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だんまり

 元聖女は何も語らない。

 ただひたすら毎日、楽しそうにくるくると表情を変えながら、廃墟と化した森の奥深くの神殿にある、祭壇の間で魔王のご機嫌をとり、世話を続ける。


「あー、聖女よ。ここに毎日出入りしているが……生活は良いのか?」

「あらあらまぁまぁ! 魔王様ったら心配してくださるんですが? でもご安心を! 私ったら今世では聖女ではございませんゆえ!」

「冗談だろう。そなたは今も当時に匹敵するほどの聖属性魔力を持っているではないか。我の目は誤魔化せん」


 魔王が半眼で聖女を見上げれば、聖女は笑顔でその言葉を黙殺した。手元にある掃除道具を手にとって、鼻歌交じりに窓を磨きに行く。

 廃墟と化していたこの神殿は、魔王の首が目覚めてからしばらくして随分と清潔になった。宙に舞う埃が太陽の光で煌めくことはなくなり、窓を開けても舞い上がった埃でくしゃみをすることもなくなった。ひとえに毎日清掃を欠かさず行っている聖女のおかげ。


「聖女よ。外界はどうなっておる。我が倒された後の世界などを耳にするのは業腹ではあるが」

「普通ですよ。えぇ、それはもう、とても平和ですもの!」

「ならば我の封印なんぞ、解く必要など」

「そんなこと仰らないでくださいまし!」


 聖女の声が祭壇の間に大きく響いた。

 魔王の首に背を向けて窓を磨く聖女。魔王がその大きな声に意外そうに目を向ければ、聖女は窓を磨く手を止めてしまって。


「魔王様、申しわけありませんが、用事を思い出しましたの! 今日はここでお暇しますわ!」

「あ、ああ」

「それでは、また来ますので」


 笑顔で聖女は掃除道具を片づけると、さっさと祭壇の間を出ていってしまう。

 ぽつんと祭壇の間に残された魔王は、視線だけをぐるりと巡らせて。


「……退屈だ」


 窓から見える日はまだまだ頂点に達してはいない。聖女がいれば常に話しかけてくれるので、飽きることなどもなかったのだけれど。


「退屈で死にそうだな」


 一人で首のままいることのもどかしさに憂鬱が押し寄せた。


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