飾り
スライムが敷き詰められた祭壇の間。
その奥の祭壇に腰かけて、勇者は聖女を出迎えた。
聖女は慈愛に満ちた表情で勇者を見つめると、おもむろに杖を掲げた。
「浄火」
「おいまてうわっガチじゃん!?」
聖女の杖から勢いよく火炎が吹き出して、スライムを焼き尽くしていく。勇者は慌てて風の魔法で炎を弾いた。
炎がかき消えた向こうで、聖女は相変わらず慈愛の笑みを浮かべている。
「私の魔王様の首はどこです? 私たちの愛の巣にこんな気色の悪いスライムを飾りつけるなんて、イカれています」
「あんたのほうがよっぽどだけどね? 室内で最大火力の浄化かけんなよー。しかも物理エンチャントで炎ついてるやつだし。おっそろしいなぁもう」
勇者は祭壇の上で立ち上がると、腰にさしてた剣を抜き身にし、祭壇に突き立てる。
「聖女、仕事。魔王を浄化しな」
「お断りいたします」
「断れると思ってんの?」
「もちろんですとも」
「俺たちが転生した理由、ちゃんと分かってる?」
勇者の目が据わる。聖女はゆるりと綺麗な微笑のまま頷いた。
「魔王様が滅されない限り、私たちに魂の安寧はありません。逆にいえば、魔王様を生かす限り、永遠に愛を育めるのですよ」
聖女は杖をひと振りした。かつての聖女では使えなかった物理エンチャント付きの攻撃魔法。炎の玉が勇者に飛んでいく。勇者はそれを軽々と切り捨てた。
「魔王に支配されたせいでイカれちゃったねぇ、聖女ちゃん」
「イカれているのはお互い様でしょう? 遊んでないで本気を出しても良いのですよ」
「そんなことしたら聖女ちゃん殺しちゃう〜」
「殺せばいいじゃないですか。私、来世でまた魔王様と幸せになりますし」
聖女が堂々と言い切れば、勇者は笑った。
「首だけの魔王を後生大事にしてさ、幸せなの?」
「もちろんですとも。我らが主よりもはるかに素敵な方でしたから」
にっこりと笑みを返した聖女に向けて、勇者は剣を横薙ぎにする。
「闇落ち聖女ちゃんを正気に戻すの、面倒なんだけど」
勇者の殺気を正面から受けた聖女は指を組むと、祈った。
「魔王様に勝利を」
魔王軍の聖女と、神の使命を帯びた勇者。
これは魔王と神の代理戦争と言ってもよかった。