物語
魔王城の跡地になった湖を前に、首だけの魔王はこう言いました。
「帰るか」
「まだ着いたばかりですが、魔王様」
「いや、だって我の城がないの寂し過ぎて……」
しょんもりとノスタルジックになる魔王に、聖女は拳を突き上げる。
「ここはやはり、建てるしかありませんね」
「建てるとは」
「もちろん! 私と魔王様の愛の巣です!」
「まだ諦めていなかったのか!」
たしかに前にここを訪れた時にそんなようなことを言っていたけれども! と魔王は首を振りたい気持ちになった。
「魔王様は何階建てがよいです? 魔王城は五階建てで地下も三層ほどありましたね。やっぱり同じサイズ感がよろしいです?」
「なぜ地下のことを知っている。まっすぐに我の玉座に来たのではないのか」
「うちのパーティーのマッパーがたいへん優秀でして。マッピング隅から隅まで埋めないと気がすまない性格だったんです」
「つまり」
「魔王様の部屋の前でUターンして全部マッピングしました」
「我の城が赤裸々にー!」
あんな部屋やこんな部屋、プライベートな空間まですべて網羅した勇者パーティだ。当然道中の魔族も片端から殲滅である。道理で勇者パーティの到着報告のあと、なかなか玉座にまっすぐ来なかったわけだと、魔王は悟った。
「勇者がこの辺り、武勇伝にして本を出版したそうですよ」
「本だと?」
「魔王城を湖に沈めた以上、その全貌を知るのは勇者しかいませんから。知りたがった学者のために書き下ろしたのだとか」
「ほう……」
学術的探究心のためならば、自分の城を本にされるのも悪くはない、と一瞬でも思った魔王だったが、よくよく考えてみるとあのひねくれている勇者が書いたという本である。
「……聖女、その本は読んだことあるのか?」
「どうせ勇者の誇大妄想てんこ盛りですから」
聖女も読んでないらしい。となると、無性に気になってくるのが人情というものか。
「次に街に行ったら、読ませてくれないか」
「魔王様が私におねだり! 喜んで!」
後日、あることないこと法螺話だらけの魔王城が描かれた本に、魔王はこんなものが語り継がれてしまうのか……と嘆いた。




