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 そもそも、聖女が魔王を完全に浄化することはもうできない。

 首だけになった魔王ですら、聖女はもう浄化できないだろう。


「私に浄化ができると思ったら大間違いです。私はもう黒聖女なんですから!」

「ねぇその名前、案外気に入ってる?」

「魔王様陣営っぽいので、少し」


 聖女が正直に頷けば、勇者は笑った。魔王は少し渋い顔をしているけれど。


「ねぇ聖女。心変わりはしない? 俺んとこ、戻らない?」

「お断りします。私は魔王様といちゃいちゃするんです。ね、魔王様!」

「好きにすればいい」

「ほぉおら相思相愛!」


 いや、絶対に違うんじゃない? という勇者のツッコミは聞こえやしない。

 聖女は勇者にボコボコにされて痛む身体に治癒をかける。全身の治癒が終わると、聖女が何ごともなかったように立ち上がった。勇者はぱちくりと目を瞬いた。


「治癒はまだできるじゃん」

「規模の問題です。これは私の自己魔力をもとに行っていますが、魔王様を浄化するとなると祈祷も必要になるでしょう。そんなことできませんよ」


 だって信仰心がないのだから、と聖女はぼやく。


「信仰心がなければ聖女の奇跡は起きません。信仰心は長年の研鑽によって積み上げられますから、今の私にはできません」


 完全復活した聖女は、勇者から魔王の首を取り上げた。

 愛おしそうに胸へと抱きしめて、うっとりとした表情になる。


「あああ……魔王様の首……」

「絵面が軽くホラー」

「た、助けてくれ、勇者……」

「魔王に助けを求められるのってしんせーん」


 聖女の胸に埋められて呻く魔王に、勇者はケラケラ笑う。どーしよーかなー、と魔王の助けを無視することにしたらしい勇者は祭壇の上で寝っ転がった。


「聖女はさー、もう神様の声、聞こえないの?」

「聞こえませんよ。じゃなきゃこんなふうに魔王様といっしょにいるわけがないです」

「そっか。いいなー」


 聖女と勇者の会話に、魔王は疑問を覚えたらしく声を上げた。


「そなたたちは神の声が聞こえるのか」

「元、ですけど」

「俺は今も。まるで洗脳みたいなんだよね。だから魔王を倒す。滅ぼす。それだけが生きる意味、みたいな。正直、疲れる」


 いつも飄々とする勇者が大きくため息をついたのを、聖女は意外そうにみた。


「勇者でもそう思うんですね」

「当たり前じゃん。プライバシーの侵害〜」


 魔王はそれを聞いてふと考える。

 神と魔王は対極の存在だ。白と黒、天と地のように相対するもの。神の権能の対極に魔王の権能がある。

 つまり。


「神の信仰は魔王の支配で相克できるのか?」


 聖女が神に背き、魔王に跪いた原因を思い出した。


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