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 勇者から逃げるべく、廃れた神殿を出た首だけの魔王と元聖女。

 二人は森の獣道を歩いてやがて、湖を見つけた。


「なんだか懐かしい気配がするな」

「懐かしい?」

「ああ。この湖、もう少し近くへ寄れないか」


 樫の杖の先につるした鳥籠から、魔王がそう主張した。聖女は言われたとおりに湖に近づくと、樫の杖を湖のほうへと突き出してみる。ぷらぷらと魔王の首が入った鳥籠が揺れた。

 魔王は目を閉じると感覚を研ぎ澄ませてみる。首しかない彼でも、魔王の力の末端は使えた。大気中の魔力を汲み取って、その懐かしさの招待を感じ取る。

 目を開けた魔王は首を伸ばすようにして湖の中を覗いた。

 綺麗に澄み渡っている。それはもうそこが見えるほど綺麗だった。それはつまり、この湖に生き物はいないということ。湖を濁らせる何ものもないということで。


「聖女よ、ここはもしや、魔王城があった場所か」

「よくお分かりになりましたね」


 聖女は肯定した。それから自分が死んだあと、魔王が封印されたあとの話をする。


「魔王城は勇者の力によって消滅させられたそうです。絶級魔法と呼ばれる大規模魔法を使い、大地ごとえぐられたのだとか。そこに長雨が振り、湖になったと伝わっています。地元のものは死海と呼んでおりました」


 生き物が住めない湖だ。飲み水にできるのかも怪しく、誰も近づかない。神殿ですら近寄らなくなり、もはや忘れ去られた場所だと聖女は思っている。

 聖女は魔王の鳥籠をもとの大きさに戻すと、中から魔王の首を取り出して抱きしめた。


「魔王様、新居はここに建てましょうか」

「は?」

「もちろん、私と魔王様の愛の巣でございます! 私たちの出会いもこの場所、つまりこの地こそ、私たちの運命の場なのでしょう!」

「いや、そういうのは……じゃなくてそなた、まだ諦めていなかったたのか」

「もちろんですとも!」


 朗らかに力説する聖女に、魔王はあきれた。呆れながらも、笑ってしまった。

 自分の城が失われていたことはショックだったが、なんだかどうでも良くなってしまった。

 太陽の光をきらきらと反射する湖面が美しい。そう思えるのは、聖女のおかげだろうか。

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