かわたれどき
湖に映る茜色。
ぼんやりと二人は湖を見つめた。
元聖女と首だけの魔王は何を思っているのか。
日がな一日他愛ないことを話し、言葉が尽きればぼんやりと湖を見る。聖女は食事の支度をし、寝床を整え、野営に備える。
神殿よりも伸びやかに過ごす二人は太陽が沈みきってもなお、木々のさざめきに耳を澄ませ、天上の星空を見上げて、穏やかに過ごした。
聖女は食事を終えると、毛布を敷いて横になり、胸の上に魔王の首を乗せる。
「おい」
「星を見るならこのほうがよろしいでしょう?」
「まぁ……そうだが……」
ふかふかの胸の上に乗せられた魔王が居心地悪そうな声で小さく返事をする。聖女は満足気に頷くと空を見上げた。
「やはり野宿は開放感がございますねぇ」
「そうだな」
「魔王様、寒くはありませんか?」
「そういう聖女こそ、薄着だろう」
「これくらいへっちゃらです」
他愛もないことばかり口をつく。
その中で聖女は今日も魔王の首を愛でる。魔王のつむじをこっそり盗み見てはにんまりとだらしない笑みになる。不穏な気配に魔王はもう慣れっこだ。
「魔王様はどこにもいかないでくださいませね」
「そなたはたまにそのようなことを言うな」
「そのようなこととは?」
「まるで我がそなたを捨てるような口ぶりだ」
聖女の指先が魔王の耳に触れた。左右の耳たぶをくにくにと手持ち無沙汰に指でいじる。
「魔王様は私を一人にしませんよね?」
「首だけの我がどこに行くというのだ……」
「勇者へ浮気したら地獄の果てまで追いかけますから一緒に土に埋まりましょうね」
「おっそろしいな!」
聖女の重たい愛に魔王が抗議の声をあげると、聖女はくすくすと笑う。それからその本心を少しだけ伝えてくれて。
「私は失望されることが恐ろしいのです。神は私を見放しました。勇者は魔王に支配された私を見捨てました。世界は黒聖女だと私を批難しました。でも魔王様は……私を支配してくださいました」
聖女の声は子守唄のよう。
満天の星空の下で、聖女の思いが綴られる。
「支配とはすなわち服従であり絶対。私は魔王様によって生かされ、魔王様によって殺される。それはすべて魔王様の都合でしかない。殺される瞬間ですら命じてくだされるのであれば……最高ではありませんか」
少なくとも、失望されて寂しい思いをしなくても済む。
それが魔王に支配された元聖女の思いだ。




