たぷたぷ
勇者は魔王の首をもとあった神殿に持ち帰ると、祭壇に魔王の首を置き、その周りにスライムを敷き詰めはじめた。
「おい」
「レッドスラーイム火につよい〜。ブルースライム溺れない〜。イエロースライム高くとぶ〜。グリーンスライム増えやすい〜。ホワイトスライム幻だ〜。個性が色々マーブルスライム〜」
ふんふん鼻歌を歌いながら、たぷたぷとスライムを敷き詰めていく勇者。もちもちぷるぷるするスライムで、祭壇の間の床はおそろしいことになっている。
「おい、勇者!」
「うん?」
「なんのつもりだ! 我を封印するだけだろう! なのになんでこんなにもスライムを……うわっ、跳ねた!」
魔王が抗議の声を上げていたら、イエロースライムがびよんと跳ねてきた。ぎょっと逃げ腰になりそうだったけれど、首だけの魔王は逃げられず顔を引きつらせる。
その様子を見た勇者はケラケラと笑った。
「嫌がらせに決まってるじゃーん」
「我へのか……!」
「いーや、黒聖女」
勇者の意外な答えに魔王は眉を跳ね上げた。
「聖女へ……?」
「そ。あいつ、スライム苦手だし」
聖女はスライムが苦手。魔王は初めて知った。いや、それよりも。
「なぜ聖女に」
「聖女が一番厄介なんだよね〜。妄信的っていうか。たぶん今、神様じゃなくてあんたにつきまとってるんでしょ」
「まぁ、そうだが……」
つきまとうと言われればそうだろう。勝手に封印をといて、勝手に世話を焼いて、勝手に首を持ち出して勇者から逃げ出そうとした。転生してから執着してくるようになった聖女に、若干恐怖を覚えないでもないが、つきまとわれて迷惑と思っているわけでもない。
魔王が胡乱げに勇者を見ていれば、勇者は器用にスライムの隙間をぬって祭壇にまでたどり着く。
「聖女は信仰に盲目的だ。今は信仰の対象がたぶんあんたになってるんだと思う。そんなやつの思考なんて分かりきってる。魔王の封印解かれると困るんだよ」
「……我が人間の脅威だからか」
「そ。まぁ、恨むなら世界の機構を恨みなよ。あんたをそういう風に作った神様にさ」
魔王は信仰心の欠片もなさそうな軽薄さで笑う勇者をじっと見た。
「そなたは神を信じるか」
「いるから勇者をやらされる。だから寝ててよ」
勇者はそう言って、もう一度魔王へと封印を施した。