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置き去り

 恐れていたことが起きてしまった。

 魔王の首が、勇者に盗られた。


「勇者ぁああ!」

「こわっ、聖女こわっ」

「揺らすな! 勇者揺らすな! 酔う! 酔う!」


 勇者も転生していたらしい。勇者の話が聞こえなくなったから油断していた。ひっそりと首しかない魔王の気配を追っていたようで、街に立ち寄った際、まるでスリのように魔王の首が入ったミニチュアの鳥籠を元聖女の杖から抜き盗っていった。


「勇者ぁああ!」

「やべぇって、聖女の顔じゃねぇって」

「揺らすな! 勇者揺らすな! 酔う! 酔う! ……うっ」


 手のひらサイズの魔王の首籠をわしづかんで、勇者は身体能力強化の魔法をかけて猛ダッシュ。聖女は気づいた瞬間追いかける。聖女のほうは魔力ブーストの祈祷を自分にかけて、風魔法で一足の移動速度を底上げしている。魔王は勇者の手の中で嘔吐しかける。


「うわっ、汚い」

「酔う……酔う……」


 人気のない路地に入り込んだ勇者がようやく首籠の魔王に目を向けた。魔王は目を回している。聖女がどれほど気を使って自分を運んでくれていたのかがよく分かった。勇者許すまじ。


「勇者ぁああ……」

「うっわ、すごい禍々しい気配。あれほんとに聖女?」

「私と魔王様のヴァージンロードを邪魔するなんて……結婚式にあなたは呼んでいませんよ……?」

「我ながら黒聖女って名前つけてあげたの、ぴったりだと思うじゃーん。禍々しー」


 ケラケラ笑う勇者が、まるでキーリングを指に引っ掛けでぶん回すように、魔王の首籠の取っ手を指に引っ掛けてぐるんぐるん。魔王は遠心力でダメージを受ける。


「勇者ぁああ!」

「はい、時間切れ」


 聖女が杖を棍棒のように振りかぶって勇者へと殴りかかろうとするも、勇者は満面笑顔で地面を指差す。

 魔法陣が勇者の足もとに広がった。


「転移。魔王の首(おもちゃ)は下にあった場所に戻しましょ〜ね」


 人を小馬鹿にしたようなセリフを置いて、勇者と魔王の姿がかき消える。

 聖女は一人、置き去りにされた。

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