 先頭には白い制服を着た二人の男が立っている。

 そのうちの一人、ロングコートを着たスキンヘッドの男が拍手をリューゴたちに向けてきた。


「素晴らしい。まさか二人の再生士を倒し、ここまで辿り着くとは思いませんでしたよ。ですが、それもここまでです」


 そう言って男はねっとりとした笑みを浮かべた。

 その隣で、大柄で金髪オールバックの男がグローブのように大きな手をぼきぼきと鳴らす。


「こんなチビども、俺様が捻り潰してやるぜ」


 男は獰猛な獣のような笑みを浮かべる。その風貌も相まって、ライオンのようだ、とリューゴは思った。

 アズールが泣きそうな声で呟く。


「全部読まれてたんだ……ボクらはすでに”詰み”だったんだ……」


 スキンヘッドの男が余裕そうな目つきでリューゴたちを見た。


「あと十分もすれば援軍も到着します。つまり、あなたがたは袋の鼠というわけです。おとなしく投降しなさい」


「リ、リューゴ……!」


 アズールが声を震わせる。

 リューゴは鼻から息を吸い込むと、口からゆっくりと吐き出した。


「アズ。オレの能力バースはよ……”何かを壊す”ことで発動する。今さっき、お前を背負いながら限界をこえて走り続けた。”自分で自分を壊した”ってことだ。つまり……”破壊エネルギー”はオレの体内に蓄積されている」


 アズールが息を呑む。


「それじゃあ、リューゴの身体は……!」


「ボロボロだ。今はなんとか能力バースを使って動いてるが、黒炎が切れたらオレは動けなくなる」


「ど、どうしてそんなになるまで……ッ!?」


 リューゴは言った。


「野望に命を懸けると決めたからだ。覚悟を証明するのは、いつだって”今”だ」


「……!」


 リューゴはアズールを背負ったまま敵の方に向かって跳躍した。

 リューゴの肉体から膨大な黒炎がほとばしり、右腕に集まる。


「アズ、気張れよ」


 リューゴは拳を地面に叩きつけた。

 次の瞬間、世界が揺れ、地面に何本もの亀裂が走った。

 兵士たちが悲鳴を上げながら倒れるなか、二人の再生士は驚いた様子を見せつつも平然と立っていた。


「おい、再生士ども」


 リューゴは再生士たちを睨みつける。


「この世界じゃ、テメェらが”正義”で、オレたちは”悪”なんだろう。だがよぉ……」


 地面の亀裂から黒い煙が立ち上り、リューゴに吸い込まれていく。


「オレの邪魔するヤツぁ――誰だろうとぶっ壊す!!」


 すると、スキンヘッドの男がくつくつと笑った。


「威勢が良いのは結構ですが、この数を相手に突破できるとお思いですか?」


 男の合図で、体勢を立て直した兵士たちが銃撃を放つ。


「うわぁっ!」


 アズールが悲鳴をあげて背中から離れ、地面に落ちる。


「アズ、そばを離れるな!!」


 リューゴは黒炎で自らとアズールを守る。


「うわあああああっ!!」


 アズールがパニックに陥った様子で森の方へと走りだした。


「アズッ! そっちは危ねェッ!」


 リューゴが呼び止めるが、アズールはそのまま森に入って行く。


「俺様が追うぜ!」


 大柄の男が四つん這いになり、アズールを追走する。

 後を追いかけようとしたリューゴに対し、


「させませんよ」


 とスキンヘッドの男が拳銃を撃った。

 迫る銃弾をリューゴは黒炎で弾く。だが、


「ぐあっ!」


 突然、弾いたはずの弾丸が向きを変え、リューゴの腹部に直撃した。


「なんだ……ッ!?」


 リューゴが動きを止めると、男はそれ以上撃ってくる様子はなかった。


「クソッ。あくまで生け取りにしようってか」


 男は森の方を一瞥し、笑みを深めた。


「仲間に逃げられましたか。哀れなものです。わたしにはあなたの心が手に取るようにわかります。信じていた友に裏切られ、絶望と怒り、悲しみが胸の内に満ちている。そうでしょう?」


「一ミリもあってねェよ、バカが」


 リューゴが吐き捨てるように言うと、男の目元がぴくりと動いた。


「お前は何もわかってねェ。あいつは必ず戻ってくる。人を見透かしたようなこと言ってんじゃねェぞ、タコ」


 リューゴは拳を構える。


「こい。テメェはオレがぶち壊す」


 スキンヘッドの男は笑みを絶やさず、静かに銃を構えた。


「……いいでしょう。あなたはこのゾズマ直々に相手をして差し上げましょう」

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