ガヤる陰キャちゃん(外野から煽るのきもちー!)
『どうもっ!サンどらですっ!』
サンちゃんがいつも通り元気よく挨拶をしていた。
『えっと今日はそのー、ホラゲーをします!私の友人に『ツキコ』ちゃんって子がいるんですけど、その子に歌ってもらう代わりに私がホラゲーを……ということで……』
でもいつもより喋りが拙い。緊張なのか恐怖なのか。まぁ両方なのかな、私もめっちゃ緊張してるし。
『私ホラーは得意じゃないから、ツキコちゃんにガヤ係として来てもらいました!よろしく、ツッキー!』
サンちゃんのその言葉に、なるべくいつも通りを装いながら答えた。
「どうもーツキコでーす。視聴者層的に私なんかがガヤ係をすること自体烏滸がましいですけど、精一杯煽りまーす」
『ツッキーひどくない!?』
あはは、と笑ってはいるが内心穏やかではない。言うまでもなく理由はホラゲーではない。サンちゃんの配信にお邪魔する事に緊張しているのだ。
恥ずかしながら少し前まで不安に駆られて「視聴者に殺されるかも」みたいなことを口走っていた。もちろん本心から思っているわけではないが、それくらい不安だったというわけで……。
しかし視聴者は『ツキコちゃんだ』『声かっけー』『なんか友達と話してる感あってすごく良い』みたいな感じで受け入れてくれていた。安心。
『ツッキーに煽られないように、華麗にクリアするんだから!』
「おっ、言ったな!じゃあ早速始めよう!」
『やっぱりもうちょっと……』
「おらはじめろっ!」
『ひ、ひゃいい……』
サンちゃんはしおらしく反応する。言い過ぎたかな、どうしよう。
下手に謝って空気を重くするのも悪いので、話題をそらす。後で謝ろう。
「というかこれ新作だよね?シリーズものだけど大丈夫?」
『あ、うんこれまでの内容はツッキーの配信で見てたから……あ、視聴者のみんなもツッキーの配信見てね!ホラーなのに面白いから!』
「ちょっ……!」
確かにこのシリーズは私が実況しているけど、面と向かってこう宣伝されると……ほんと恥ずい!
「恥ずいからやめなさいっ!」
『ちぇー!えっと、難易度は易しめがいいけど……どうせなら普通で!』
「強がったな?」
『強がりました』
サンちゃんが設定を終えて、そのままムービーが始まる。
今回はサンちゃんも言っていた通り、とあるシリーズの待望の新作だ。アクション色は強いがホラー要素も負けておらず、日本特有の不気味さを感じさせるテイストは私好みだ。
もちろん昨今のアクション強めのホラーを批判したいわけではないけど、ホラゲーの名前を冠してるわけだからホラーを前面に押してほしいよね、ストーリーも良いものが良いよねという気持ちもあるわけでして……。
『昔の日本……って感じだね』
「あ、そうだね。主人公は高校生……まぁセーラー服着てるしわかるか」
っといけない。今はサンちゃんの実況なんだから考え込んでちゃダメだ。
『まだ明るいのに雰囲気あるね……』
「もうすでに怖がってるねぇ!いいねいいね」
『うう……』
ガヤらしくテキトーな野次を飛ばす。あーかわいい配信終わったらアーカイブ見直そう。
『あ、何か落ちてる……スクラップ記事?』
「この手のゲームあるある、なぜか落ちてる昔の新聞記事」
『たしかに言われてみれば……』
ちなみに他にも『なぜそこにある鍵』『どんなギミックだよその扉』みたいなあるあるもある。ホラゲー好きなら一度は住みたいよね、あの移動がクソ面倒そうな豪邸に。
『なんか、関係なさそうな記事だね』
「ホラゲーの記事はだいたい今後関わってくるもんだよ〜。覚えておいて損はないっ」
『そーなんだ、さすがツッキー物知り』
「……?」
いつもなら『すごい!さすがツッキーよく知ってるね!』みたいなテンションなのに、どうやらテンションが低いみたいだ。流石に視聴者も心配するだろうし、ここは聞いておくか。
「テンション低くないっすかサンちゃん」
『ホラー怖いし……』
「新鮮で面白い」
『い、いじわる……』
良かった、ただ可愛いだけだった。ここの「いじわる……」だけ切り抜いてイヤホンでリピートしてやろうかな。
『うう……これどこまでやればいいのお……?』
「クリアまで……とは言いたいけど、有名シリーズなだけにそこそこ時間かかるんだよねぇ 」
もちろん私は事前にある程度実況して撮り溜めしているのだが、エンディングに到達していない。
慣れないホラゲーというのもあるし、進行速度的にあと3時間ほどでキリのいいポイントに付けるだろう。
「取り敢えず3時間くらいやっちゃお!」
『おにぃ……!』
涙声になっているサンちゃんに悶えつつ、私はガヤとしての責務を果たした。
「お疲れ、サンちゃん」
配信終わりのサンちゃんに労いの言葉をかける。
『もー、酷いよツッキー!約束守ってよね……』
「もちろんもちろん!ちゃんと歌動画出すから」
今回のホラゲーは、私の10万人記念配信の約束を守るためのものだ。私なんかの歌声は世界の黒歴史になり得るが、それ以上に怖がるサンちゃんを見たかったのだから仕方がないだろう。
『ほんと?』
「ほんと」
『ならよし!』
念押しされたので真面目に答える。そんなに信用ないのかな私……サンちゃんの約束は破ったことないはずなんだけどなぁ。
『ねぇツッキー』
「ん?なーに?」
甘い声で名前を呼ばれ、思わずドキッとしてしまう。
『今日このままお話しして寝てもいい?』
「怖いんだ」
『正直怖いかも』
軽口を叩いても、真正面から向かってくる。なるべく普段通りを装って返さないと……!
「し、しょうがないなぁ。付き合ってあげるよ」
『ありがと……』
普段と違うサンちゃんを見れた喜びと、そのサンちゃんが可愛すぎる悶絶が混ざり合い、今日は一睡もできませんでしたとさ。




