つぎはぎ
魔王の身体は七つに分かたれた。
首、心臓、胴、右手、右足、左手、左足。
「子作りするのであれば銅はほしいところですよね」
「まだ諦めていなかったのか」
「もちろんですとも!」
首だけの魔王との薔薇色の結婚生活を夢見ているような元聖女に、魔王はやれやれと呆れたような表情になる。
「当時、元聖女ですから人体をくっつけるのは大の得意でした」
「なんだそれは」
「魔王様はお綺麗に戦われましたので出番はありませんでしたが、勇者など上位魔族に何度手足を食いちぎられかけたことか」
「待て、初耳だが?」
「そのたびに私が聖女の祈りで手足をくっつけていたのですよ。そのために私が同行したとも過言ではありませんゆえ!」
「こわい」
人間の手足が欠損してもくっつければいいよね? と聖女スタイルに、さすがの魔王もドン引きだ。もしや勇者が凱旋後に聖女の悪評を流したのも、これが理由だったりして……と邪推してしまう。
そんな魔王の気も知らず、聖女は魔王の首を抱き上げてうーんと唸った。
「前は生やすことも出来たんですけれど……さすがに修行もしていない今は生やすのはできそうにありませんね」
「待て、いま何をしようとした」
「え? 魔王様に生やせないかなって」
「何を」
「何を?」
ぽっと聖女が顔を赤らめる。あ、これは聞かないほうがいいものでは、と魔王はこれ以上の言及を控えることにした。もし聖女の力が発動したらと思うと、ないはずの身体がぶるりと震えてしまう。
「……我はまだしばらくこのままで良い」
「あらあらまぁまぁ。不便ではありませんか」
「手足の代わりとなるそなたがいるからな。特に不便はない」
「魔王様〜〜〜!」
感激したらしい聖女に頬ずりされる。魔王は甘んじてそれを受けた。
とはいえ、全身の復活ができるものであれば、したいのも本音。
――このままでは、何もできぬからな。
つぎはぎになっても、やはり自分の身体がほしい。
悩ましい気持ちを天秤にかけ、とはいえそれを聖女に命じるのもどうかと思ったからこそ、魔王は何も言わなかった。