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 森の奥深くの廃墟と化した神殿の祭壇の間に、一羽の鳥が迷いこんできた。

 尾羽根が長く美しい鳥は、昨今では絶滅したとも言われている種。魔王の首の上に止まってくつろいでるのを見つけた聖女は、まぁまぁと微笑ましげに寄ってきた。


「魔王様、素敵なお帽子ですわ」

「うるさい、邪魔だ。なんなのだこいつは」

「そう邪険にしないでくださいませ。この子はもう絶滅したと言われて久しい種です。こんなところで生き残っていたとは、神の思し召しだと思いますよ」

「……そなた、我を慕うくせに神をまだ信仰しているのか?」

「ふふ。元聖女ですから。口癖のようなものですよ」


 可憐に笑う聖女はとりとめもなく。魔王は少しだけ面白くなさそうな顔をすると、目の前に、垂れる鳥の長い尾をじっと見つめた。


「どうしてこの種は滅んだのだ」

「それはもう、美味しくて」

「は?」

「私も勇者一行の時、この鳥が目につけば、獲って毟って焼いて食べたものです。この鳥、とても美味しいんですよ」

「そ、そなた……!」

「毟った羽は魔力付与効果が高かったので、魔導士が魔導素材として色々使用してました」

「……」


 当時の需要がそれで高まって絶滅したと言われているそうです、と聖女はしめくくる。魔王はそんな理由で絶滅したのかと唖然とした。


「そなたも命からがら逃げてきたのだろうか……」

「魔王様がお望みながら、私、腕をふるいますわ!」

「えぇい、やめよ! 食うな! あっちいけ!」


 しっしっと威嚇する魔王に、聖女は衝撃を受けたかのように固まった。


「そんな……! 毎日お世話している私よりも、その鳥のほうが良いと……!? 浮気ですか!?」

「どうしてそうなる!?」


 わぁわぁと二人の声がボリュームアップしたせいか、鳥が羽ばたいた。

 するっと宙に浮き上がり、祭殿の間の天井近くを旋回し、入ってきた窓からするりと外へ出ていってしまう。

 魔王が出ていってしまったではないかと残念そうにするなか、聖女は絶滅種を食べるなんて、さすがの冗談でしたのにと悪びれもなく言ってのける。清廉潔白と言われていた聖女の笑えない冗談に魔王は疲れたようにため息をついた。


 その翌日。

 ここを巣と定めたのか、はたまた居心地がいいのか。

 あの鳥は聖女の目を盗んでは、ひっそりと魔王の頭を止まり木にするようになった。

 聖女がいる時にこないあたり、賢明であるかもしれない。


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