面
森の中にテントを張る。寝袋を敷いて、聖女は魔王の首をそっと置くと、彼に向かって祈りを捧げる。
夜ごとに繰り返されるその儀式めいた祈りに、魔王はいたたまれない。
「常々疑問だが、なぜ我に祈りを捧げる。我に祈っても、何にもならんぞ」
「あらあらまぁまぁ! 何にもならない、なんてことはありません。私の心が穏やかになるのです。素晴らしいことではありませんか!」
今日も十分に祈りを捧げた聖女はにこやかに笑いながら寝袋へともぐりこむ。魔王の首を抱いた聖女の胸元で、もごもごと魔王は主張した。
「そんなに毎日、熱心に何を祈ることがある」
「そうですねぇ、世界の平和でしょうか」
「我にそんなものを祈るな」
「魔王様ならやればできると!」
「やらん! どうせやっても勇者が我を止めるだろう。無駄なことはしない主義だ」
ふん、と鼻を鳴らした魔王に、聖女はその首を持ち上げて自分の視線と合わせた。
「では魔王様、勇者を消しますか?」
「は?」
「どうせ勇者は私たちを追ってきますゆえ……どこかで対決し、勇者を転生できないくらい木っ端微塵にしてみましょうか」
聖女の過激な提案に、魔王はぴたりと口を閉じる。目が本気の聖女に、魔王は目を泳がして。
「……いや、そこまでは」
「いたしましょう? 私、勇者を殺すためのシミュレーションはもう何百と行ってますから、きっと殺れます!」
「恐ろしいな!? それでも神聖な聖女か!?」
「今は魔王様の聖女ですゆえ! 魔王様のためならば悪女にもなります!」
この聖女なら本気でやりかねないと魔王は悟った。魔王がこの聖女を止めることこそ、世界平和に違いないと思いすらする。
魔王はやる気を燃やそうとする聖女の胸に頭を擦り寄せた。とたん、聖女の全意識が魔王の首に向かう。
「ま、魔王様……っ」
「お前が勇者に立ち向かって滅されるのも困る。我を頬っておくな」
「もももちろんですとも! 私、魔王様のおそばにいますゆえ!」
ぎゅうぎゅう魔王の首を抱きしめる聖女に、魔王は窒息しそうになりながらもほっとする。聖女の興味が逸れてよかった。
稀に、聖女から邪気がこぼれ出ることがある。
それが聖職者が魔王とともにいるせいなのかは知らないが……その邪気がこぼれる瞬間の聖女の思考は破滅的なほうへと舵を取る。
本人は知ってか、知らずか。
魔王は聖女の二面性に気づきながらも、言えずにいた。




