流行
森を抜ければそこそこ大きな街についた。聖女は廃墟の神殿に隠されていた少しの宝を換金して、旅費を手に入れた。
「ちゃっかりしているな」
「生きるためですから!」
神殿には装飾壁画や封印のための儀礼道具が置いてあった。少し古いけれど、細工が美しく、中には宝石が嵌め込まれているのもあった。聖女は怪しまれない程度にそれらを古美術商に売りこんだのだ。
樫の杖を抱えて、耳に魔王の首が入った鳥籠が近くになるようにする。ボソボソと話せば独り言を言っている人程度に見えるだろう。
聖女と魔王は賑やかな街の通りを歩く。魔王は初めての人間の街に目まぐるしい。
「うるさいな」
「街ですからね。それなりに大きいところですから、人も多いんですよ」
「さっさと出てしまえ」
にぎやかなところはお気に召さないらしい魔王に、聖女は笑った。笑いながら歩き、当分の旅に必要な物資を買い漁っていく。本当は宿をとりたいところだったけれど、魔王が嫌がっているので今日も野宿の覚悟をした。
さくさくと通りを歩いていると、ふと魔王が声を上げる。
「今日は祭りか何かか? 同じような飾りをつけている人間が多いが」
「あの髪飾りですね。特に祭事はなかったと思いますが……もしかしたら流行っているのかもしれません。あ、ほら、あちらの屋台で売っているようですよ」
聖女はするすると人混みを起用にすり抜け、露天のひとつに立ち寄った。花の模型の髪飾り。値段も手頃だったので二つ買う。
「二つ? そなたが使うならひとつでよかろう」
「いいえ? 魔王様にもつけて差し上げるんです!」
「いや、我は別に」
「魔王様とおそろい、嬉しいです!」
魔王の話にまったく聞き耳を持たない聖女はえへへ、と笑った。魔王はそれに顔をひきつらせる。
別にねだるつもりで口にしたわけじゃない。どうしてそうなるのか、と頭を抱えたくなったけれど、残念ながら今の魔王は首だけ。
その日の夜、野営の地で鳥籠から出された魔王の首に、聖女はさっそくおそろいの髪飾りをつけたのだった。