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3.旅立ち

 ――五年後。

 夜が明ける前、リューゴは街の中心にある”マザーアルク”の塔の正門前に足を運んでいた。

 五年前よりもリューゴの身長は二十センチ以上伸び、絶えず鍛え上げた筋肉により体躯は二回り以上大きくなっていた。


 ”マザーアルク”の塔は分厚い壁に守られており、唯一の入り口は正門のみ。

 その前では、二人の衛兵が眠そうにあくびをしながら話していた。


「ふわぁ……ねみぃ。毎日誰もこないのに、おれたちがいる意味あんのかね」


「さあな。仕事以上やるしかあるまい。……む?」


 衛兵の一人がリューゴに気づき、慌てた様子で小銃を向けてきた。


「貴様、そこで止まれ! ここがどこか分かっているのか!」


 リューゴは歩みを止めずにゆっくりと門へと近づく。


「そ、それ以上進むと撃つぞ!」


 もう一人の衛兵が叫ぶ。

 リューゴは低い声で言った。


「やってみろよ」


 次の瞬間、二人が同時に発砲した。

 しかし、着弾場所にリューゴの姿はなかった。


「消え――」


「ぐああっ!!」


 衛兵の一人が吹き飛んで壁に激突し、気を失う。


「この――」


 次いで、もう一人の衛兵も吹き飛んで門を壊した。

 リューゴは両手をパンパンと払い、壊れた門をくぐる。

 その瞬間、警報アラートがけたたましい音で鳴り響き、塔の中から大勢の衛兵が飛び出してきた。

 最後尾、大仰な装備に身を包んだ、衛兵隊長らしき髭面の男がリューゴに向かって鋭い怒鳴り声を上げた。


「一人とは笑止ッ! 貴様らッ、あの愚か者を殺せッッ!!」


 銃口から無数の閃光が瞬き、銃弾の雨が迫る。

 リューゴは紙一重で跳躍しかわすと、両腕を振り上げ、勢いよく地面に叩きつけた。

 低い地鳴りが響き、衛兵たちは地震に耐え切れずその場に倒れる。

 唯一片膝をつくのみに留まっていた衛兵隊長が喫驚の声を上げた。


「これは――"バース"!?」


 一足飛びに向かってくるリューゴを見て、衛兵隊長は慌てた様子で叫んだ。


「ほ、砲撃隊、撃てェ――ッ!」


 直後、塔の壁が開き、巨大なミサイルが、カシュッ! という圧搾音とともに放たれる。


「――もらうぜ」


 リューゴはにやりと笑うとその場に立ち止まり、半身になり迎撃する姿勢を取った。

 それを見た衛兵隊長が嘲笑を浮かべる。


「なはははっ! 馬鹿め! バラバラになれぃ!」


 白い尾を引いて迫るミサイルに、リューゴは右の拳をぶつけた。

 直後、大爆発が起き、周辺の地面や壁が吹き飛んだ。

 煙が風に巻かれた後、そこには無傷のリューゴが立っていた。


「な――!?」


 衛兵隊長の目が驚愕に染まる。

 直後、周囲に落ちたミサイルの破片や割れた地面から黒い煙が立ち上り、吸い込まれるようにしてリューゴの右腕に収束した。

 カッ! とリューゴの首にあるチェーンネックレスが黒い光を放つ。


「黒い……アルクギアだと……!?」


 突然、リューゴの右腕が黒い炎に包まれる。

 衛兵隊長が青ざめた表情で叫んだ。


「や、やめろ――ッ!」


「派手にぶっ飛べ――〈破拳〉!!」


 振り抜いた右腕から巨大な黒炎の拳が剛速で飛び出し、凄まじい衝撃音とともに塔を”マザーアルク”もろとも貫いた。

 塔が真ん中からへし折れ、地面を割りながら倒れる。

 その瞬間、ブレーカーが落ちた時のように街中のライトが一斉に消えた。


「き、貴様――」


 衛兵隊長が尻餅をついて震える指をリューゴに向けた。


「何をしたのかわかっているのか!? 世界を――”再生士”を敵に回したのだぞ!?」


「当たりめェだろ。オレは――”破壊士”だ」


 その時、正門の前に一台の黒い装甲車が停止した。

 運転席の窓から顔を出したのは、青い髪の少年。アズールだ。


「遅かった?」


「いんや、ドンピシャだ」


 リューゴが助手席に乗ると、車はすぐに発進した。

 車は無駄のない動きで夜明け前の暗い道をずんずんと進み、マザーアルクが機能停止した影響で閉じっぱなしのバーを突き破ってハイウェイに侵入した。

 通常、ハイウェイは”外”につながるトンネルが夜十二時から朝六時まで閉じている関係で封鎖されているため、誰もいない高速道をアズールの運転する装甲車は爆走する。

 速度はみるみるうちに上がり、時速百四十キロに到達した。

 窓から入り込む朝の冷たい風が髪を揺らし、ラジオから流れるダンスミュージックが心臓を叩く。

 リューゴは穏やかな表情で笑んだ。


「こいつはいい」


 車はトンネルまでの一本道にさしかかり、正面に待ち受ける壁がどんどん大きくなっていく。

 不意に、アズールが前方を見て慌てたふためいた様子でリューゴを見た。


「み、見て、リューゴ! システムはダウンしたけど、ゲートは閉じたままだ! ど、どうしよう!」


 見れば、確かにトンネルのゲートは閉まったままだ。


「ド派手に突っ込め。それとも、お前の”デストロイヤー号”はあんなちっぽけなゲートにぶつかったくらいでスクラップになっちまうのか?」


 するとアズールは青ざめたままムッとした表情になった。


「そんなヤワじゃないやい! で、でももし壊せなかったら――」


「自分が作った車を信じろ。お前がやらねェならオレがやるぜ」


「わ、わかったよ! まったく――シートベルトはお忘れなく!」


 アズールは半ばやけくそといった様子で、シフトレバーの上段にあるスイッチをオンにした。

 すると、駆動音とともに車のリア部分から二つのエンジンが現れた。

 そして、透明なバリアカバーを開き、赤いボタンを押す。

 瞬間、エンジンが唸り、車はぐんと超加速した。


「おー」


 と感嘆しているリューゴの一方で、


「うわあああああ!! どうにでもなれえええええ!!」


 とアズールは鬼気迫る表情でハンドルを握っていた。

 そして――金属同士が衝突する鐘のような破砕音とともにゲートは吹き飛んだ。

 デストロイヤー号は衝撃で大きく揺れたものの、速度を緩めずトンネルを爆走する。


「ほらな、大丈夫だったろ」


 リューゴが笑いかけると、アズールは汗だくで顔面蒼白のまま引き攣った笑みを浮かべた。


「まだ手が震えてるよ」


 照明が切れたトンネルは暗く、車のヘッドライトだけが頼りだった。


「わりぃな。付き合わせる形になって」


 リューゴがぽつりと呟くと、アズールは肩をすくめた。


「いいさ。自分で作った車で世界を走るのが夢だったんだ。あと、リューゴ、運転できないし」


「……ありがとう、アズ」


「気にしないで。ボクたち友達でしょ?」


「ああ」


 リューゴは上着のポケットから金色の腕輪を取り出した。


「――行ってくるよ。兄ちゃん、父ちゃん」


 やがて遠くに白い光が見えてくる。トンネルの出口だ。


(待ってろ、ヨゾラ。オレが必ず……このクソッタレな世界を――)


「――ぶっ壊してやる」

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