故郷
そういえば、と首だけの魔王が思い出したように聖女へ問いかけた。
「そなたは故郷に帰ったのか?」
「故郷、でしょうか」
言われて、はて、と聖女は首を傾げた。
今の聖女の故郷といえば、この神殿のある森の外の村だ。以前は通っていたものの、今は神殿に住み着くようになった。勇者に追われてから帰っているのか、と聞かれたのかとも思ったけれど、そうでもないようで。
「生まれ変わる前の故郷だ。帰ったのか?」
言われてなるほど、と頷いた。
とはいえ、せっかく聞いてくれたものの聖女は申し訳なさそうに肩をすくめて。
「申し訳ありません。私に故郷はございません」
「ない?」
「聖女とは神殿で生まれるものです。ですので生まれ育った神殿が故郷とも呼べますが……まぁ、勇者がやらかしましたので」
魔王討伐の際、魔王に寝返った黒聖女だと巷では噂になっている。そんな彼女が今更神殿に出向いたところで、迷惑なだけだ。
「むぅ……人間とは面倒だな」
「魔王様の御威光が高いゆえですね!」
「そうか……?」
言いながら、こほん、と魔王は咳払いした。
「で、だな。この話を振った理由だがな」
「はい」
「たまには出かけてみないか? 以前の逃亡生活……あれも、まぁ悪くなくてな」
殺風景な神殿に比べ、毎日が慌ただしく過ぎていった。あれを一度知ってしまうと、神殿にただただ鎮座しているだけというのは暇で暇で仕方がない。
聖女はそういうことならば! と手を打った。
「魔王城の跡地に遊びに行きましょうか。ここから近いですし、私の故郷よりは魔王様も気兼ねなくいられるかと!」
「あぁ、あそこか。よいな。うむ」
とにかく退屈がつぶせるなら何でも良いと魔王がいえば、聖女は張り切って。
「ではまた二人で愛の逃避行といたしましょう!」
「ん?」
なにかおかしな単語が聞こえたなと魔王は思ったが、聖女の勢いはとまらない。
思い立ったが吉日とばかりに魔王の首を抱えた。




